蛇蔵&海野凪子著『日本人の知らない日本語2』
蛇蔵&海野凪子著『日本人の知らない日本語2…爆笑!日本語「再発見」コミックエッセイ』
メディアファクトリー
ISBN978-4-8401-3194-0
880円+税
2010年2月19日発行
159 pp.
目次
はじめに
第1章 日本語学校へようこそ
日本語学校はこんな所/色の話
第2章 敬語は難しい
敬語の授業を覗いてみうよう/らぬき言葉はなぜ生まれたか
第3章 クールジャパンに憧れて
L'Otaku(ロタク)/オタクふたたび
第4章 神社に行こう
お参りをしてみよう(前編)/お参りをしてみよう(後編)
第5章 学校vs先生
AとBはどう違う/忍者大好き
第6章 冬になると
干支/お正月を知ろう
第7章 受け継がれるもの
自己紹介を印象的に/万葉仮名という無法
第8章 点と丸
濁点の点はどこから来たか/半濁点の意外な作成者
第9章 ご注意、怖い話あり
縁起よしあし/怖い話
第10章 教室の外で
クララさんの事情/生徒は先生
第11章 番外編
参考文献
あとがき
イラストレーター兼コピーライターの蛇蔵氏と外国人相手の日本語学校で日本語教師をしている海野凪子氏によるコミックエッセイである。現時点で第3巻まで発行されているが、その第2巻である。たまたま妻が図書館で借りてきていて家にあったのであるが、星谷仁さんから、以前のこのブログのエントリーへのコメントで「ら抜き言葉」について書かれていると紹介されていた本だったので、早速読んだ。
「ら抜き言葉」については第2章に書かれている。ここには、どんな場合に「ら抜き言葉」が生じ易いのかが表(p.27)にまとめられており、非常に理解し易い。日本語の基本的な文法においては、五段活用とサ行変格活用の動詞は「可能形」と「受身・尊敬形」の形が違うが、一段活用とカ行変格活用の動詞は「可能形」と「受身・尊敬形」の形が同じである。「可能形」と「受身・尊敬形」の形が同じだと混乱しやすいので「可能形」と「受身・尊敬形」を区別するために「ら抜き」が生まれた、と説明されている(p28)。
日本語学者である浅川哲也氏は、氏の著書である『知らなかった!日本語の歴史』のなかで、何の理由の説明も無く、問答無用に「『ら抜きことば』は『誤用』である」と切り捨てており、「『ら抜きことば』が拡大することは問題である」としている。
どちらの方が説得力があるかは明らかである。浅川氏は『ら抜きことば』は「あるべきものではない」としているのに対して、海野氏は現に存在しているものについての理由を考えている。これでは浅川氏は「日本語学者」という肩書きを名乗るのが恥ずかしいのではないかと思われる。
本書では『レタスとサイレ』についても説明している。『レタス』とは、五段活用とサ行変格活用の動詞を可能形にするときに、必要ではないのに「れ」を入れてしまう現象であり、『サイレ』とは、「帰ら『さ』せていただきます」というように、必要のない場所に「さ」を入れてしまう現象である。これも浅川氏に言わせれば、問答無用に「誤用である」と切り捨ててしまうところであろうが、海野氏は、「『れ足す』も『さ入れ』も、今のところ正式な日本語としては認められていませんが、そのうち『正式な動詞の形』として日本語の教科書に載るようになるでしょうか。(p.33)」とまとめているが、現在の日本語の現状を考えれば、海野氏の考え方の方を支持しないわけにはいかないところである。
現場のことを真面目に知ろうともしないで理想論だけを述べている『自称日本語学者(=浅川哲也氏)』よりも、現場で奮闘している『日本語教師(=海野凪子氏)』の方が説得力のある説明ができるとは、「現場をバカにしてはいけない」という教訓にしなければいけないと思う。これは「自戒の念を込めて」のことである。
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コメント
私もこの本持ってますよ~。
ら抜き言葉の記載については全く同感です。ついでにいうと、可能形と受身形が同じだけでも混乱のもとになりかねません。「食べられる」が「edible」なのか「be eaten」なのかと考えるより、「食べれる」を使う方が合理的だと思うこともあります。
その一方で、尊敬語としての「~られる」の方も、最近はあまり使われなくなった気がします。
私の身の回りで、特段の敬意を示すような人間関係が少なくなっただけでしょうか。
投稿: JG | 2012年7月 8日 (日) 21時24分
日本人の知らない日本語シリーズ、僕の中ではかなりのヒット作品です。
日本語に関するうんちくも興味のあるところですが、日本語に染まっていない人たちが日本の言葉や文化をどう理解するのか、ヒトの認知の(ギャップの)面白さを感じます。
自然に発生し使われている言葉が「権威化されたルールに反しているから許されない」と考えるより、なぜその言葉が生まれたのかを理解する事がまず研究者には必要な気がしますね。
投稿: 星谷 仁 | 2012年7月 8日 (日) 22時05分
ワタシも単行本になって、即ゲットしました。
図書館でも買うんですね。
投稿: こけた | 2012年7月10日 (火) 08時00分
みなさん、コメントありがとうございます。
外国人が疑問に思う日本語は、かなり問題の本質を突いている感じがしました。「まず文法ありき」ではなく、ナマの日本語を考え直すことも、学問として必要ではないかと思われました。
投稿: Ohrwurm | 2012年7月13日 (金) 06時47分