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2017年7月 8日 (土)

いしもりよしひこ(石森愛彦)著『昆虫って、どんなの?』

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 著者の石森さんと初めてお会いしたのは、今から10年以上前のこと。ハサミムシの話を訊きたい、とのことでわざわざ拙宅まで出版社の方と一緒においでいただいた。
 そのときいろいろお話をしたのだが、自然と接する感覚がボクと近い感じで、気軽にお話できる方だと思った。
 仕事をしている世界が違うので、お会いする機会はそれほど多くないのだが、7年前には子供向きの月刊誌の付録で初めて一緒にお仕事をさせていただいた。

 今年になってから、本の内容をチェックして欲しいと依頼されたのが本書。
 ラフを読ませていただいての最初の印象は、「絵本で昆虫形態学の基礎をやってしまおうという本だな!」ということ。石森さんにそのことをお話したところ、ご本人はそのような目論見でやったわけではなかったとのこと。しかし、ボクの印象が石森さんの無意識の部分を言葉にしたものだとご自身も納得された。

 ボクと石森さんの自然に対する感覚が近いと書いたけれど、見方はかなり違っていて、ボクが虫の暮らしぶりに興味の重点を置いているのに対して、石森さんは虫の形に重点を置いている。
 この本(に限らず石森さんのほかの本も)の虫のイラストは、虫の形を抽象化したものには違いが無いのだけれど、石森さんのイラストは現物に忠実で、基本的な形をデフォルメしたりしていない。だから(だと思うけれど)、精密画ではなくイラストなのだけれど、たいていの場合、種まで同定できる。だからこそ、「昆虫形態学の基礎」の教科書になりえるのではないかと思ったのだと思う。子供向きの本ではあるけれど、だからこそオトナにも役に立つと思う。

 この本には様々な昆虫が登場している。日本産昆虫の目(もく)のレベルで登場していないのはシロアリモドキ目ぐらいではないかと思う。ありとあらゆる昆虫が登場している本は他に例が無いのではないかと思う。虫オタクを自認される方にもオススメする。

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2013年9月25日 (水)

