研究

2016年4月 7日 (木)

日本昆虫学会第76回大会・第60回日本応用動物昆虫学会大会・合同大会(2016年3月26日〜29日)印象記

前置
 学会誌の編集の仕事で忙しくてブログを書くのが億劫だったり、体調の不良などもあって、ブログをしばらく書いていなかったので、学会参加の印象記を書いていなかったので、本当に久しぶりの印象記である。
 普段この時期は日本応用動物昆虫学会(応動昆)の大会が開催される時期である。普段日本昆虫学会の大会は秋に開催されるのであるが、今年は秋に国際昆虫学会議がアメリカ・フロリダのオーランドで開催され、日本からも多数の参加が予想されるの。そのため、秋の日本昆虫学会(昆虫学会)の大会の開催の時期をずらして、春の応動昆の時期に合わせ、合同大会として大阪府立大学で開催された。一時期、両学会の合併を視野に入れて合同大会が続けて開催されていたが、今回の合同大会は1996年の山口大学以来、実に20年ぶりである。
 会期は普段のそれぞれの単独の大会より長い4日間である。齢も重ねてきたので、会期が長くなるのは疲れもたまってだんだん大変になってきた。

前日(3月25日)
 まずは大会前日の評議員会。ボクは評議員ではないのだが、代理の出席を依頼されて昆虫学会の評議員会に出席した。津駅10:45発のアーバンライナーを予約していたのだが、早く準備ができたので1時間早いアーバンライナーに変更しようと思って津駅まで出たところ、何と満席だった。ホームの特急券売り場に係員がいなかったので、一旦改札を出て外で切符を変更し、11:00発の賢島行き特急にして伊勢中川で乗り継ぐことにした。この賢島行きはそこそこ混雑していたが、伊勢中川で乗り換えた難波行きは4両編成と短かったにもかかわらず、それほど混雑していなかった。
 13:00前に大阪難波駅構内の「船場カリー」で黒いカレーを食べた。イカ墨が入っているそうである。可もなく不可もなくといった感じである。特にリピートしなくなるわけではなかった。
 南海難波駅から13:15発の橋本行き快速急行で堺東駅に出て、とりあえずホテルに荷物を預けてチェックインして、もう一度堺東駅から白鷺駅まで普通電車に乗り、定刻より20分ほど早く会場へ。
 評議員会は法人化を前にして解決しなくてはいけないことがたくさんあり、執行部のみなさんは大変そうである。18:30に終了の予定であったが、議事が終わらず、19:00過ぎまでかかった。評議員の懇親会もあったが、それには参加せず、ホテルに戻った。最寄りの南海白鷺駅から堺東駅まで電車に乗った。夕飯をどうしようかと考えていたところ、堺東駅構内に551蓬莱で「豚まん」を売っていたので、2つ買って夕食にした。やはり551蓬莱の「豚まん」の誘惑には勝てない。
 ホテルに戻りメールをチェックしたら、新しい論文が割り当てられたとの通知が来ていたので、ダウンロードした。こんなことをしていたので、なかなか寝付けず。

1日目(3月26日)
 午前中は両学会の総会。多少時間はずれているが、ほぼ同時並行で開催である。両学会共通の評議員もいるので、ちょっと大変ではなかったか?ボクは前日の昆虫学会の評議員会に出たので、総会は応動昆の方に出て、ほぼ終わってから昆虫学会の総会に顔を出した。
 午後の最初は一般講演4コマ。F→E→E→Fと会場を移った。大型ヒョウモン類の「夏眠」についての考察(低地と高地の間を移動しているだろう、ということ)は的を射ているだろうと思ったのだが、データが少なすぎて何とも言えない。イラクではタマムシによる果樹の被害があるということ、興味深い。
 その後は学会賞の受賞講演があったのだが、それはパスして休憩室で雑談など。
 時間がきたらチャーターバスで懇親会の会場へ。懇親会では「昆虫学会モード」で参加。自分のギョーカイの人とはあまり話をせず、博物館とか分類関係の若い人たちが集まるテーブルに陣取った。ツノゼミの知久さんと初めてお話したのは知久さんが初めて昆虫学会で講演した2014年の広島大学での大会の半翅類学会小集会の懇親会でのことだったが、今回初めてゆっくりお話できた。
 二次会には様々な祝賀会が企画されていたが、それには参加せず、セミの税所さんと一緒に歩いてホテルまで。やはりなかなか寝付けず。

2日目(3月27日)
 この日は応動昆の編集委員会に出れば良い、というぐらいのつもりであった。プレナリー講演はパスして一般講演から、と思ったのだが、最初の講演を聞いてから休憩室へ。さらに子供たちによるポスター発表と「昆虫じまん」の会場へ。三重県総合博物館に出入りしている子供たちのポスターや「自慢の標本」が展示されていることを知っていたが、そこで思いがけずお母さんから声をかけられ、ボクの職場でパートで働いているとのこと。部署が違うとパートさんの顔も知らない人が多いので、こういうことはありえる。息子さんはスズメガが好きということで、スズメガの話で盛り上がった。
 昼休みは応動昆の編集委員会。内容については特に何事もなく終わってしまった。
 午後も休憩室で雑談して過ごす時間が長かったが、夜の小集会に出席するつもりだったので、ホテルには戻らず。休憩室では出身大学の研究室の後輩たち(と言っても年上の後輩がいたり)が集まっていたので、仲間に入れてもらったり。一度ゆっくり話をしたいと思っていた後輩とも色々話ができた。
 小集会の前に腹ごしらえで、大学の門の前にある徳島ラーメンを謳っているラーメン店へ。それなりに美味しかったが、味が濃すぎるので、しょっちゅう食べようと思える味ではなかった。若者向きであろう。
 夜は「応動昆モード」になり、殺虫剤作用機構談話会の小集会に出席。ジアミド系殺虫剤の抵抗性に関してはある程度知っておいた方が良いので、とりあえず情報収集のため。
 会場を出たところ、別の小集会に参加していたと思われるクモの田中さんがいたので、話をしながら中百舌鳥駅まで歩いた。堺東駅構内の551蓬莱の隣にあったお菓子屋さんでシュークリームを買ってホテルに持ち帰った。

