井田徹治著『生物多様性とは何か?』
井田徹治著『生物多様性とは何か?』
岩波新書(新赤版)1257
ISBN978-4-00-431257-4
720円+税
2010年6月18日発行
ix+224+2 pp.
目次
はじめに
第1章 生物が支える人の暮らし
1 破れてわかる命のネットワーク
2 生態系サービスという見方
3 生物多様性の経済学
コラム/サメとナマコの危機
第2章 生命史上最大の危機
1 増える「レッドリスト」
2 地球史上第六の大絶滅
3 生態系の未来
4 里山−日本の生物多様性保全の鍵
コラム/侵略的外来種
第3章 世界のホットスポットを歩く
1 ホットスポットとは
2 開発と生物多様性−マダガスカル
3 南回帰線のサンゴ礁−ニューカレドニア
4 農地化が脅かす生物多様性−ブラジルのセラード
5 大河が支えた生物多様性−インドシナ半島
6 日本人が知らない日本
コラム/地球温暖化と生物多様性
第4章 保護から再生へ
1 漁民が作った海洋保護区−漁業と保全の両立
2 森の中のカカオ畑−アグロフォレストリー
3 森を守って温暖化防止
4 種を絶滅から救う−人工繁殖と野生復帰
5 自然は復元できるか
コラム。種子バンク
第5章 利益を分け合う−条約とビジネス
1 生物多様性条約への道のり
2 ビジネスと生物多様性
コラム/ゴリラと「森の肉」
終章 自然との関係を取り戻す
参考文献
表題は『生物多様性とは何か?』であるが、最後まで読み通してみても、本書には「生物多様性」という言葉の定義すら書かれていなかった。ただひたすら、「いま地球環境が破壊されつつあって『生物多様性』がなくなると困ったことになりますよ」ということについて、様々な例が羅列されているだけである。本書に書かれている『生物多様性』という言葉は様々な意味で使われていると解釈でき、そのまま『生態系』と良い変えてよさそうな箇所もあれば、『自然』と言い換えてよさそうな箇所もある。『生物多様性』というタームが一義的に使用されていないため、理解の妨げになっていのではないかとも思われる。
だから『生物多様性とは何か?』という表題に惑わされて、本書に本当に『生物多様性とは何か?』が書かれていると思ったら、とんでもない「はぐらかし」を食わされたと感じられるはずである。本書を読んでも、けっきょく『生物多様性ってなんだろう?』という疑問が残るだけではないかと思われる。
これはボクが「生物多様性」という表題がつけられた様々な本をこれまでに読んできたから以上のように理解できるのであって、『生物多様性』に関する予備知識が何もない人が本書を読んだところで、『生物多様性とは何であるか』は到底理解できないであろう。文字通りの意味で『生物多様性とは何か?』を理解するためには、ボクがこれまで読んだ本の中では池田清彦著『生物多様性を考える』(中公選書)がもっとも適しているように思われる。
本書に以上のような欠陥があると思われるが、本書の中で主張されていることは、基本的に違和感はないと感じられた。ただし、『生物多様性』という概念が、決して科学的なものではなく、あくまで政治的なものであると書かれていないのは、説明不足であるか、あるいは著者自身が本当に気付いていないかのどちらかであると思う。
いずれにせよ、本書に書かれていることは「地球環境のバランスが崩れると様々な不都合が起こることが予想され、それを未然に防ぐためには、ここに書かれているような対策が考えられますよ」ということであるので、『生物多様性とは何か?』という表題は全く不適切であり『地球環境のバランスを崩さないために我々ができること』(例)のような表題が適切であると思われた。さらに言えば『生物多様性』という言葉も無理に使われているような箇所も多いので、もっと適切な別の言葉で言い換えた方が、著者の主張が理解し易くなるのではないかとも思われた。
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