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2012年10月14日 (日)

福島県のヤマトシジミに関して(2012年10月14日)

 今年の夏頃、琉球大学の大瀧丈二准教授のグループによる、福島県のヤマトシジミの異常に関する論文が話題になった。(論文はこちら、2012年10月16日追記)ごく簡単に内容を紹介すれば、原発事故後の福島県のヤマトシジミには、斑紋や生育に異常がみられる、というものである。
 しかし、この論文は話題性を獲得しようとした意図に満ち満ちている論文に感じられた。
 詳しくは知らないが(というかアマチュアの蝶屋の間ではほとんど無名だと思われる)、大瀧准教授は発生学が専門のようである。大瀧准教授は、この福島のヤマトシジミの異常に関する論文の前に(原発事故が起こる前の話である)、ヤマトシジミの北限に近い東北地方の個体群には、斑紋に異常が出易いという論文を書いている。(論文はこちら、2012年10月16日追記)
 ということは、福島のヤマトシジミに異常が多いのは、放射線の影響によるものなのか、温度の影響によるものなのか、対照(コントロール)がなければ判断ができないはずである。しかし、福島のヤマトシジミの異常に関する論文で対照にされた個体群は、福島より南の地域のものばかりである。それにもかかわらず、大瀧准教授は、ヤマトシジミの異常は放射線によるものだと結論づけている。これは明らかに科学的ではない。
 さらに、今日になって、原発事故が起こる前の東北地方のヤマトシジミを含む、全国各地のヤマトシジミの標本を集めたいので協力して欲しい、という内容の電子メールが、とある筋を通してボクのところに届いた。
 これも、科学的な研究の順序としては逆である。と言うか、それをやったところで、福島のヤマトシジミの異常が放射線によるものかどうかを結論することは不可能に近い。なぜなら、それぞれの地域のヤマトシジミは、それぞれ異なった環境からの放射線以外の影響を受けているからである。
 本当に放射線の影響があるかどうかを確かめようと思うなら、もっと直接的に、飼育しているヤマトシジミに放射線を照射して、その影響を見てみたら良いのではないかと思う。大瀧准教授が所属している琉球大学に放射線照射のための施設があるのかどうか知らないが、沖縄県にはウリミバエの根絶に大きな役割を果たしたミバエ対策事業所のガンマ線照射施設がある。これを簡単に使わせてもらえるかどうか知らないが、不可能というわけではないと思う。いずれにせよ、放射線の影響を明らかにするなら、こちらを先にするのが近道に違いない。(事実誤認により抹消。2012年10月16日)
 大瀧准教授の意図はわからないが、「有名になりたい病」に冒されているような気がする。
(さらに以下2012年10月16日追記)
 この大瀧グループの論文について、世間を試しているのではないか、という見方もあるらしい。こちらを読んでいただきたい。

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コメント

リツイートされてきたものをクリックしたらここに着いたのでびっくりしました。

ツイッター、フォローしました。

投稿: 混沌 | 2012年10月15日 (月) 00時24分

売名行為だとしたら、かなり悪質ですね。

少し前に福島で双頭のアカツメクサが目立つという話を聞いて、近所(千葉県市川市)で観察したら、かなりの確率で双頭のアカツメクサがありました。たぶんもともとかなり存在していたのだろうと思います。
原発事故の後では、つい気をまわし過ぎてしまうんでしょうね。

現地のことを考えると、ぜひ慎重に発言していただきたいものです。

投稿: sizenkansatu | 2012年10月15日 (月) 07時07分

原発事故以降、放射能の影響を気にする人は多いですね。虫こぶの画像を載せて「放射能の影響による奇形ではないか?」と心配しているブログも見た事があります。
上下で♂♀が分かれたノコギリクワガタの記事が出たときも「放射能の影響では?」という視点で取り上げたブログがけっこうあったような……。

素人が見慣れぬものに不安を覚えるのはしかたないことかもしれませんが、科学者が放射線による影響の可能性を持ち出すときは慎重であるべきだろう──と、ヤマトシジミの記事を読んだときは感じました。
しかし、あの説を発表した准教授はそれ以前に東北地方でヤマトシジミ斑紋の異常が出やすいことを知っていたのですね。だとしたらますます「放射線の影響」(可能性)を持ち出したのは不適切だったように思います。

投稿: 星谷 仁 | 2012年10月15日 (月) 09時52分

言い方が悪いかもしれませんが、「フクシマ」はある意味、壮大な実験です。日本の研究者が総力を結集して、後生に貴重なデータを残して欲しいです。

チェルノブイリの関連文献を読むと「まず結論ありき」の感情的な記述ばかりが目立ち、がっくりしますが、自然への放射線の影響、そして自然への人間の不在の影響について正確なデータを残すことこそ、日本人研究者がなずべきことなのではないでしょうか。

こんなことを言うとまた叩かれそうですが、クラカタウの調査に比肩する貴重な研究になると思います。

投稿: 南十字星 | 2012年10月15日 (月) 16時20分

みなさん、コメントありがとうございます。
まとめてコメント返しさせていただきます。
放射線の影響を調べるにしても、ヤマトシジミを材料に選んだのは適切ではなかったと思います。もっと適切な材料があるように思えます。大瀧准教授が放射線の影響を論じるために何故ヤマトシジミを材料に選んだのか、理解に苦しみます。