3日目(3月28日)
 体調も万全でない上に疲れも溜まってきているが、一般講演で自分の発表もあるので気力を振り絞って会場へ。
 自分は2番目だったが、自分の前は日本人の大学院生さんによる英語の講演。秋のアメリカでの国際昆虫学会議で講演するため、その練習を兼ねているとのこと。自分も一度だけ英語で講演したことがあるが、やはり大変であったと思う。
 自分の講演はキャベツで被覆作物を同時栽培したときの天敵類の発生について。事前に練習したときは16分もかかったのでスライドをかなり削ったところ、13分ぐらいに収めることができた。会場からの質問はほぼ想定内のもの。
 その後、午前中はほぼF会場。シカの死骸に発生する昆虫を調べた研究、ミノムシの蓑の捕食者に対する防衛、セミの羽化日のばらつきが交尾率に与える影響、ニクバエの休眠の臨海日長の性差の進化の研究、いずれも面白かった。
 午後はやはり休憩室にいる時間が長く、ポスターもあまり見なかったが、西川さんのオオハサミムシの地理的変異と分子系統の話は面白かった。Labidura japnicaという名前はLabidura ripariaのシノニムにされているが、種として復活するかもしれないし、南西諸島のオオハサミムシには別の名前が付くかもしれない。
 講演もキャベツの被覆作物としてカラシナや葉大根を使う研究の講演を聴いたぐらい。アブラナ科作物の被覆作物にアブラナ科を使うとは、常識に囚われない面白い発想である。
 夕方の2コマの小集会は「日本半翅類学会小集会」に出てから「昆虫の生物音響学の最前線」の途中まで出た。やはり夜はしんどいのである。税所さんが一緒だったので、堺東駅の地下の食堂街で一緒に食事をした。多少落ち着いた感じの定食屋さんのような店だったが、そこそこ安くて美味しくて満足した。
 やはりなかなか寝付けず。

4日目(3月29日)
 朝一番の長島さんのピンセットの講演を聴くために遅刻しないようにいないといけないので、いつもより早い電車に乗った。朝一番であるのに、この異色の講演を聴きにきた人はさくさんいて驚いた。良い標本を作る時など、良いピンセットを良い状態にして備えておくのは、実は大切なことなのであるが、これまでなかなかこういう情報が無かったのも確かである。
 その後はミバエの繁殖干渉を聴いた。この講演のあと、講演をした本間さんをつかまえて、自分が興味を持っているカメムシの繁殖干渉についての話を聞いてもらった。職場ではこのような話をなかなかできないので、やはり学会に参加する意義は大きい。
 一段落してからI会場に移動して斑点米カメムシの講演を昼まで続けて聴いた。
 昼休みは今野さんと一緒になったので、話をしながら一緒に食事をした。「なぜ陸上生態系は緑色なのか?」という疑問に答える今野さんのモデルの話は面白い。近くEcological Monographs誌に論文が掲載されるとのこと。
 最後は外来種問題に関するシンポジウム。外来種なくして我々の生活が成り立たないという状況の中で、外来種の問題を扱うのは難しいことであるが、意義のあることだと思う。港湾近くでハサミムシが見られるということでスライドにハサミムシの写真が登場したが、コブハサミムシの写真であった。コブハサミムシはそんな場所にはいないはずなので、違和感を感じた。東京の港湾で見つかったヨーロッパクグヌキハサミムシは現在どのような状況なのだろうか?
 個人的な考えでは、外来種すべてを目の敵にするのには違和感がある。是々非々で対応するしかないと思う。未侵入の外来種が国内でどのような振る舞いをするのかは予想がつかないから、外来種問題で最も重要なのは水際での抑止だと思う。既に定着してしまった外来種については、それを駆除する価値があるかどうかで判断せざるをえないと思う。何が何でも根絶させようという原理主義的な考え方には違和感を感じる。

個人的な印象
 このところ分子系統に関する研究が増え、それはそれで悪くないことだと思うのだが、形態や生態などと関連付けられていない「分子系統だけ」しか見ていない研究はやはりダメな研究なのだろうと思う。

帰路
 シンポジウムが終わると知久さんが若い人二人と一緒にいたので、何となく一緒に白鷺駅まで歩いた。二人はいずれも若い大学院生。同じ電車に乗り、堺東駅で乗り換えて難波まで。知久さんは翌日広島で仕事ということだったが、その夜は大阪泊まりとのこと。南海難波駅で別れて、ボクは一人近鉄の大阪難波駅へ。20:30発のアーバンライナーを予約していたが、食事をしても時間が余りそうだったので、20:00発のアーバンライナーに変更。当初からデラックスシートを予約していたので、変更した列車でもデラックスシート。なんばウォークの和食の店で食事を済ませて土産を買ってホームに降りると、発車まで15分ぐらいあったのに、既に入線していた。何と21020系、アーバンライナーNextであった。初めて乗ったデラックスシートが21020系だったのは運が良かったのか悪かったのか。座席はゆったりしていて気分は良かったが、ヘッドレストの位置が良くなく、思ったほど快適ではなかった。アーバンライナーの最前部は(最後部も)展望室になっているので、青山トンネルに入ったあたりから中川の短絡線あたりまで、展望室で前の景色を楽しんだ。青山トンネルの中は初めて見たが、単調な景色が続くので、運転する人も気が滅入るのではないかと思った。

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2014年7月20日 (日)

論文を真似されたことが発覚(2014年7月20日)

