日高敏隆編『生物多様性はなぜ大切か?』
日高敏隆編『生物多様性はなぜ大切か?』
地球研叢書
ISBN4-8112-0506-9
2,300円+税
2005年4月20日発行
183 pp.
目次
まえがき
第1章 生物多様性とはなんだろう?……中静 透
はじめに/生物多様性問題とは?/生物多様性は減っているのか?/なぜ生物多様性が大切なのか?/生物多様性がとくに重要な役割をはたす生態系サービス/なぜ生物多様性問題はむずかしいのか?/おわりに
第2章 「雑食動物」人間……日高敏隆
人間にとって生物多様性は?/何から栄養をとるか?/草食動物の苦労/肉食動物/人間はそのどちらでもない/雑食は日和見か?/食物としての生物多様性
第3章 遺伝子からみた多様性と人間の特徴……川本 芳
遺伝的多様性/遺伝的多様性からみた人間の特性/人間と類人猿の遺伝的多様性のちがい
第4章 文化の多様性は必要か?……内山純蔵
なぜ多様な文化があるのか?/さまざまな解釈/先史時代の生活からみてみよう/未来のための多様性
第5章 生活のなかの多様性……佐藤洋一郎
はじめに/食の生物多様性/人体とその周辺に起きていること/生活空間のなかの生物多様性/しのびよる危機/衣食住に多様性を−どうすれば多様性は守れるか?
本書は2005年の出版であり、名古屋でCOP10が開催された5年も前に出版されたものなので、そのあたりを割り引いて評価しなければいけないかも知れない。COP10でもっとも重要な議題になったのは、遺伝資源から得られる利益を原産国と開発国の間でどのように配分するか、ということであり、すぐれて政治的な問題であるが、本書ではその点についてはほとんど触れられていない。
第1章。生物多様性とは何か、という根本的な疑問に対する言及であるが、著者である中静氏は、「生物多様性」というタームを「生物多様性」という概念そのものと「生物多様性が高いこと」の両方に使用しているので、説明しようとしていることが曖昧に感じられた。また、「わかっていないことが多い」ということを繰り返し述べていて、やはり「生物多様性とは何か」を明快に理解できるようにはなっていない。書いている本人も、やはりよく理解しきれていないのではないかと思った。
第2章。2009年に亡くなった日高先生は動物行動学がご専門である。人間をひとつの雑食動物として捉え、さまざまな生き物がいることが必要であることを説いている。しかし、「生物多様性はなぜ大切か?」という問いに対する回答としては、いまひとつ説得力が弱いのではないかと感じた。
第3章。ヒトの遺伝的多様性について説いているが、やはり「生物多様性はなぜ大切か?」という問いに対する回答としては物足りないものを感じた。
第4章。生物多様性を論じるにあたり、あまり語られない文化の多様性について説いている。ヒトが生き延びるにあたり、文化的にも多様性が高い方が望ましいと説いている。視点としては面白いと思うが、やはり「生物多様性はなぜ大切か?」という問いに対する回答としては何となく物足りなさを感じた。
第5章。ヒトの生活のなかでの生物多様性について説いている。ヒトの安定的な生活のためには生物多様性が低いと様々な不都合が起こることをいろいろ例示しているが、今の時点での考え方からみると、あまり目新しいものはなく、物足りなさを感じた。
全体的に「生物多様性が高いことは望ましいことである」という論調であるが、「生物多様性とな何か?」という根本的な点について掘り下げられていないので、物足りなさを感じることが多かった。出版された年代(2005年)ということを考えてみると、まだ今ほど「生物多様性」という言葉が一般的ではなかったので、この程度のことでも仕方がなかったと思わなければいけないのかも知れない。
決して悪書ではないが、だからと言って、いま読んでもそれほど新しい視点がなく、政治的な視点について全く触れられていないので、必読の書とは言えないように思える。
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コメント
この本は、私も、去年くらいかなあ、あるいはそれより前かに読みましたが、だから結局なんなの?という印象でした。
内容は多様ですが、タイトルの「なぜ大切か」はさっぱりわかりませんでしたね。
投稿: 混沌 | 2012年6月24日 (日) 23時41分