川道美枝子・岩槻邦男・堂本暁子 編『移入・外来・侵入種−生物多様性を脅かすもの』
築地書館
ISBN4-8067-1234-5
2,800円+税
2001年12月25日発行
321 pp.
目次
まえがき(岩槻邦男)
1 生物多様性はなぜ守られなければならないか−移入種問題の視点から(堂本暁子)
2 移入種、何が問題なのか(川道美枝子)
3 世界自然保護連合(IUCN)の侵略的な外来種に対する取り組み(M・デポーター、M・クラウト)
4 二一世紀の植物相と移入種(デビッド・ビッフォード)
5 侵入する水生植物(角野康郎)
6 昆虫の世界で起こっていること(森本信生)
7 魚類における外来種問題
8 両生爬虫類の世界で起こっていること(太田英利)
9 絶滅か分布拡大か−鳥たちの明日(竹下信雄)
10 移入哺乳類はどこまで世界を変えたか(川道武男)
11 法律による移入種からの防衛(高橋満彦)
12 水際で病害虫の侵入を防ぐ
植物検疫の現状(森本信生)
動物検疫の現状(川道美枝子)
13 日本は現状の防疫対策で狂犬病の再発を防げるのか(源 宣之)
14 水際の防衛、危険予測は可能か(小池文人)
15 移入生物とわが国の生態系保全(岩槻邦男)
コラム
・輸入牧草や穀物がもたらす非意図的導入(黒川俊二)
・貝類の世界で起きている異変(中井克樹)
・ノヤギ、マングース、アライグマ、タイワンザルの現状(常田邦彦)
・ニュージーランド・検疫犬の活躍(川道美枝子)
用語解説
あとがき
資料・世界の外来侵入種ワースト100
種名索引
事項索引
生物多様性に関する理解がまだ足りないので、いろいろな本を読んでいろいろな考え方があることを知りたいと思っている。本書は2001年と出版年がやや古いが、生物多様性と外来種の問題は深く関連しているので読んでみることにした。
ボクは「外来種によって在来種が駆逐されてしまうことがどのように問題なのか」ということを第三者を納得させることができない。ボク自身は外来種はいない方が良いと思っているし、これ以上外来種が増えて欲しくないと思っていることは、最初に書いておきたい。
外来種が入ってきて在来種を駆逐してしまうということは、生態系の中である在来種は占めていた地位がある外来種と入れ替わってしまうことだと理解して良いと思う。そのことで何か「人間にとって」都合が悪いことがあれば、それは問題として認識され、それなりの対策がとられることになると思うが、そうでなければ気付かずに済んでしまうかも知れない。要するに、生態系としてそれまでどおりに機能していれば、問題にはならないのではないかと思う。
生態系のバランスが崩れることによって、ある特定の種の個体数が異常に増えたりすることは、何も外来種だけに関係することではない。もちろん、そのような現象は外来種の方が目立つのは確かだと思う。ここ数年のこと、青森県の落葉樹林でアカシジミというかわいらしい在来種の蝶が異常なほど多数発生していることは愛好家の間ではよく知られている。生物の異常発生という観点から、このアカシジミの大量発生はまさに滅多にない出来事だと思うが、これを問題だと捉えている人はいないと思う。これはアカシジミが在来種だからというわけではなく、経済的にはほとんど価値がない種だからということなのだろうと思う。ニホンザルやニホンジカなどが問題にされているのは、経済的な被害が発生しているからである。
本書を十分に納得できないままずっと読み進めていたが、最後の岩槻氏が「・・・100万年単位の種形成を基本に進む自然の進化にはマイナスの要因を抱え込んでいると論じても、今日の経済的な功罪でしか物事を判断できない現代人には夢を食うような話にしか聞こえないようである。実際は、孫子の世代まで生物多様性を持続的に利用しようとすれば、生物多様性の総体の未来を予測しなければならないのに、そのような話は現実離れしていると、現実を直視しない人たちが一蹴してしまう。だから、移入種の問題を論じる場合も、今すぐ死ぬ、今すぐ資源が枯渇するというような、大袈裟な話を持ち出さないと聞いてもらえないのである。」と書いている文章に出くわして、環境保全の問題が理解されていない理由がわかっていないわけではないことがわかった。伝染病の問題を出す事は「脅し」になるとボクは感じていたので、科学的な態度ではないと思っていたが、そこまでしなければ理解されない世の中は「どうしようもない」ところまで来ているようにも思える。「脅し」と「騙し」が横行する世の中は嫌なものだ。
最後まで読んでこの本の印象がちょっと変わったが、本書は読む価値がある本だと思えた。ただし、「移入・外来・侵入種」という言葉自体もひとつの「脅し文句」だと思う。移入・外来・侵入種に限らず、生態系のバランスを崩すことすべてが問題だと思うから。
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