 先週のこと、とある必要性があって、ボクが石垣島で勤務していた頃の研究の関連論文をネットで調べていた。するとボクの研究に良く似ている論文が見つかった。オープンアクセスのオンラインジャーナルだったので、早速読んでみた。
 まず引用文献のリストを見てみると、ボクの論文が3編引用されていた(うち2編は英語で書かれたものだが、1編は日本語で英文の要約のみ)。次に内容をざっと読み始めると、すべて自分が行った実験と同じようなことが行われているのがわかった。
 もう10年も前のことなので、詳しいことを覚えておらず、自分の論文を見直してみたところ、件の論文はボクが書いた2編の論文(件の論文には引用されていない)の劣化コピーのような論文であることがわかった。
 引用されている3編の論文を見つけることができたなら、引用されていない2編の論文を見つけられないはずはないので、引用されていない2編の論文を読んでいるにもかかわらず引用していないことが強く疑われた。
 これは研究者の倫理の問題としては極めて重大だと思う。材料の昆虫も同じで、明らかにしようとしていることも同じで、先行研究も見て見ぬふり。日本語で書かれた文献も引用されているが、日本語を読めるはずもなく、「孫引き」をしているのは明らかである。先行研究に関する文献を見つけることも困難な時代ならともかく、文献がネットですぐに読める今の時代にこんなことをするとはマトモな研究者ではないと思う。
 しかしこのことで、図らずも自分の過去の研究が「求められている研究」であることもわかった。他人に真似される研究を行ったことは、自慢すべきことかも知れない。
 この問題に対してどのように対応するかはなかなか難しいので(件の論文を載せた雑誌の編集責任者に通報すれば良い、というものでもないので)、関係者と相談して適切に対処したいと思っている。
 聞くところによれば、この論文の著者の国(どこの国とは書かないが、このオンラインジャーナルを発行している国も同じ国である)では、論文の真似とか二重投稿とか、全く珍しくないという話である。

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2013年9月25日 (水)

日本昆虫学会第73回大会(2013年9月14日〜16日)印象記

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 2013年9月14日から16日の日程で開催された日本昆虫学会第73回大会に参加したので、印象をまとめておきたいと思う。
 日本昆虫学会第73回大会は北海道大学農学部で開催された。学会で北海道大学を訪れたのは、1986年の日本昆虫学会第46回大会・第30回日本応用動物昆虫学会の合同大会、2004年の日本昆虫学会第64回大会、2009年の第53回日本応用動物昆虫学会大会に続き4回目である。1986年のことははっきり記憶がなく、北海道大学の中の何処で開催されたのか思い出せない。2004年と2009年は旧教養部で開催されたが今回は農学部であった。農学部は広い北海道大学の中でも最も札幌駅に近い場所にあり、北海道大学における農学部の位置の重要性を伺い知ることができる。
 1日目(14日)の午前中は一般講演、午後は学会賞受賞講演と総会、夜はアサヒビール園白石はまなす館に場所を移しての懇親会。2日目(15日)の午前中は一般講演と高校生のポスター発表のコアタイム、午後は3本並列のシンポジウム、夕刻には6件の小集会。3日目(16日)
は午前から午後にかけて一般講演、夕刻に6件の小集会。高校生のポスター発表は、地元北海道の高校のほかは九州の高校だけだったのは何故か?
 大会前日と終了の翌日は良い天気だったが、大会期間中は毎日雨が降り、けっこう激しい雨が降ることもあった。天気の面ではちょっと鬱陶しい大会となった。
 一般講演は主に生活史や生態に関する講演を聴いたが、一部は分類に関する講演も聴いた。2日目のシンポジウムは「昆虫分類学若手懇談会シンポジウム:分類学の過去・現在・未来」、小集会は「第15回昆虫の季節適応談話会」、3日目の小集会は「日本半翅類学会小集会」に出席した。
 ボクが聴いた講演の中で、ボクが面白いと思ったものをいくつか挙げて簡単な感想を書いておきたい。
◎ D106 ヒメマルカツオブシムシの蛹化の概年リズムは同一の親由来の幼虫集団でも見られる(西村知良・沼田英治)
 集団飼育条件でのヒメマルカツオブシムシ(衣類や昆虫標本などの害虫としてよく知られている)は20℃12時間日長の条件で、孵化後25週、60週、100週に蛹化が集中するリズムを示すが、同じ親由来の幼虫でも蛹化にリズムがあり、親個体によってそれぞれの蛹化時期における蛹化個体の比率に変異があるとのこと。非常に世代時間が長い種での調査は大変で骨が折れることだと思った。
◎ C204 石垣島に生息するニイニイゼミ2種の求愛歌の特徴(立田晴記・佐々木健志)
 石垣島に側所的に分布するヤエヤマニイニイとイシガキニイニイの鳴き声の成分を分析することによって、両種を鳴き声によって判別できるとのこと。ボクが石垣島に住んでいた頃、この2種の鳴き声を聞いたことがあるが、同時に2種の鳴き声を聞くことができないことが主な理由で、2種の鳴き声を識別する自信はなかった。ニイニイゼミ類の鳴き声は互いに非常によく似ているが、鳴き声の成分を分析することによって、おそらく他のニイニイゼミ類も識別できるのだろうな、と思う。
◎ C206 アオゴミムシの色彩選好性(榊原充隆)
 ストローに各色のビニルテープを巻き付けたものを隠れ家として2種類ずつ入れておくと、隠れ家に入るアオゴミムシの個体数が見事に異なり、明確に順位がつけられることが示されていた。アオゴミムシにとって隠れ家の色など一見どうでもよさそうに思えるが、はっきり識別しているとしか思えないようなデータが示されると、これには何か意味があると思わなければいけないように思える。
◎ C207 ケムシの「毛」は被食防衛に有効か?(杉浦真治・山崎一夫)
 クロカタビロオサムシ成虫に各種鱗翅目幼虫を餌にして与えたら、「毛」の長い幼虫を与えた場合には攻撃成功率が低く、「毛」が長い幼虫(クワゴマダラヒトリの幼虫)の「毛」を短くして与えたら攻撃成功率が高まったことが示されたことから、鱗翅目幼虫の密な長毛は捕食者に対して物理的な防衛機能を果たしているが示された。「毛」の長い幼虫の「毛」を取り除いて比較するというのは簡単なことだが、これまでにこれをマトモに調べた人は居なかったらしい。ヨーロッパからアメリカ大陸に侵入したマイマイガ(典型的なケムシである)に対して、捕食者であるニジイロカタビロオサムシが導入されたという実例があることを知っていたので、「マイマイガはどうなんや?」と疑問に思ったが、マイマイガは「毛」がそれほど密では長くないため、捕食者に対してあまり効果的ではないとのこと。
◎ C307 クロウスタビガの生態−野外での幼虫発見と営繭場所(三田村敏正・月田禮次郎)
 これまでに知られていなかったクロウスタビガの営繭場所を発見したことの報告。ヤママユガ科の多くの種は樹上で営繭することが知られているが、クロウスタビガは地上に降りて落葉の下などで営繭することが明らかにされた。大型のガの生態がこれまで謎だったことも驚きであるが、それを明らかにしたことも素晴らしい。
◎ C309 ニールセンクモヒメバチによるギンメッキゴミグモの網操作は健全クモが張る休息網を使用している(高須賀圭三・中田兼介・松本吏樹郎・前藤薫)
 ギンメッキゴミグモに寄生したニールセンクモヒメバチがギンメッキゴミグモの行動を操作して網の形を変えさせるという報告。寄生者が寄主の行動を操作するという事例はいろいろ知られていると思うのだが(不勉強なので具体的な事例は挙げられないが)、クモの網の形を変えさせるとは、見事としか言いようがない。