日本昆虫学会第73回大会(2013年9月14日〜16日)印象記

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 2013年9月14日から16日の日程で開催された日本昆虫学会第73回大会に参加したので、印象をまとめておきたいと思う。
 日本昆虫学会第73回大会は北海道大学農学部で開催された。学会で北海道大学を訪れたのは、1986年の日本昆虫学会第46回大会・第30回日本応用動物昆虫学会の合同大会、2004年の日本昆虫学会第64回大会、2009年の第53回日本応用動物昆虫学会大会に続き4回目である。1986年のことははっきり記憶がなく、北海道大学の中の何処で開催されたのか思い出せない。2004年と2009年は旧教養部で開催されたが今回は農学部であった。農学部は広い北海道大学の中でも最も札幌駅に近い場所にあり、北海道大学における農学部の位置の重要性を伺い知ることができる。
 1日目(14日)の午前中は一般講演、午後は学会賞受賞講演と総会、夜はアサヒビール園白石はまなす館に場所を移しての懇親会。2日目(15日)の午前中は一般講演と高校生のポスター発表のコアタイム、午後は3本並列のシンポジウム、夕刻には6件の小集会。3日目(16日)
は午前から午後にかけて一般講演、夕刻に6件の小集会。高校生のポスター発表は、地元北海道の高校のほかは九州の高校だけだったのは何故か?
 大会前日と終了の翌日は良い天気だったが、大会期間中は毎日雨が降り、けっこう激しい雨が降ることもあった。天気の面ではちょっと鬱陶しい大会となった。
 一般講演は主に生活史や生態に関する講演を聴いたが、一部は分類に関する講演も聴いた。2日目のシンポジウムは「昆虫分類学若手懇談会シンポジウム:分類学の過去・現在・未来」、小集会は「第15回昆虫の季節適応談話会」、3日目の小集会は「日本半翅類学会小集会」に出席した。
 ボクが聴いた講演の中で、ボクが面白いと思ったものをいくつか挙げて簡単な感想を書いておきたい。
◎ D106 ヒメマルカツオブシムシの蛹化の概年リズムは同一の親由来の幼虫集団でも見られる(西村知良・沼田英治)
 集団飼育条件でのヒメマルカツオブシムシ(衣類や昆虫標本などの害虫としてよく知られている)は20℃12時間日長の条件で、孵化後25週、60週、100週に蛹化が集中するリズムを示すが、同じ親由来の幼虫でも蛹化にリズムがあり、親個体によってそれぞれの蛹化時期における蛹化個体の比率に変異があるとのこと。非常に世代時間が長い種での調査は大変で骨が折れることだと思った。
◎ C204 石垣島に生息するニイニイゼミ2種の求愛歌の特徴(立田晴記・佐々木健志)
 石垣島に側所的に分布するヤエヤマニイニイとイシガキニイニイの鳴き声の成分を分析することによって、両種を鳴き声によって判別できるとのこと。ボクが石垣島に住んでいた頃、この2種の鳴き声を聞いたことがあるが、同時に2種の鳴き声を聞くことができないことが主な理由で、2種の鳴き声を識別する自信はなかった。ニイニイゼミ類の鳴き声は互いに非常によく似ているが、鳴き声の成分を分析することによって、おそらく他のニイニイゼミ類も識別できるのだろうな、と思う。
◎ C206 アオゴミムシの色彩選好性(榊原充隆)
 ストローに各色のビニルテープを巻き付けたものを隠れ家として2種類ずつ入れておくと、隠れ家に入るアオゴミムシの個体数が見事に異なり、明確に順位がつけられることが示されていた。アオゴミムシにとって隠れ家の色など一見どうでもよさそうに思えるが、はっきり識別しているとしか思えないようなデータが示されると、これには何か意味があると思わなければいけないように思える。
◎ C207 ケムシの「毛」は被食防衛に有効か?(杉浦真治・山崎一夫)
 クロカタビロオサムシ成虫に各種鱗翅目幼虫を餌にして与えたら、「毛」の長い幼虫を与えた場合には攻撃成功率が低く、「毛」が長い幼虫(クワゴマダラヒトリの幼虫)の「毛」を短くして与えたら攻撃成功率が高まったことが示されたことから、鱗翅目幼虫の密な長毛は捕食者に対して物理的な防衛機能を果たしているが示された。「毛」の長い幼虫の「毛」を取り除いて比較するというのは簡単なことだが、これまでにこれをマトモに調べた人は居なかったらしい。ヨーロッパからアメリカ大陸に侵入したマイマイガ(典型的なケムシである)に対して、捕食者であるニジイロカタビロオサムシが導入されたという実例があることを知っていたので、「マイマイガはどうなんや?」と疑問に思ったが、マイマイガは「毛」がそれほど密では長くないため、捕食者に対してあまり効果的ではないとのこと。
◎ C307 クロウスタビガの生態−野外での幼虫発見と営繭場所(三田村敏正・月田禮次郎)
 これまでに知られていなかったクロウスタビガの営繭場所を発見したことの報告。ヤママユガ科の多くの種は樹上で営繭することが知られているが、クロウスタビガは地上に降りて落葉の下などで営繭することが明らかにされた。大型のガの生態がこれまで謎だったことも驚きであるが、それを明らかにしたことも素晴らしい。
◎ C309 ニールセンクモヒメバチによるギンメッキゴミグモの網操作は健全クモが張る休息網を使用している(高須賀圭三・中田兼介・松本吏樹郎・前藤薫)
 ギンメッキゴミグモに寄生したニールセンクモヒメバチがギンメッキゴミグモの行動を操作して網の形を変えさせるという報告。寄生者が寄主の行動を操作するという事例はいろいろ知られていると思うのだが(不勉強なので具体的な事例は挙げられないが)、クモの網の形を変えさせるとは、見事としか言いようがない。

