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2012年6月30日 (土)

池田清彦著『「進化論」を書き換える』

池田清彦著『「進化論」を書き換える』

新潮社
ISBN978-4-10-423107-2
1,400円+税
2010年3月25日発行
190 pp.

目次
第一章 進化論の歩み−ダーウィンは何を間違えたのか
 進化論のあけぼの/ラマルクの進化論/ダーウィンの進化論/ネオダーウィニズムの勃興とその崩壊
第二章 進化機構論−ゲノム解読をしても生物の仕組みがわかないのはなぜか
 システムとしてのゲノムと細胞/DNAのメチル化/ヒストンたんぱく質によるDNAの転写制御/ゲノムと解釈系の位相/獲得形質は遺伝するのか/進化とは発生プロセスの変更である/発生遺伝子と進化/ホメオティック遺伝子の発現/高分子のネットワークシステムとしての生命/ヘテロクロニーとヘテロトピー/自然選択は進化の主原因ではない
第三章 進化論の最前線−大進化の原因は何なのか
 突然変異と自然選択による進化/形はどのように進化するのか/表現型多型と形態の進化/側系統を擁護する/多様化する生物/収斂と並行進化
あとがき

 表題の『「進化論」を書き換える』というのは、キリスト教原理主義に基づいて「創造説を復活させる」というのではなく、いま進化論の主流になっているネオダーウィニズムに対して批判し、構造主義生物学の考え方にもとづいて「生物進化をあらためて考え直してみよう」というスタンスである。
 ネオダーウィニズムの発達によって生物進化の理論は飛躍的な発展を遂げたが、ネオダーウィニズムが説明できたのは、種レベルの小進化のみであって、高次分類群レベルの進化の説明は完全に失敗していると言える。そのように不完全なネオダーウィニズムであるが、これだけの支持者(ほとんど全ての進化生物学者)を得たのは、R.A.フィッシャーにはじまった「進化の数式による記述」によるところが大きいのではないかと思う。現象を数式として記述できれば、理論を発展させることは極めて容易になる。その極まったところにR.ドーキンスの「利己的な遺伝子」があるのではないかと思う。進化を遺伝子に還元してしまったわけである。
 しかし、高次分類群の進化については、突然変異、自然選択、遺伝子浮動だけを説明原理とするネオダーウィニズムではとうてい説明しきれるものではなく、新たな理論が必要となってくるのは必然とも言える。そこでネオダーウィニズムに対して殴り込みをかけたのは、日本では柴谷篤弘と池田清彦による構造主義生物学である。
 しかし、この構造主義生物学というのは概念的にも大変理解し難い考え方である。もっとも、それはボクがネオダーウィニズムの大きな波の中で研究生活の始まりを過ごしたことが大きいかもしれない。先に記したように、ネオダーウィニズムは数式で記述できる。数式は理解の助けになるし、理論の深化にも大きく貢献する。しかし、構造主義生物学を数式で記述することはできない。あくまで言葉で定義し、言葉で説明できるだけである。
 また、もうひとつ、構造主義生物学には具体的な物証に欠けている部分が大きいというのも、構造主義生物学が支持を得られない大きな理由だと思う。しかし、ネオダーウィニズムについても、高次分類群の進化については全く物証がないのは同じであるから、ネオダーウィニズムが優位にあるとは言えないのも確かだと思う。
 本書は、一貫してネオダーウィニズムを批判しながら、構造主義生物学に基づいて、生物の進化を再び体系化しようという試みであると思われる。生命を遺伝子に還元するのではなく、細胞を中心としたシステムとして捉え、高次分類群の進化についても説明しようとしている。もちろん、構造主義生物学ですべてを説明できるわけではないが、これまでに解明された物証をもとに、ネオダーウィニズムで説明できなかった(ということは、その部分に関してはネオダーウィニズムは間違っている、と池田氏は主張しているわけであるが)現象を構造主義生物学でうまく説明できている部分も多いと思う。
 構造主義生物学はネオダーウィニズムと完全に対立した概念だと考えている人が多いかもしれないが、構造主義生物学はこれまでに明らかにされてきた物証を無視するのではなく、解釈し直すことが多くなっているが、それによってネオダーウィニズムでは説明できなかった多くの現象が解釈可能になってきているように思えるし、種レベルの小進化に関して構造主義生物学はネオダーウィニズムを否定しているわけではない。
 ネオダーウィニズムの基本的な部分を理解している人にとって、本書は「構造主義生物学とは何か」を理解するには適切な文献になっているのではないかと思う。

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