「昆虫分類学若手懇談会シンポジウム:分類学の過去・現在・未来」
◎ 昆虫分類学若手懇談会の40年にわたる歴史から見えてくる展望(三中信宏)
 三中さんの「高座」を聴いたのは初めてかも知れない。これまで40年の日本における昆虫分類学の若手の状況を知ることができて意義があった。
◎ 分類学研究の新しい可能性としての情報技術と情報学(神保宇嗣)
 データベースやインターネットの発展によって、昆虫分類学の展開が変わって、可能性が広がるように感じられた。
◎ ゲノム配列を利用した網羅的系統解析とこれからの分類学(戸田正憲)
 ゲノムやそれに基づく系統のことはよく理解していないので・・・・・
◎ 種多様性解明、それは底知れぬ魅力的な泥沼(丸山宗利)
 若手のホープの丸山さんのこれまでの研究戦略の披露のような感じの講演。さらに若い人には良い刺激になっただろうと思う。

小集会「第15回昆虫の季節適応談話会」
◎ 熱帯昆虫の個体数変動に季節性はあるか?(岸本圭子)
 マレーシア・サラワク州のランビル国立公園でライトトラップで調査したコガネムシ類とハムシ類のデータをもとに熱帯における昆虫の季節性を考察。世代時間が短いハムシ類と長いコガネムシ類を同列に扱うことはよくないと思ったが、まだまだ未知の領域である熱帯における昆虫の季節性の解明には期待したい。
◎ 過変態昆虫マメハンミョウの環境適応(新谷喜紀)
 発育過程で擬蛹になったあとでまた幼虫形態になる過変態という段階を経るマメハンミョウが、条件によっては擬蛹を経ることなく生育する場合もあるとのこと。バッタの卵しか餌としないマメハンミョウにとって、変態の可塑性は重要であるように思われた。
◎ ショウジョウバエの寄生蜂の季節適応(木村正人)
 申し訳ありません。よくわかりませんでした。

小集会「日本半翅類学会小集会」
◎ カメムシ図鑑第3巻の表の話、裏の話、先の話(石川忠・長島聖大)
 20代から90代までの幅広い年齢層の15名の著者の執筆により去年12月に出版された『原色日本カメムシ図鑑第3巻』は予想を上回る売れ行きとのこと。ボクもその中に加わることができて大変嬉しかった。この図鑑の完成までにはいろいろ紆余曲折があり、石川さんのご苦労は並大抵のものではなかったと思う。石川さんの話のなかでは「裏の話」がほとんど無かったのは、ちょっと残念だった。カメムシ図鑑は第3巻まで完成したわけであるが、第3巻には未記載のまま掲載されている種もあるし、その後に初めて記録された種もあるし、将来第4巻を出さないわけにはいかないと思う。この図鑑が出版されたことにより、新しいカメムシファンが増えて、充実した4巻ができると良いと思う。
△ 石川さんの講演の後は、参加者全員による「一人一話」
さらにその後には懇親会もあったが、体調に気を遣って残念ながら欠席することにしたので、懇親会の場所であったかも知れない「裏の話」を聞くことができず残念。

 さて、自分自身の講演だが、タイトルの付け方をもうちょっと工夫すれば良かったと若干の後悔。オオハサミムシの低温発育臨界温度が意外に高いことをもっと強調すべきだった。話は変わるが、この自分の講演は、懇親会の翌日の朝一番。前々回もそうだったし、昆虫学会の大会では応動昆との合同大会を含めれば、これまでの19回の講演のうち今回を含めて4回が懇親会の翌日の朝一番である。前々回はスタッフを除けば7人しか聴衆がいなかったが、今回はその倍以上、20人程度は聴衆がいた。雨が降って虫と採りに行けないので、仕方なく学会会場に来た人が多かったのかも知れない。

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2012年11月25日 (日)

石川 忠・高井幹夫・安永智秀 編『日本原色カメムシ図鑑第3巻』

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石川 忠・高井幹夫・安永智秀 編『日本原色カメムシ図鑑第3巻−陸生カメムシ類−』

全国農村教育協会
ISBN978-4-88137-168-8
12,000円+税
2012年12月25日発行
576 pp.(カラー図版128枚)

編著者一覧
林 正美・井村仁平・石川 忠*・菊原勇作・河野勝行・宮本正一・長島聖大・中谷至伸・庄野美徳・高井幹夫*・友国雅章・山田量崇・山本亜生・山下 泉・安永智秀*(アルファベット順:*は編者を兼ねる)