「昆虫分類学若手懇談会シンポジウム:分類学の過去・現在・未来」
◎ 昆虫分類学若手懇談会の40年にわたる歴史から見えてくる展望(三中信宏)
 三中さんの「高座」を聴いたのは初めてかも知れない。これまで40年の日本における昆虫分類学の若手の状況を知ることができて意義があった。
◎ 分類学研究の新しい可能性としての情報技術と情報学(神保宇嗣)
 データベースやインターネットの発展によって、昆虫分類学の展開が変わって、可能性が広がるように感じられた。
◎ ゲノム配列を利用した網羅的系統解析とこれからの分類学(戸田正憲)
 ゲノムやそれに基づく系統のことはよく理解していないので・・・・・
◎ 種多様性解明、それは底知れぬ魅力的な泥沼(丸山宗利)
 若手のホープの丸山さんのこれまでの研究戦略の披露のような感じの講演。さらに若い人には良い刺激になっただろうと思う。

小集会「第15回昆虫の季節適応談話会」
◎ 熱帯昆虫の個体数変動に季節性はあるか?(岸本圭子)
 マレーシア・サラワク州のランビル国立公園でライトトラップで調査したコガネムシ類とハムシ類のデータをもとに熱帯における昆虫の季節性を考察。世代時間が短いハムシ類と長いコガネムシ類を同列に扱うことはよくないと思ったが、まだまだ未知の領域である熱帯における昆虫の季節性の解明には期待したい。
◎ 過変態昆虫マメハンミョウの環境適応(新谷喜紀)
 発育過程で擬蛹になったあとでまた幼虫形態になる過変態という段階を経るマメハンミョウが、条件によっては擬蛹を経ることなく生育する場合もあるとのこと。バッタの卵しか餌としないマメハンミョウにとって、変態の可塑性は重要であるように思われた。
◎ ショウジョウバエの寄生蜂の季節適応(木村正人)
 申し訳ありません。よくわかりませんでした。

小集会「日本半翅類学会小集会」
◎ カメムシ図鑑第3巻の表の話、裏の話、先の話(石川忠・長島聖大)
 20代から90代までの幅広い年齢層の15名の著者の執筆により去年12月に出版された『原色日本カメムシ図鑑第3巻』は予想を上回る売れ行きとのこと。ボクもその中に加わることができて大変嬉しかった。この図鑑の完成までにはいろいろ紆余曲折があり、石川さんのご苦労は並大抵のものではなかったと思う。石川さんの話のなかでは「裏の話」がほとんど無かったのは、ちょっと残念だった。カメムシ図鑑は第3巻まで完成したわけであるが、第3巻には未記載のまま掲載されている種もあるし、その後に初めて記録された種もあるし、将来第4巻を出さないわけにはいかないと思う。この図鑑が出版されたことにより、新しいカメムシファンが増えて、充実した4巻ができると良いと思う。
△ 石川さんの講演の後は、参加者全員による「一人一話」
さらにその後には懇親会もあったが、体調に気を遣って残念ながら欠席することにしたので、懇親会の場所であったかも知れない「裏の話」を聞くことができず残念。

 さて、自分自身の講演だが、タイトルの付け方をもうちょっと工夫すれば良かったと若干の後悔。オオハサミムシの低温発育臨界温度が意外に高いことをもっと強調すべきだった。話は変わるが、この自分の講演は、懇親会の翌日の朝一番。前々回もそうだったし、昆虫学会の大会では応動昆との合同大会を含めれば、これまでの19回の講演のうち今回を含めて4回が懇親会の翌日の朝一番である。前々回はスタッフを除けば7人しか聴衆がいなかったが、今回はその倍以上、20人程度は聴衆がいた。雨が降って虫と採りに行けないので、仕方なく学会会場に来た人が多かったのかも知れない。

