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2012年5月26日 (土)

シンポジウム「海を渡る昆虫の神秘」(2012年5月26日)

 名古屋の名城大学で開催された名古屋昆虫同好会主催の『シンポジウム「海を渡る昆虫の神秘」〜みんなで考えてみよう、小さな虫の大きな不思議〜』に参加した。名古屋昆虫同好会がこのような一般にも公開したシンポジウムを開催したのは、名古屋昆虫同好会の63年の歴史のなかで初めてのことである。もともと名古屋昆虫同好会には昆虫の中でも「生態」を指向した会員が少ないので、このようなテーマでシンポジウムを開催することにしたのは意外であった。

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プログラム
開会挨拶 間野隆裕(名古屋昆虫同好会会長)
基調講演
「北上昆虫は南下する!」−伊良湖岬から海を渡る虫たち−:金沢至(大阪市立自然史博物館)
講演
「なぜ、どのように、どこまで飛ぶの?アサギマダラ」:窪田宣和(愛知アサギマダラの会)
「トンボの省エネ飛行」−ウスバキトンボとアキアカネを例に−:石田昇三(日本トンボ学会)
「移動する(かもしれない)昆虫の話題」:間野隆裕(豊田市矢作川研究所)
パネルディスカッション
「海を渡る昆虫の神秘」:各講演者
閉会挨拶 蟹江昇(名古屋昆虫同好会副会長)

 大雑把にまとめてしまえば、アサギマダラとウスバキトンボの話が中心であり、その移動の実態はどんなものか、という話題が中心であった。基調講演での金沢氏の話の中心は、秋に渥美半島の先端の伊良湖岬で観察していると、志摩半島の方向に飛び出して行く昆虫がたくさんあり、アサギマダラやウスバキトンボだけではなく、その他の様々な昆虫が海に飛び出して行くのが観察されたということであった。
 アサギマダラは長距離移動をすることがマーキングによって確かめられている。大雑把に言えば、春に北東方向への移動があり、秋に南西方向への移動があるが、細かいところを見れば、これに当てはまらない移動も少なからずある。窪田氏は愛知県を中心にアサギマダラの移動をマーキングで調べているが、短距離(主に県内)の移動の方向はかなりランダムであるとのことであった。また、愛知県の標高600m程度の場所での観察によれば、越冬(主として幼虫態で)が可能であり、一年中アサギマダラの姿を見ることができるとのことである。それなのになぜ移動しなければならないか、という点については大阪府立大学の平井規央さんによる「寄生蠅からの逃避のため」いう説が有力であろうということであった。
 ウスバキトンボは本州あたりでは春にはいないが夏以降に急激に個体数を増す。熱帯地域では一年中見られる。石田氏によれば、気温の上昇とともに、あるいは台風などの風に乗って北上するが、高緯度地域では冬には死に絶えてしまい、南下は見られないということである。これは金沢氏の伊良湖岬での観察とは対立する考え方である。ウスバキトンボはアサギマダラとは違って組織的なマーキングは行われておらず、これまでの定説は日本各地でのウスバキトンボの季節的な個体数の変動から想像した憶測に過ぎないと思う。石田氏は「一方通行説」を唱えているが、ボクは大勢としてはそうであっても、秋の南下も少なからずあるのではないかと想像している。
 間野氏は、「ウンカ海を渡る」の著者である岸本良一先生の東シナ海の定点観測船で得られた昆虫を紹介し、実に様々な昆虫が海上で得られたことを紹介した。ひょっとしたらアマチュアの昆虫愛好家の間ではどうか知らないが、トビイロウンカやセジロウンカがモンスーンに乗って東シナ海を渡って中国から渡ってくることは、農業昆虫研究者の間では今では「常識」となっており完全に定説になっている。間野氏の演題は「移動する(かもしれない)昆虫の話題」となっていたが、「かもしれない」は余計だったように思える。
 最後はパネルディスカッションで、参加者からの質問に答える形であった。寄せられた質問は良いところを突いていると思うものもあったが、初心者のような質問もあり、このシンポジウムには、昆虫の移動のことをあまり知らない人が多く参加していると窺われた。移動する昆虫には自然ではなく人為的な移動によるものもあるのではないか、という質問に対して間野氏は「それもある。コナガなどはそうかも知れない」と答えていたが、コナガは明らかに長距離移動をする能力を持っていると思う。ボク自身も石垣島での観察から、ほぼ確実に数百キロの移動をしていると確信した。(→この論文 PDFがあります)
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 このシンポジウムには名古屋昆虫同好会の幹事の皆さんの多くは参加されていたが、普段の例会に参加されているメンバーの顔があまり見られなかった。これはボクにとってはある程度予想できたことであった。しかし、正確に数えたわけではないが100人近くの人数が集まったと思われ、遠くは長野や奈良から参加されている方もあり、シンポジウムとしては盛会ではなかったかと思われた。これを機会に名古屋昆虫同好会に入会してくれる人があることを期待している。
 ボク自身にとっても、とくに窪田氏の講演から多くのヒントを得られ、自分自身のアサギマダラの移動に関するイメージをより明確にできたように思う。これについては、どこかでまたあらためて考え方をまとめて書き遺しておきたいと思う。実りの多いシンポジウムであった。

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コメント

こんばんは。ウスバキトンボの毎年出直し一方通行説は私も信じていましたが、科学的に実証されているわけではないのですね。

投稿: Zikade | 2012年5月26日 (土) 22時55分

ZIkadeさん、コメントありがとうございます。
 「南下がない」とは言い切ることはできないわけですが、南下の証拠もなかったので「一方通行説」が通説になっていたのだと思います。しかし、逆方向の移動が観察されたとなれば、「一方通行説」も見直さなければいけないと思います。今後の展開が楽しみです。

投稿: Ohrwurm | 2012年5月27日 (日) 22時29分

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