 1993年に発行された「第1巻」、2001年に発行された「第2巻」に続くもので、長い間発行が待たれていた。もう出版されないのではないかと噂されることもあったが、若手の石川 忠さんと、これまでの図鑑でも中心的な役割を果たしてきた高井幹夫さんの努力があって、ついに発行にこぎ着けた。ボクもこの図鑑に関わらせていただくことになったが、最初の原稿を出してから10年近く経ってからの発行なので、実に感慨深いものがある。

 「第1巻」では陸生カメムシ全般、「第2巻」では主にカスミカメムシ科とハナカメムシ科が扱われていたが、「第3巻」は「第2巻」で扱われなかった陸生カメムシの科がすべて扱われている。「第1巻」から分類学的に変更があったものもいくつかあり、とくに「第1巻」ではナガカメムシ科として扱われていた大きな科が「第3巻」では細分化された最新の分類体系に従っている。
 日本産のカメムシ類の研究は未だ発展途上にあり、まだ解明されていない部分も多い。本書は現時点での最新の情報を網羅したものであり、これを土台として、新たな日本のカメムシ相が解明されていくことになるだろうと思う。
 「第3巻」では扱っている科の種すべてについて解説が書かれているが、「第1巻」以降に変更されていない種については写真が掲載されていない種が多いので、絵合わせで同定する場合には「第1巻」も併せて参照することが必要となる。
 12,000円(+税)と決して安い本ではないが、内容を見ていただければ、決して高い本ではないと納得していただけると思う。
 本書についての詳細が書かれている出版社のホームページはこちら。「第1巻」も「第2巻」も現在販売中。

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2012年10月20日 (土)

高桑正敏(2012)『日本の昆虫における外来種問題(3)外来種と偶産種をめぐって』

高桑正敏(2012)『日本の昆虫における外来種問題(3)外来種と偶産種をめぐって』
月刊むし (501): 36-42 pp. (2012年11月号)

 「月刊むし」に連載されている、高桑正敏氏による「日本の昆虫における外来種問題」の3編目である。これまでの2編を読んで、高桑氏が考える「外来種」の概念については違和感を感じていたが、本編では高桑氏によって外来種の定義について論じられているので、ボクなりの感想を書き遺しておきたいと思った。
 高桑氏は、外来種を人為的な移動によるものか自然の営為による移動によるものであるかを区別しようとしている。しかし、生物の移動が、移動の記録が残っているものを除けば、人為的なものであるか自然の営為によるものであるかを識別するのは極めて困難であることを、高桑氏が本編中で認めているにもかかわらず、あくまで外来種を「人為的なものであるか、自然の営為によるものであるか」に基づいて定義しようとしているため、論理的に破綻していると思う。
 本編の註として、高桑氏によるこの考え方が池田清彦氏の『生物多様性を考える』(中公選書, 2012年)の中で糾弾されていると書かれているにも関わらず、それに対する反論にはなりえていないように感じられた。
 自然史の研究からは人為的な影響を排除すべきである、という高桑氏の考え方には理解できないことは無いが、そもそも、われわれが今暮らしている環境には、人為的な影響が全くない場所は、もしあるとすれば人跡未踏の地のみであり、われわれ人間が少しでも足を踏み入れた場所は、人為的な影響を受けているはずである。つまり、人間が自然史を研究しようとした場合に、人為的な影響を完全に排除することは不可能であるため、ある生物種の分布や生態を論じる場合に、人為的であるかどうかに重きをおくことは、大きな実りのあることではないと思われる。
 本編の中で例としてあげられているクロマダラソテツシジミやムラサキツバメが、人為的に植栽された植物を餌として、それらの植物の本来の分布地を離れた場所で発生することについて、「人為的であるか自然の営為であるか」を議論しているが、無駄なことであると思う。
 既にわれわれは、高桑氏の言わんとする「本来の自然」を知ることは不可能であるから、その生物の分布が「人為的であるか自然の営為であるか」を議論することは論理的にはなりえないと思う。
 生物は本来、人為的であるかどうかにかかわらず、移動する性質を持っている。分布も固定的なものではなく、時間とともに変動するものである。その変動が「人為的であるか自然の営為であるか」にこだわって「外来種と考えるかどうか」を考えるのではなく、ある生物が「どんなメカニズムで移動したのか」を追求する方が「科学的」と言えるのではないだろうか?
 とにかく、高桑氏は「本来の分布」が存在するという古い凝り固まった概念に囚われすぎていると思う。生物は移動するのだから、「本来の分布」など定義できるはずがない。

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2012年10月16日 (火)

福島県のヤマトシジミに関して・追記(2012年10月16日)

 前のエントリーで、ろくに論文を読みもせず、間違ったことを書いてしまったことには、少々反省している。
 しかし、今になって大瀧准教授のグループがヤマトシジミの標本を集めようとしはじめたことについて、やはり腑に落ちない部分がある。メールの文面を見ると、かなり慌てている様子が感じられたので、やはり件の論文(何故か今これを書いている時点でエラーになって読めなくなっている)について多くの批判が寄せられたので、それに反論するためであろうということは想像がつく。だとすれば、世間を試そうと思っていたのではないかという考え方は的を外していたような気もする。とにかくある程度の注目を集めることによって、今後の研究費の獲得に有利になるようにと目論んだが、想定外の反響があって慌ててしまった、というところが真相のようにも思える。だとすれば、当初の計画はかなり杜撰だったとも言える。
 それはともかく、福島の放射線の問題はナイーブな問題であるだけに、良心的な研究者であれば、発表にはもっと慎重であると思うし、突っ込まれることが明らかな穴があるような論文など発表しないと思う。
 大瀧准教授のグループの依頼に協力する人は皆無ではないと思うので、今後大瀧グループから福島のヤマトシジミに関係した新たな論文が発表される可能性は無いわけではないと思う。どんな論文を発表するのか、注目していたいと思う。