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2013年7月14日 (日)

森上信夫著『虫の呼び名辞典』

森上信夫著『散歩で見つける 虫の呼び名辞典』
2013年7月15日発行
世界文化社
ISBN978-4-418-13422-9 C0045
1,500円+税

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目次
春の虫
 モンシロチョウ、ギフチョウ、ほか
夏の虫
 アゲハ、ツマグロヒョウモン、ほか
秋の虫
 キタテハ、モンキチョウ、ほか
コラム
 ナミテントウの斑紋図鑑
 虫たちのカムフラージュ
 身近な夏のセミ
 身近なチョウの幼虫
 カマキリの卵のう

 著者の森上信夫さんから新刊を贈っていただいたので紹介したい。
昆虫写真家である森上さんの「虫の呼び名辞典」というのは、少々意外な感じがした。さいしょパラパラと見た時の印象も、なんとなく意図がわからない感じがした。しかし、あらためて最初から読み直してみたら、面白い着想だということが理解できた。
 虫には名前が付けられている。普通の人が使っているのは「和名」である。和名には、その虫の形態が表されていたり、生き様が表されたりしていることが多いが、中には意味がよくわからないものがある。ボク自身の頭の中では虫の名前はほとんど記号化していて、その意味を深く考えることは無くなってしまっている。
 この本は、身近な虫の名前について、その名前の意味するところを解説している。なかにはよく分からないものもあるが、それは森上さんの解釈の説明がある。これを読んでみると、自分の名前の解釈には色々な思い込みがあることもわかった。ようするに、自分は名前のことを深く考えていなかったということである。
 名前の本だけなら、写真家である森上さんが書くのに違和感を感じるわけだが、それぞれの種のすばらしい写真が添えられている(というか、写真が主役なわけだが)ので、名前が意味するところが理解しやすい。写真だけでも中途半端になっていただろうが、文章と写真が結びついて、完成度の高いものになっている。
 それはともかく、虫の名前の由来を知ることによって、虫への理解がより深まると思われるので、自然観察する人には、本書はお勧めだと言える。しかし、身近な虫でありながらゴキブリが掲載されていないのは、何からの意図があってのことか?

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2012年9月19日 (水)

夜の浜辺にて(2012年9月19日)

 何となく「夜のドライブに出かけよう」という話になって家族揃ってヨットハーバーまで出かけることになった。浜辺に行くということは浜辺にいる虫を見ることができるのではないかと思ったので、カメラと懐中電灯を持参した。
 現地に到着すると、マツムシがいっぱい鳴いていた。津市に来てから夜の浜辺を歩くことなど無かったので、海のすぐ近くにマツムシがたくさんいることなど知らなかった。しかし、マツムシは草の茂みの中で鳴いているので、姿を見ることはできなかった。
 もっと波打ち際に近いところに行くと、オオハサミムシが走り回っているのを見ることができた。昼間に浜辺に行っても、オオハサミムシは物陰に隠れていて、全く姿を見せないが、夜の浜辺のオオハサミムシは全く違っていた。とにかく走り回っていた。実験室内でオオハサミムシを飼育していると、とにかくよく走り回るので、野外でも走り回っていることは容易に想像できたが、それを確認できたのは良かった。
20120919blog02 浜辺にいるオオハサミムシは、内陸の畑地にいるオオハサミムシよりも明らかに明るい色彩である。

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2011年10月 1日 (土)

牛久市周辺&秋葉原(2011年10月1日)

