平川克美 著『株式会社という病』
平川克美 著『株式会社という病』
NTT出版
ISBN978-4-7571-2198-0
1,600円+税
2007年7月27日発行
238 pp.
目次
まえがき
第一章 経済的人間 大きくなり過ぎた経済のちから
株式会社とは誰のことか/跋扈する経済的人間/専門書は人間の内面と会社の関係について教えてはくれない/合理性の限界/株式会社の奇妙な性格/フリードマンとスミス/病の両義的な効用/利便性の尺度と異なる豊かさの尺度/所有と経営の分離の起源/所有者の利害と経営者の利害
第二章 信憑論 かれらが会社を愛した理由
会社が輝いていた時代/消えた国民的時間/もしも会社がなかったら/渦中には見えない時代の変換/商品となった会社/職人のエートスとロイヤリティ/残り続けたお家の風土/互酬的共同体の崩壊/会社信仰の黄昏
第三章 幻想論 欲望がつくりあげた幻想
不条理な会社の命令/会社が会社である理由/利益共同体としての会社/人は自ら設定した枠組みの中で思考する/会社には人間の欲望が刻印されている/もともと反社会的だった株式会社
第四章 因果論 結果は原因の中にすでに胚胎し、原因は結果が作り出す
欲望を駆動する他者/ウロボロスの輪のような原因と結果/事故の「内部化」/他者が誘発する欲望/利息の起源/欲望の共同体と無償の贈与/病の発症−不二家の場合/病の発症−ライブドアの場合
第五章 技術論 『ウェブ進化論』では語りえないこと
ビジネスを変えたインターネット/進化論のあやうさ/インターネット技術と人間関係/インターネットと金融の結合
第六章 倫理論 『国家の品格』と日本人のなし崩し的な宗旨替え
集団的な宗旨替え/落語が伝える見えざる価値/金で買えないもの/近代合理主義とプロテスタンティズム/『国家の品格』に品格なき立ち位置/言葉が欠いてはならない節度/苦難の共有と、会社のエートス
解題と方法 あとがきにかえて
この本の著者である平川克美氏の「移行期的混乱 経済成長神話の終わり」を読んで、この人の他の著書を読んでみたいと思って図書館で借りてきて読んだ。
今世紀に入ったあたりから企業による不祥事が相次ぐようになった。本書では「不二家」と「ライブドア」の事例が取り上げられているが、思い出せるところでは、雪印乳業があるし、本書の出版以降では、「白い恋人」の石屋製菓、赤福などが思い出されるし、JR西日本の福知山線の事故もそうだろうと思う。
本書の著者によれば、企業の不祥事は、特定の個人に問題があるのではなく、株式会社自体が不祥事を生み出すような構造になっている、というのである。株式会社は、経営者も従業員も、会社の利益を最大化しなければいけない、という「幻想」から自由になれないということである。まだ経済成長が可能だった時代には、それでも問題は発生しなかっただろうが、欲望を肥大化させなければ経済成長が困難になった現代においては、それを隠すことができなくなってしまったということなのだろうと思う。
株式会社や経済成長を「あたりまえのこと」としてとらえず、あらためてその意味を考え直させてくれる本書は良書だと思った。
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コメント
久しぶりです、平川氏の本、面白そうですね。
株式会社は自己の利益のため必然的にそうなるようですが、官僚社会の方がもっと嘘っぱちが酷いと思ってますが如何でしょう。
前者には、消費者が居て永くは騙せないですが、後者は国民を騙し通せる自信があるようですから。
投稿: みのる | 2013年4月28日 (日) 17時54分
みのるくん、コメントありがとう。
株式会社というより、資本主義そのものが「病」をかかえているようにも思えます。官僚システムにも問題があることは多くの人が気付いているでしょうけど、株式会社というシステムにも問題があるとはほとんどの人が気付いていないか、あるいは気付かないふりをしているのに、この平川さんという人は、そのあたりの事をはっきり書いちゃったというところが偉いと思います。
投稿: Ohrwurm | 2013年4月28日 (日) 18時26分