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2012年10月14日 (日)

福島県のヤマトシジミに関して(2012年10月14日)

 今年の夏頃、琉球大学の大瀧丈二准教授のグループによる、福島県のヤマトシジミの異常に関する論文が話題になった。(論文はこちら、2012年10月16日追記)ごく簡単に内容を紹介すれば、原発事故後の福島県のヤマトシジミには、斑紋や生育に異常がみられる、というものである。
 しかし、この論文は話題性を獲得しようとした意図に満ち満ちている論文に感じられた。
 詳しくは知らないが(というかアマチュアの蝶屋の間ではほとんど無名だと思われる)、大瀧准教授は発生学が専門のようである。大瀧准教授は、この福島のヤマトシジミの異常に関する論文の前に(原発事故が起こる前の話である)、ヤマトシジミの北限に近い東北地方の個体群には、斑紋に異常が出易いという論文を書いている。(論文はこちら、2012年10月16日追記)
 ということは、福島のヤマトシジミに異常が多いのは、放射線の影響によるものなのか、温度の影響によるものなのか、対照(コントロール)がなければ判断ができないはずである。しかし、福島のヤマトシジミの異常に関する論文で対照にされた個体群は、福島より南の地域のものばかりである。それにもかかわらず、大瀧准教授は、ヤマトシジミの異常は放射線によるものだと結論づけている。これは明らかに科学的ではない。
 さらに、今日になって、原発事故が起こる前の東北地方のヤマトシジミを含む、全国各地のヤマトシジミの標本を集めたいので協力して欲しい、という内容の電子メールが、とある筋を通してボクのところに届いた。
 これも、科学的な研究の順序としては逆である。と言うか、それをやったところで、福島のヤマトシジミの異常が放射線によるものかどうかを結論することは不可能に近い。なぜなら、それぞれの地域のヤマトシジミは、それぞれ異なった環境からの放射線以外の影響を受けているからである。
 本当に放射線の影響があるかどうかを確かめようと思うなら、もっと直接的に、飼育しているヤマトシジミに放射線を照射して、その影響を見てみたら良いのではないかと思う。大瀧准教授が所属している琉球大学に放射線照射のための施設があるのかどうか知らないが、沖縄県にはウリミバエの根絶に大きな役割を果たしたミバエ対策事業所のガンマ線照射施設がある。これを簡単に使わせてもらえるかどうか知らないが、不可能というわけではないと思う。いずれにせよ、放射線の影響を明らかにするなら、こちらを先にするのが近道に違いない。(事実誤認により抹消。2012年10月16日)
 大瀧准教授の意図はわからないが、「有名になりたい病」に冒されているような気がする。
(さらに以下2012年10月16日追記)
 この大瀧グループの論文について、世間を試しているのではないか、という見方もあるらしい。こちらを読んでいただきたい。

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2012年9月22日 (土)

日本昆虫学会第72回大会(2012年9月16日・17日)印象記

 東京都町田市にある玉川大学で9月16、17日に開催された日本昆虫学会第72回大会に参加した。ボクは評議員ではないのだが、代理出席を依頼されていたので、その前日の15日の午後に玉川大学入りした。日本昆虫学会の評議員会は、各地域の支部選出の評議員が、各地域から最低1名が出席していないといけないという規約があり、東海地域の評議員が0になってしまう可能性があるから出席して欲しい、ということで依頼されたわけである。
 15日に玉川大学に着いたときは、蒸し暑くて、駅から大学までのダラダラの上り坂を歩いていると汗が噴き出してくるぐらいだった。しかし、評議員会の会場になっている教室に入ると、冷房が効いており、寒いぐらいだった。議事は滞り無く終了した。夕方5時半頃、評議員会を終えて外に出るとヒグラシの鳴き声が聞こえた。その他にも玉川大学ではアブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシの鳴き声を聞いた。
20120916blog01 16日からが学会の本番である。16日の午前中は一般講演。主に生活史関係の発表が行われる会場にいた。
◎C102 山崎和久・Schüte Kai・名和哲夫・土田浩治「ムネアカハラビロカマキリ(仮称)の日本からの発見と分布に関する報告」
 ハラビロカマキリに近縁なハラビロカマキリよりも大型の日本未記録種が岐阜その他数か所で発見されたという発表である。こんな大型種がこれまで気付かれずにいたというのは驚きである。ハラビロカマキリよりも大型で前胸が長く、胸部の腹面が赤色を帯びているので、ハラビロカマキリとの識別は難しくないと思われる。もともといた種なのか、移入種なのか、興味惹かれる。
◎D108 横地亮祐・三浦一芸・山岸健三「ミンミンゼミの形態的・地理的変異と遺伝子変異について」
 ミンミンゼミは斑紋や色彩の変異に富む種であるが、それの遺伝的変異を調べた研究である。が、遺伝的変異はほとんどない、ということであった。ミンミンゼミとクマゼミは棲み分けているという通説があるが、愛知県の知多半島にある美浜町では、両者が混棲する地域があるという言及があった。発表者の横地氏は広島大学の大学院生であるが、同じ広島大学に勤務していてセミの図鑑の著者でもある税所康正氏とは全くコンタクトしていなかったらしい。同じキャンパスにいるのにもったいない話である。

 午後の最初はアメリカ昆虫学会の会長のG. C. Brown氏による研究の国際連携に関する講演。アメリカ昆虫学会からは日本昆虫学会に対して、学生会員の相互会員制度が提案されており、その宣伝でもあったようだが、随所に日本語のスライドが使用されているにもかかわらず(「Google翻訳」を使ったそうである)、英語を聞くのが苦手なボクには内容を十分に理解できたとは言えない。情けないことである。