 Tさんの家に泊めていただいて、今朝は「牛久周辺にもいる」というスジハサミムシモドキを求めて牛久市や阿見町周辺を何か所か回った。しかしながら、スジハサミムシモドキは見つからなかった。霞ケ浦まで行けば確実に採れるということなので、またの機会に案内していただくことにした。目指すものは見つからなかったが、ムカゴが採れたので、今日のTさん宅の晩御飯はむかごご飯になったのではないかと思う。
 Tさん宅でお昼までご馳走になって駅まで送っていただいた。次の目的地は秋葉原。アマチュア無線家の集まりに参加するためである。毎月第一土曜日に秋葉原の某喫茶店で開催されている。わざわざそのためだけに出て行く訳にはいかないので、なかなか参加できないが、2009年6月6日にも出張と日程があったので参加したことがあり、今回で二度目である。前の会場の喫茶店は廃業してしまったので、今回の会場の喫茶店を訪れるのは初めてである。普段なかなか半田ごてをいじる時間も持てないが、こういう機会にバリバリ現役でいろいろな工作をされている無線家の皆さんの話を聞けるのは勉強になる。二次会も予定されていたが、帰るのが遅くなるのは体に堪えるので、一次会のみの参加で失礼した。秋葉原の金券ショップでは自由席の値段よりも安い値段で指定席の回数券のバラ売りをしていたので、それを購入して名古屋まで指定席に乗った。名古屋駅で歩く距離が少なくても良いように、と思って11号車を指定してもらった。東京18:30発の「のぞみ117号」広島行き。結果的にはベストではなかったが、まあまあの位置だった。12号車の方がさらに歩く距離が少なくて済んだように思えた。近鉄の乗り場までの距離もそれほど遠く感じられなかったので、普段乗っている自由席の位置から近鉄に乗り換えるのが、いかに長い距離を歩かされていたのかがよくわかった。
 近鉄名古屋20:31発の伊勢中川行きの急行に乗って、21:30過ぎに帰宅。それなりに疲れた。

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2010年9月18日 (土)

日本昆虫学会第70回大会・第1日目(2010年9月18日)

