福岡伸一著『動的平衡2』
福岡伸一著『動的平衡2 生命は自由になれるのか』
木楽舎
ISBN978-4-86324-044-5
1524円+税
2011年12月7日発行
254 pp.
目次
美は、動的な平衡に宿る−まえがきにかえて
第1章 「自由であれ」という命令−遺伝子は生命の楽譜にすぎない
生命体は遺伝子の乗り物か/働きアリにみる「パレートの法則」/ホモ・ルーデンスがロボット機械か/サブシステムは自然選択の対象にならない/生命の律動こそ音楽の起源/演奏家それぞれの「変奏曲」/生命を動かしている遺伝子以外の何か/遺伝子は音楽における楽譜/卵環境は子孫に受け継がれる
第2章 なぜ、多様性が必要か−「分際」を知ることが長持ちの秘訣
子孫を残せないソメイヨシノ/植物は不死である/進化で重要なのは「負ける」こと/センス・オブ・ワンダーを追いかけて/なぜ、蝶は頑ななまでに食性を守るか/動的だからこそ、恒常性が保たれる/多様性が動的平衡の強靭さを支えている
第3章 植物が動物になった日−動物の必須アミノ酸は何を意味しているか
なぜ食べ続けなければならないか/なぜ、動物が誕生したか/グルタミン酸においしさを感じる理由/「うま味」を探り当てた日本人/地球を支配しているのはトウモロコシ/アミノ酸の桶の理論/運動、老化にはBCAAが効果的/窒素固定のプロセスは細菌が担っていた/Cの時代からNの時代へ
第4章 時間を停めて何が見えるか−世界のあらゆる要素は繋がりあっている
昆虫少年の夢/日本最大の甲虫ヤンバルテナガコガネ/ファーブルの言明/人間は時間を止めようとする/この世界に因果関係は存在しない
第5章 バイオテクノロジーの恩人−大腸菌の驚くべき遺伝子交換能力
タンパク質研究の最大の困難/大腸菌が遺伝子組み換え技術を可能に/大腸菌とヒトの共生/風土に合ったものを食べる知恵/大腸菌の驚くべきパワー/細菌たちのリベンジ/遺伝情報を水平伝達するプラスミッド
第6章 生命は宇宙からやって来たか−パンスペルミア説の根拠
地球外生命体の証し/DNAが先かタンパク質が先か/チェック博士のRNAワールド/「生命誕生までに八億年」はあまりにも短い/パンスペルミア説
第7章 ヒトフェロモンを探して−異性を惹き付ける物質とその感知器官
ファーブルが探した誘引物質/ブーテナントとシェーンハイマー/なぜ「生理は伝染る」か/ヒトにもあるフェロモン感知器官/フェロモン香水を作った人たち
第8章 遺伝は本当に遺伝子の仕業か?−エピジェネティックスが開く遺伝学の新時代
トリプレット暗号とは何か/なぜ、生命の起源は単一だと言えるか/生命は不変ではなく、動的なものだ/ダーウィンの予言/遺伝子以外によっても遺伝現象は生じる/ヒトとチンパンジーの違い/遺伝の鍵を握っているマターナルRNA
第9章 木を見て森を見ず−私たちは錯覚に陥っていないか
花粉症は、薬では治らない/生命は水でエントロピーを捨てている/達成できそうにないCO2削減目標/排出権取引の胡乱さ/相関性と因果性は異なる/DNAの傷にどんな意味があるか/生命現象からシステムを学ぶ/常に分解していることの大切さ/細胞は相互補完的に役割を決める
生命よ、自由であれ−あとがきにかえて
2009年に出版された『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』の続編になるエッセイ集である。「世界は止まることなく動いている」という自然観から生まれた「動的平衡」という言葉であるが、その自然観に基づいた福岡氏の考え方が綴られている。還元論一辺倒ではない自然観には親しみを感じる。
全体的には良い本だと思ったのだが、明らかな間違いも書かれており、残念である。
まず最初はカゲロウの写真。33ページの「口を捨てたカゲロウ」として紹介されている写真に写っているのはカゲロウではなくクサカゲロウである。カゲロウは蜉蝣目(Ephemeroptera)であるしクサカゲロウは脈翅目(Neuroptera)であるから全く別の昆虫である。クサカゲロウには立派な大顎がある。
次には50ページに書かれているドーキンスの「ミーム」の説明が明らかに間違っている。「ミーム」を"meam"と書いてあるが、正しくは"meme"である。だから、「意味」の"mean"にかけてある、と書いてあるのも当然間違っていて、「遺伝子」の"gene"にかけて"meme"とした、というのが正しい。ドーキンスの「利己的な遺伝子(生物=生存機械論)」は福岡氏が学部の学生の頃に邦訳が出たが、実はそのころには福岡氏は読んでいなかったのではないかと思える。そうでなければ、こんな間違いを書くはずもないと思うのだが。
と、まあ、間違いも目についてしまったが、たいへん読み易く、全体的に見れば良書だと思う。書かれている内容は、目次を見ていただければだいたい想像できると思う。
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