投稿: Ohrwurm | 2012年10月15日 (月) 23時20分

オープンアクセスなのですから、論文に目を通されてはどうでしょうか。また、元論文も示すべきです。ちなみに下記が件の論文です。
http://dx.doi.org/10.1038/srep00570

Fig.5に示されている通り、彼らは外部被曝実験は実施しています。また、現地の植物を用いた内部被曝実験も行なっています。解釈が滅茶苦茶なのは疑う余地はありませんが、Ohrwurmさんの批判も滅茶苦茶ですよ。

投稿: 橘 | 2012年10月16日 (火) 17時42分

橘さん、コメントありがとうございます。
 当該論文を熟読していなかったことは認めたいと思います。しかし、このエントリーを書くきっかけとなったのは、ボクのところに「ヤマトシジミの標本の収集に協力して欲しい」という内容の依頼メールが回ってきたことにあり、それに対してボクが「何で今さら」と思ったことにあることはご理解いただきたいと思います。

投稿: Ohrwurm | 2012年10月16日 (火) 19時59分

私のところにもきました。今頃、採集の協力の要望ですか・・・。

当事者本人たちが採集・実験を継続しないと、きちんとしたデータを採れない気がするのですが。しかも、なぜ期間が10月末まで?
気温による変異の関係でしょうか・それともデータを出すのに焦っているのでしょうか?

放射線の実験ですが、よく分からない環境でコントロールも取らずに実験しています。しかも、一般的な放射線照射実験とは違い比較的長期にわたってダラダラと照射しており、その実験環境自体に置かれた個体を考慮してません。

いきあたりばったりの実験ではなく、じっくり取り組んで欲しいものです。

投稿: 名無し | 2012年10月17日 (水) 17時21分

名無しさん、コメントありがとうございます。
 「協力願いメール」はかなり広範囲にばらまかれているようですね。協力する人はいないわけではないでしょうが、科学的な議論に耐える質のデータを得るのは不可能ではないかと思えます。
 いずれにせよ、「はじめに結論ありき」はおかしいです。

投稿: Ohrwurm | 2012年10月17日 (水) 20時13分

返信どうもです。
「結果ありき」もそうですが、普通の研究室でしたら、研究を見直す人間がいるはずなのですが・・・、そうでは無かったんでしょう。
大瀧准教授は放射線の専門ではないでしょうし、他の研究メンバーも修士の学生。
素人がたった1年程の研究期間で結論を出すのは無責任にも程があると思うのです。
学会発表でも聞いたことがありませんから、この実験にとても違和感を感じます。

投稿: 名無し | 2012年10月17日 (水) 20時25分

名無しさん、再びコメントありがとうございます。
 騒ぎが大きくなってしまって、研究見直しという選択肢が無くなるほど引っ込みがつかなくなってしまったのではないかと想像しています。他のメンバーが修士の学生だけだとは知りませんでしたが、であるとすれば相当無謀だと思います。

投稿: Ohrwurm | 2012年10月17日 (水) 20時42分

データを科学的、統計的な手続きであつかえば、何年もかけなければ解明されない、認められない・・ということになるのでしょうね。原発事故にはチェルノブイリに即した先行研究があっても、「はっきりしたことは分かっていない」などと評価する学者見解が、いま、何をなすべきか・・・という施策に援用されたりもします。

いっぽうで水俣病など、発覚とほぼ同時にチッソのせい・・・と見通しをつけた学者もいたことは事実です。

英語の論文は読めないので、なんとも言えませんが、低温異常・奇形とは別の雰囲気の発現・・ということであれば、その点も報道に反映されるように配慮すべきではありました。

ヤマトシジミなどは1年で何回も発生するので、人間や哺乳類などよりも遺伝や、放射線の影響を調べやすいとも思いますが、一方で影響の受け方、出方もちがうんだろう。。とも思います。

先日、ウスバシロチョウの肢脈異常についての発表を聞きました。特定地域で特定パターンの異常が多めに累代していることを指摘して、おそらく遺伝的な要因であろう・・・としていましたが、それは説得力がありました。

わたしとしてはヤマトシジミのニュースの騒ぎはそれなりに楽しみましたが、反響はそれほど大きくならなかったのが意外でした。人間と昆虫とでは違いすぎますね。排気ガスまみれの道端のしょぼいカタバミでもヤマトシジミはちゃんと?発生してますからね。

近いうちに、「ソーカル事件」と類似の展開になったりしたら、いま反原発の人々が着目している他のデータ、調査統計にも、あらぬ猜疑の目が向けられやしないかと、それはそれで心配です。


投稿: こけた | 2012年10月21日 (日) 10時50分

こけたさん、コメントをいただいたのに、お返事が遅くなり申し訳ありません。
その後いろいろ調べたところ、どうやら反響が大きくなりすぎて、裏付けデータを集めようとアタフタしているというところではないかと想像しています。
第二の「ソーカル事件」か、と予想した人もいるようですが、それは外れているような気がします。

投稿: Ohrwurm | 2012年10月28日 (日) 20時48分

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