20100918blog1 朝起きてホテルの窓から駅の方を見たが、やはり寂しかった。鶴岡市の人口は13万人ほどあるようであるが、面積も広いので、人口密度は低いのかも知れない。
 朝食を摂りに食堂へ行くとぼくの学位論文の主査をしていただいたF先生に出会った。ここには書けない話を色々うかがう。大学の研究室もなかなか難しい局面にあるようである。食事を終え、F先生と一緒に会場の山形大学農学部へ。
20100918blog2 山形大学の鶴岡キャンパスは農学部だけなのでこじんまりとしている。建物は耐震補強工事が終わっているせいか、古さはあまり感じない。かと言って新しいというほどでもないが。
 午前中は一般講演。ハサミムシをやっていることになっている関係上、朝一番の清水将太さんのハサミムシの講演を聴く。卵の構造の話は普段縁がないので、いまひとつポイントがわからない。その次の講演は奥野絵美さんの中世の遺跡から発掘される昆虫の話。11月に開催される昆虫学会東海支部会でこの講演と関連した話題提供がある予定で、そのコメンテーターを依頼されているので、これまで全く縁のない話だったが、予習のために聴く。そのあと、あちこちの講演会場を渡り歩きながら昼までサボらずに講演を聴いたが、大きく心に響くような講演はなかった。村山茂樹さんのベニボタルの飼育の話は面白そうだったが、話の時間配分に問題があり、面白いだろうと思われたところが十分に伝わらなかったように思えた。
 昼食は学生食堂で醤油ラーメン。280円也。夏に岩手大学の学生食堂で食べた220円の醤油ラーメンの方がずっと美味しかった。
 午後は2つあった公開シンポジウムのうち「必要な人に届けたい昆虫の多様性情報」に出た。五箇公一さんの話は機関銃のような喋りで内容も濃かったが、それだけに話題が広く、本当に重要なポイントがいまひとつわからなかった。三浦一芸さんの話は「分子を利用すれば害虫と天敵の同定は簡単」という演題だったが、ご本人が話されたとおり、「簡単ではない」ということを再確認させられたような気がする。そのあとの戸田正憲さんの話と神保宇嗣さんの話を聴いても、分類・同定ができる人材が圧倒的に不足していることが実感されるだけであった。「生物多様性」の重要性が叫ばれながら、その基礎を支える部分に陽が当たらない(予算が回されない=人が育たない)のは今の日本ではどうしようもないことであろうか?
 シンポジウムのあとは学会賞の授与および授賞講演。今年の学会賞は2人とも若い人だった。森山実さんはセミの話。高須賀圭三さんはクモの寄生蜂の話。どちらもしっかりした内容である。昆虫学会の学会賞は論文賞なので、良い論文を書けば誰にでもチャンスはある。ぼくも頑張りたいが、なかなか落ち着いて論文を書く余裕がない。困ったことである。今年の学会賞の2人には、良い就職が巡ってきることを祈りたいと思う。
 その後は総会。滞り無く、予定通りに議事が終了。いざ、懇親会へ。
 懇親会の会場は泊まっているホテルの別フロア。まずは部屋に荷物を置いて会場へいく。会場に入ると既に大会会長の挨拶が始まっていた。なかなかの熱弁である。
20100918blog3 料理も必要にして十分な量。質もまずまず。スイーツもあり、文句はなし。
20100918blog4 昆虫学会初参加のZikadeさんともツーショット。ご本人の了解を得たので、ここに掲載する。
20100918blog5 懇親会では、話をしたい人とはだいたい話ができたよう思う。会場は参加人数相応の広さで狭さを感じる事もなく、まあまあの会場だったと思う。庄内の地酒がたくさん用意されていたが、下戸のぼくにはあまり関係無いことだった。でも、左利きの人には満足できたのではないかと思う。
 懇親会の席では、このブログの読者からいろいろ声をかけていただいた。学会発表のことを取り上げてくれて嬉しかったという、ぼくにとっても嬉しい声もあったが、エイプリルフールの冗談では、「あれはタチが悪かった」というお叱りの言葉もいただいた。でも、面白いネタがあれば、エイプリルフールには、また何か書いてみたい、などというぼくは、やはりタチが悪いのかも。

 懇親会が終わって、そのまま自室へ。明日は自分の発表がある。ちょっとしたミスがあり、初っ端に講演要旨を訂正をしなければいけない。格好悪いなぁ。明日の天気は悪そうである。気温が上がらない可能性もあるので、上着を持参してきて良かったと思う。

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2010年7月24日 (土)

炎天下の海岸にて・・・・・オオハサミムシ

 昼前、某希少種が見られないかという期待を持ちながら、津市の某海岸に行った。天気は非常によく、歩いていると頭がクラクラしそうだ。
 目指す虫を探すのだが、何処を探したら良いのかポイントがわからず、1時間近く歩き回ったが、結局は見つけることができなかった。やはり希少種なのである。
 もちろん他の虫も探した。打ち上げられた丸太を持ち上げると、その下からオオハサミムシが何頭か出てきた。すると何を思ったのか、2頭の雌がけんかを始めた。オオハサミムシにとってはちょっと迷惑なことをしてしまったかも知れない。
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2010年6月25日 (金)