 次は学会賞受賞講演2題。
◎上村佳孝・三本博之「Comparative copulation anatomy of the Drosophila melanogaster species complex (Diptera: Drosophilidae).
 ハサミムシの交尾器の形態の進化を得意とする上村氏がショウジョウバエの交尾器についても優れた論文を書いているところがすごい。
◎丸山宗利・小松貴・R.H.Disney「Discovery of the termitophilous subfamily Termitoxeniidae (Diptera: Phoridae) in Japan, with description of a new genus and species.」
 アリやシロアリの巣に見つかる昆虫を得意とする丸山氏が日本産のシロアリの巣からもノミバエを発見したという興味深い発表である。

 次は総会。議事は滞り無く進行し、九州大学名誉教授の湯川淳一先生が名誉会員に決まった。

 さらに、大会主催のシンポジウム「昆虫の社会的貢献」。
◎Y. J. Kwon「Role and contribution of entomology for public in Korea」
 韓国昆虫学会の会長による、韓国の事例の紹介であった。マルハナバチが授粉昆虫として利用されていることなど。
◎中村純「みんなが知っている昆虫ミツバチは本当によく知られているか」
 ミツバチは、よく知られているようで実は誤解されていることが多い、という事例の紹介であった。一度誤った理解が定着してしまうと、その誤解を解くことはなかなか困難である、とのこと。この話を聞いて、「カマキリの雪予想」の話を思い出してしまった。
◎松浦健二「シロアリ研究における基礎と応用のフィードバック」
 新進気鋭のシロアリ研究者、この春、30代にして京都大学昆虫生態学研究室の教授に着任した松浦氏の講演は面白かった。緻密な観察に基づいた基礎的な研究から、シロアリの新しい防除法の開発に至るまでのワクワクさせられる話だった。松浦氏の今後の研究の発展を期待させられる内容であった。

 夕刻終了したシンポジウムの後は懇親会。大学内の食堂で開催された。懇親会の料理は学会の印象を大きく左右するだけに、学会で最も重要なプログラムだと言っても良いかも知れない。今回は去年の松本大会のように料理が足りなくなってしまうようなことはなく、落ち着いて話をしながら食事をすることができた。料理の質は素晴らしかった2009年の三重大会のように、これと言って高いわけではなかったが、最後に玉川大学特製のハチミツ入りアイスクリームが出たところは良かったと思う。
 このあと二次会には参加せず、おとなしく町田市内のビジネスホテルへ。町田の駅前は異様に人口密度が高く、息苦しさを覚えた。

 学会2日目の午前中は2本の公募シンポジウムが同時並行で開催された。ボクは「ネオバイオミメティクス:昆虫学と工学の協調」に出席した。昆虫の形態や機能を模倣した技術が様々な用途に利用されつつあることが紹介された。普段はあまり聞かない内容の話だったので、目新しさもあり、面白かった。

 昼休みには会場で売られていた玉川大学ブランドのハチミツを買った。何種類かあったが、それほどお安くなかったので、いくつも買うことは躊躇させられ、結局、「ソバとシナノキのハチミツ」を1つだけ買った。
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 学会2日目の午後は一般講演。この日もやはり生活史関連の講演が行われる会場にほとんど張り付いていた。ボクはC213の講演で「ヒメジュウジナガカメムシの生活史に関する若干の知見」という演題で、このブログに断片的に書いてきたヒメジュウジナガカメムシの観察記録をまとめて話をした。オチの無い話ではあったが、京都大学名誉教授の藤崎先生から「秋にガガイモの種子に来ているカメムシはヒメジュウジナガカメムシではないのか?」と質問され、「多分そうだと思うが、ヒメジュウジナガカメムシは、種子がなくても、茎葉からの吸汁だけで繁殖ができるところが生活史戦略的にみても面白いところだと思う」と答えた。
 一般講演の後は小集会。参加したい小集会が2つ重なってしまい(と言うか、今回の大会では会期が2日間と短いために、小集会の時間帯が1つしかないのがそもそもの問題であるわけであるが)、よく考えたあげく、「日本半翅類学会小集会」の前半に出席したあと、「第14回昆虫の季節適応談話会」の後半に出席することにした。
 「日本半翅類学会小集会」では、北九州の小倉高校の高校生によるクワキヨコバイ類に関する研究発表があった。奥寺繁さんの指導のもと、今年の春から研究を始めたばかりだと言うことだが、しっかり調査されていると感じさせられた。
 「第14回昆虫の季節適応談話会」では田中誠二さんの「亜熱帯昆虫の休眠の意義と進化」の話を聴いた。季節適応としての休眠は温帯地域を中心に研究されてきており、亜熱帯地域の昆虫における休眠はまだ十分に研究されているわけではない。田中さんは自身の豊富な亜熱帯地域での研究経験をもとに、いくつかの昆虫(クモを含む)の亜熱帯地域における休眠の適応的意義について解説した。ボク自身、石垣島に暮らしていた経験から、亜熱帯地域の昆虫の生活史に深く興味を抱いており、納得させられる話が多かった。

 小集会の終了後は、再び「日本半翅類学会」のメンバーと合流して、町田市内に繰り出して飲んで(ボクはノンアルコールビール)いろいろ虫談義に花を咲かせた。世界でも片手で数えられるほどしかいないハサミムシの分類の専門家のNさんが参加していたので、ハサミムシの話をたくさんした。まだ、日本のハサミムシには分類学上の問題がたくさん残されているようである。

 学会の最中は天気が不安定で、突如として激しい雨に降られたりと、けっこう大変であった。18日の朝に帰路についたわけだが、ボクが乗った新幹線は何事も無く無事に名古屋まで着いたが、少しあとの新幹線は岐阜羽島と米原の間で運転が見合わせになったので、名古屋に着くのも大変だったかも知れない。とにかく、昼過ぎには無事に自宅に帰り着き、自宅で昼食をとった。

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2012年6月17日 (日)

第17回農林害虫防除研究会新潟大会@ホテルニューオータニ長岡(2012年6月14〜15日)

