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2012年1月 8日 (日)

本川達雄著『生物学的文明論』

本川達雄著『生物学的文明論』

新潮新書423
ISBN978-4-10-610423-7
740円(+税)
2011年6月20日発行
251 pp.

目次
はじめに
第一章 サンゴ礁とリサイクル
 豊かな生物相/美しい海は貧栄養/褐虫藻との共生/究極の楽々生活/石造りの巨大マンション/褐虫藻への配慮/効率よい栄養素のリサイクル/不要なものを活用しあう/粘液−みんなの食べもの
第二章 サンゴ礁と共生
 サンゴガニ−居候の恩返し/ハゼは番犬−高い捕食圧ゆえのハゼとエビの密接な協力/掃除共生/イソンギンチャクとクマノミ−相利共生で共存共栄
第三章 生物多様性と生態系
 サンゴ礁は危険/一日100種が絶滅/生態系による四つのサービス/生態系サービスの価格/生態系は自分自身の一部/生物多様性と南北問題/豊かさの転換/歴史あるものを大切に/自然も私を見つめている
第四章 生物と水の関係
 水問題/なぜ生命は海で生まれたか/水素結合と水/水は安定した環境を提供する/水分と活発さの相関関係/誕生から老化までの水分変化/水と運動/静水系
第五章 生物の形と意味
 「生物は円柱形である」/平たい理由/円柱形は強い/球から円柱形への進化/海から陸へ、進化する円柱形/WHYとHOWのあいだ
第六章 生物のデザインと技術
 生物と人工物の違い/生物は材料が活発/ナマコの皮は頭がよい/生物はやわらかい/文明は硬い/四角い煙突の論理/人や環境にやさしい技術
第七章 生物のサイズとエネルギー
 長さ一億倍、重さ一兆倍の十億倍/動物のスケーリング/酸素を使って食物を「燃やして」エネルギーを得る/基礎代謝率のアロメトリー/四分の三乗則/ホヤに見る組織のサイズと構成員の活動度/国家予算もアロメトリー式で/恒温動物は忙しく、むなしい?/食料生産装置としての変温動物
第八章 生物の時間と絶対時間
 感じる時間と絶対時間/時間の四分の一乗則/ゾウの時間・ネズミの時間/心臓時計は一五億回で止まる/生涯エネルギーは三〇億ジュール/F1ネズミvsファミリーカーゾウ/回る時間と真っ直ぐな時間/式年遷宮に見る生命観/時間の回転とエネルギー/生命は死ぬけれど死なない
第九章 「時間環境」という環境問題
 「便利」は速くできるとこと/現代人は超高速時間動物・恒環境動物/ビジネスとは時間の操作である/時間のギャップが生み出す疲労感/時間を環境問題としてとらえる/省エネのすすめ/時間をデザインする/子孫も環境も「私」の一部
第十章 ヒトの寿命と人間の寿命
 ヒトの寿命は四〇歳/還暦過ぎは人工生命体/老人の時間は早くたつ/「死なば多くの実を結ぶべし」/時間への欲望/老いの生き方/広い意味での生殖活動/利己的遺伝子の支配から逃れる/「一身にして二生を経る」
第十一章 ナマコの教訓
 脳みそか素粒子か/アンチ脳みそ中心主義/瀬底島での不思議な出会い/砂を噛む人生/ナマコの皮は硬さを変える/硬さ変化の意味/皮は省エネ/頭はいいが脳がない/狭くなった地球上で
おわりに
付録

 「歌う生物学者」として知られている本川達雄氏の著書を読むのは3冊目ぐらいだと思う。『「長生き」が地球を滅ぼす』はそれなりに面白かったし、本川先生の生命観・自然観には親和性を感じているので、また何か本川先生の本があったら読んでみようと思っていたところ、この本が図書館で見つかった。
 『生物学的文明論』とは大層な表題の本だが、中身はそれほど堅苦しく感じられるものではない。本川先生は琉球大学の瀬底島実験所での勤務の経験があってナマコの専門家でもあるわけだが、現在は東京工業大学という工学系の大学の一般教養として生物学の教鞭をとっておられる。教え子は本川先生の専門とは全く関係のない分野に進む人たちばかりの中で、そういう人たちに何を語ったら良いのかということを強く意識して講義をしてこられて、それが本書で語られていることなのだろうと思う。
 本川先生の生命観・自然観は、生物における「時間」と「サイズ」と「エネルギー」の関係が強く意識されたものであるはずである。大きなゾウと小さなネズミでは寿命が違えば、心臓の鼓動の速度も違う。その中でヒトは特別な存在である。本川先生の考え方によれば、ヒトは外部のエネルギーを利用することによって、時間を操作することが可能になり、限りある資源を必要以上に使うようになって、さまざまな環境を変えてきてしまった、ということなのだろうと思う。この考え方が本川先生のオリジナルなものかどうかはわからないが、少なくとも本川先生が『時間』という本を書かれた時点ではかなり目新しいものであることは確かだっただろうと思う。
 本書の中には人間の将来にとって内容的にはかなり悲観的なことも数多く書かれているのだが、本川先生が書く文章にはある種の明るさが感じられるのは不思議である。エネルギーを使うことによって人間にとって不自然なほどに時間を早く進めさせられ、それを本川先生自身で忙しいと書いているのに、その言葉には悲壮感がない。ボクなどは「この忙しさを何とかしてくれ」とけっこう切実に願っているのに。
 それはともかく、本書は生物学が専門ではない人にも読み易く書かれており、生物学的な意味においても「競争することだけが人生ではない」ことを理解させてくれるので、ぜひとも今忙しくしているような人(例えば、政治家や中央官僚)に読んでもらって、この忙しさを解消が解消されるような世界にして欲しいものだと思う。もちろん、一般の人にも読んでもらいたい本である。

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