直翅目以外の直翅類大図鑑の計画と浜口哲一さんの訃報

 昨日「ばったりぎす」(日本直翅類学会連絡誌)145号が届いた。最近はハサミムシとも疎遠になってしまっているが、パラパラとめくって中を読んだ。日本直翅類学会のメンバーが中心になって、2006年には『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』が発行されたが、今度はバッタ目以外の直翅類系昆虫の図鑑を発行しようというプロジェクトが始まるようである。ハサミムシ目以外はあまりわからないので(カマキリ類は種数が少ないのでそれなりにわかるけど)、ハサミムシ目のリストには目を通した。ざっと見ただけだったが、リストから漏れている種に気が付いた。
Prolabisca infernalis (Burr, 1913), Pygidicranidae
和名なし,ムカシハサミムシ科
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 ぼくは西表島で幼虫を、沖縄島北部で成虫を採集したことがある。西表島で幼虫を採集したときは、ハサミムシ科(Anisolabididae)かと思ったし、飼育して成虫が出てきたときもやはりハサミムシ科だと思った。種名がわからず、いろいろ探しているうちに、ハサミムシの分類の専門家の西川勝さんが台湾で採集したという論文を見つけ、それに付けられている図を見て、この種に間違いないと思った。科は思いもよらぬムカシハサミムシ科であった。ここに写真で示したように、短翅型(左)と長翅型(右)がある。
 というわけで、さっそくプロジェクトの仕掛人でリストの作成者であるIさんに「リストから落ちてますよ」という電子メールを送ることにした。


 「ばったりぎす」には一枚刷りの別紙が入っており、本誌の訂正などが書かれていたが、最後に書かれていた訃報のところを見て驚いた。永年、平塚市博物館におられた浜口哲一さんが亡くなられたとのことだ。直接お会いしたことはなかったが、ぼくが石垣島に住んでいた2002年頃に、何かのこと(それが何だったか思い出せないのだが)で電子メールをやりとりすることがあり、それ以来、ことあるたびに個人的なメールマガジンをお送りいただくようになり、それは2004年からは「平塚から」と題されて毎月1回定期的に送られてくるようになっていた。そのメールマガジンには多くの本の紹介があり、参考になるものも多かった。今年の4月まではそのメールマガジンを受け取っていたが、調べてみたら5月のものは受け取っていなかった。ご病気で5月3日に亡くなられたそうである。一度お会いしてお話をしてみたいと思っていた人であるが、ついにその機会は無くなってしまった。非常に残念である。

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2010年5月12日 (水)

じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記

 昨日、ハサミムシのことを調べていてこのブログに出会ったという小学生の女の子から電子メールをいただいた。ダンゴムシが好きで、将来の夢は生物学者になること、とのこと。小学生にして既に日本土壌動物学会の会員とのこと。将来の期待の星ですね。
 ぼくはハサミムシのことはまあまあ知っているけれど、ダンゴムシのことはよく知らないので、ダンゴムシのことをよく知っている人には助言をいただけると嬉しい。
 彼女のブログは「じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記」。

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2010年4月 1日 (木)

真社会性のハサミムシの発見

 英国の権威ある科学雑誌“Science and Nature”の最新号によれば、ついに真社会性のハサミムシが発見されたとのことである。
 ハサミムシは雌が卵を卵塊として産み、卵が孵化するまで卵の世話をすることはよく知られている。これまでに産卵習性が知られているハサミムシには全てこの卵保護習性が知られている。しかしながら、これ以上の高度な社会性を持つものは全く知られていなかった。せいぜい、コブハサミムシの雌が生まれてきた仔虫の餌となることが、より高度な社会性だと言えるに過ぎない。今回の発見は、これまでの常識を覆すものであり、驚くべき発見である。
 熱帯アフリカに棲息するForficuloides afrikanusはこれまで雄しか知られていなかったが、その理由は明らかではなかった。今回の発表によれば、Forficuloides afrikanusは熱帯雨林の地中に巣をつくり、1頭の繁殖雌(女王と言っても良いだろう)と1頭の繁殖雄(王と言って良いだろう)を中心とする社会をつくっており、その他の雌は巣の中で卵や幼虫の世話をし、その他の雄は巣から外に出て餌を狩ってくるとのことである。この種は個体数自体が少ないので、これまでは外役に出ている雄が稀に発見されるだけだったようだ。
 これによって、真社会性昆虫として、革翅目(ハサミムシ目)が新たに付け加わった。

(追記)4月1日のお遊びでした。騙された方にはお詫び申し上げます。でも、楽しんでいただけたのではないかと思います。(追記以上)。

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