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 入会するきっかけを逸していて未だに非会員なので、これまで大会に参加したことがなかった農林害虫防除研究会の大会に参加してみた。入会を逸していた理由は、この研究会が設立された理由のひとつが、「日本応用動物昆虫学会と日本昆虫学会の合併が協議されていた頃、合併に反対していた日本応用動物昆虫学会の会員を中心に、応用関係、とくに都道府県の試験研究機関の職員が参加し易いようなものにしよう」ということだったらしいので、結局、合併が不調に終わり、日本応用動物昆虫学会だけで十分ではないかと考えていたからである。というわけで、今回が初参加である。
 今回の大会は「カメムシ対策のこれから〜カメムシ類の加害種変動とつきあい方〜」というシンポジウムの講演4題と、一般講演25題であった。
 シンポジウム「カメムシ対策のこれから〜カメムシ類の加害種変動とつきあい方〜」では斑点米カメムシに関する講演3題と、最近南方から分布を拡大しているミナミアオカメムシに関する講演1題があった。ボクはこれまで稲作の害虫の研究をしたことがないので、斑点米カメムシは自分では研究対象にしたことはないが、種子食性のカメムシの生態は面白いと思っているので、それなりに興味を持って聴いた。水稲害虫の防除は、一頃と比べると相当な程度に「減農薬」が進んでいて、斑点米カメムシに対する防除も1回きりの場合がほとんどである。その1回の防除をいつ行うのが効果的か、というのが現在の中心的な研究課題になっているように思える。斑点米の問題については、コメ1000粒に1粒の斑点米が混じっただけで「等級落ち」する制度が防除を減らせない原因になっていることは確かなので、これも何とかならないものかと思う。今回の講演は、そんな中で努力されていることの内容の紹介であった。ミナミアオカメムシは様々な作物を加害してイネも加害するが、ダイズでの被害が大きい。ここ数年の急激な分布の拡大について紹介されるとともに、その分布の拡大の要因について考察された。
 一般講演25題のうちの3題は「地元枠」ということで、地元新潟県の非会員による講演があった。地元枠での講演は、新潟県におけるさまざまな害虫の防除に関する取り組みが紹介された。その他の一般講演は、「日本応用動物昆虫学会」のような本格的な学会で発表される内容とは若干傾向が異なり、まだ最終的な結論の出ていない研究途中の紹介のようなものが多かった。奈良県の国本氏による「農薬の包装、ラベルの表示について」の講演は先月の「関西病虫害研究会」の大会で講演されたもの(別の会場の講演を聴いていたので聴けなかった)と重なる部分が多かったとのことであるが、漂白剤や医薬品などと比べると農薬のラベル表示の注意書きが小さいのでもっと大きくすべきである、という意見には同意できる。
 1日目の夜には「情報交換会」という名の懇親会があり、発生予察用フェロモン誘引剤についてMさんからいろいろとお話をうかがった。懇親会の料理の量はちょうど良いぐらいかやや少なめという程度であったが、「ニューオータニ」という名前から期待されるほどの味ではなかったように思えた。
 大会の運営に当たられた新潟県在住の会員の皆さんには有意義な会を開催していただいたことにお礼申し上げたい。
 来年は奈良県で開催される予定である。

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2012年5月28日 (月)

関西病虫害研究会第94回大会@和歌山ビッグ愛(2012年5月24日)

 ちょっと遅くなってしまったが、研究集会参加の印象を書き遺しておきたい。
 和歌山市の和歌山ビッグ愛で開催された関西病虫害研究会第94回大会に参加した。今回は自分の講演はなく、ボクの職場にこの研究会の事務局が置かれている関係上、若干の裏方としての仕事をして、あとは講演を聴いたのみである。
 会場の和歌山ビッグ愛は、市の中心部からはやや外れた場所にあるので、駅から歩くと20分ほどかかって、すぐ近くには店も少ないのでやや不便ではあったが、同じ建物の中に奇麗でそれほど高価ではないホテルがあるのは便利であった。
 今回の研究会では虫害関係19題と病害関係11題の講演があった。会場は虫害関係と病害関係2か所に分かれていたが、途中からは虫害関係の講演が同時並行で進行する形になった。ボクはもちろん虫害関係の講演会場にいた。
 この研究会での講演は、ほとんどが関西東海地域の府県の農業関係試験研究機関の研究者によるものである。ということで、ボクら独立行政法人研究機関に所属する者にとっては、地域で問題になっている病害虫の情報を得るために重要な機会になっている。
 様々な講演があったが、特筆されるのは、オオタバコガに関する講演が4題もあったことである。オオタバコガの幼虫は様々な野菜を加害するが、ナスやトマトなが果実の中に、キャベツなら結球部の内部に食入するため、外部から見て被害があることを確認できないことや、産卵が1卵ずつバラバラにあちこちに行われるため、被害の予想をしずらいことや、殺虫剤に対する抵抗性を獲得していることや、成虫が大きな移動性を持つことなどから、被害を予想や予防することが困難な害虫になっている。いまボクもオオタバコガの発生予察の基準作りのための調査を行っているが、なかなか手強い害虫だと感じている。
 その他は、様々な土着天敵の利用に関する講演も4題あった。殺虫剤に対する抵抗性を獲得してしまった害虫に対する防除方法として、天敵の利用は有効な手段であり、最近は圃場の生物多様性を高め、土着天敵を有効に利用できる管理法を開発しようという研究の一つの大きな流れがある。
 同時並行で開催されていたため、自分では聴けなかったが、風変わりな講演が一つあった。それは、農薬のラベルに示されている注意事項が書かれている部分の大きさを、家庭用塩素系漂白剤、タバコ、医薬品と比較調査したものである。その結果、農薬の注意書きの部分の面積は、医薬品と同等に小さいため、専門的な知識を持つ職員による相談が可能な条件で販売すべき商品であると結論づけられた。
 今回は講演の題数が例年よりやや少なかったように感じられたが、和歌山が東海近畿地域の中では地理的に中心からやや遠い場所にある関係かと思われた。
 開催県である和歌山県の皆さんには研究集会の運営で大変お世話になった。お礼申し上げたい。
 来年は滋賀県で開催される予定である。

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