三重県の有機栽培野菜における原発事故の影響(2011年12月28日)
今日の調査のとき、最初の調査地で畑の主のHさんにお会いしたので、いろいろ話をした。
ここ三重県は東京電力福島第一原子力発電所から遠く離れているので、放射性セシウムのことなど気にすることはないと思っていたのだが、Hさんの話から、そういうわけではないことがわかった。
Hさんが出荷している先のレストランから、「(レストランの)お客さんからお宅(レストラン)で使っている有機栽培野菜の放射能は大丈夫なのかと訊かれたけど、Hさんのところの野菜の放射能は測定しているのか?」と訊かれたそうである。どうやら、「有機農業で使用している堆肥にはセシウムが蓄積しやすいから農薬を使用している外国産の野菜の方が安全である」というような根拠のないことを吹聴しているジャーナリスト(誰かは知らないけど)がいて、消費者の不安を煽っているということらしいのである。生産者であるHさんも、そうとなれば生産物の放射線量を測定しなければ納得してもらえないので、放射線量を測定してもらうことにしたそうである。費用は1検体で2万円かかるそうである。常識的に考えれば、堆肥の原料を近所で調達しているHさんが使用している堆肥からは、検査で検出できるほどの放射線が出てくるとも思えない。しかし、やはり納得できない消費者(レストラン)があるそうで、2軒からは取引中止の申し出があったそうである。
ぼくならば、常識的に考えても三重県産の野菜が危険だとは思えないので、「放射線量を測定せよ」などという理不尽な要求を突きつけたりしない。これこそまさに「風評被害」であろう。
ここであらためて考えてみれば、有機栽培野菜を使用しているレストランは、安全が保障されている農薬や化学肥料ですら、その使用を拒否しているわけだから、「ひょっとしたら放射能があるかも知れない」という程度の非常に低い確率のことにも敏感に反応しているのだろうと思う。
ボクら農業研究者は、安全性だけを求めて有機栽培を研究しているわけではない。もっと大切なことは、地元で得ることができる資源を利用して有機肥料をつくることにより、資源のリサイクルを可能にすることや、農薬を使用しなければ影響を受けることはないはずの、害虫ではない「タダの虫」に悪影響を与えないことになり、農耕地周辺の生物多様性を減少させないこと、などと考える。
農薬や放射能は、量がある基準を超えれば危険であろうが、恐れるほどの量ではない農薬や放射能を「無駄に怖がる」ことは、農業生産コストを引き上げる原因になり、消費者自らもその損害を被ることになると思う。
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コメント
貴重なご報告をありがとうございました。一般の人(ここではレストラン客)が「何を信じてわからない」と,疑心暗鬼に陥っているということなのでしょうね。確かに風評被害にあたるのでしょうが,原因となっている情報不足を解決しないと三重であれ,兵庫であれ,ひとは不安になるでしょう。
これだけの事故なのに,「安全です,安全です」と繰り返すだけですからね。からくりをきちんと,マスメディアなどを通じて説明する必要が政府にはあると思います。
投稿: もとやす | 2011年12月28日 (水) 20時11分
おはようございます。
正しくその通りだと思います。
小生地元のスーパーに勤めていますが・・・
変な処に敏感なお客様が沢山居ます^_^;
良い物を自分で選んだり調べたりする事自体其れは其れで良いのかも知れませんが・・・「結局農業生産コストを引き上げる原因になり、消費者自らもその損害を被ることになると思う」に帰結しますネ。
因みに自分はT市(旧H市)の農家出身ですから・・・中学の頃は親父のトラックでY市やI市の市場へ大根・人参・牛蒡・白菜・キャベツ等の出荷作業に付いて行ったものです。規格が厳密過ぎて(スーパーにも原因は有るが)・・・普通に美味しい物も形が悪いとかで二束三文の価値にしか成らず・・・歯痒い思いをしたものです⇒其の分消費者は高い買い物をしているのです・・・主婦の皆さん、分らないのかなあ??(>_<) と思う今日この頃ですm(__)m 自宅菜園すると目から鱗が・・・(^0_0^)v
投稿: 矢頭治虫 | 2011年12月29日 (木) 06時31分
正確な情報を開示する責任感が無いのに私腹を肥やすテクニックを磨く高級役人、物事の本質を判り易く解説する能力が無いのに庶民への優越感が高いだけのマスコミ、正しい判断力を持つ努力もせずに感情的に批判するだけの国民。五山の送り火等あまりにもアホらしい原発関連風評被害発生は日本民族の現状を象徴する出来事である 。
投稿: ミノル | 2011年12月29日 (木) 16時44分
なかなか難しいことですね。私が子供の頃、アメリカやロシアなどが太平洋や人のいない内陸で核実験を盛んにしていたころ、雨に濡れると頭が禿げるでえということを冗談交じりでよく言いました。母親はそのころの刷り込みがあるので、今週刊誌なんかで煽られると過剰反応してしまっています。これくらいの放射能は何もなくても宇宙から降ってると言っても85歳の硬い頭は変えられそうにありません。ただ今一番過剰反応しているのは、子供を持つ若いお母さんたちですね。被災地のがれき処理をどこの自治体も引き受けられないでいるのは、この世代のアレルギーが一番の原因のようです。週刊などであることないこと書きたてられないよう、政府がしっかりと事実に基づいた情報を発信するしかないのですが、だれもリスクを負いたくないので何も言わないですね。選挙だけを中心に据えて物事を考えてる彼らにはあきれるばかりです。税金の問題も根は同じですね。議員や公務員の貰いすぎ給与引き下げや国や自治体の構造改革は一向に進まず、楽なところばっかり考えています。支持基盤の労働組合票を気にしているとしか思えません。野党時代ならともかく、与党である今は人気取りは不可です。国民や国の将来を考えた長期展望に基づくポリシーを持ってほしいものです。でも人材がいないのが悲しいですね。サッカーや企業が海外から優秀な人材を監督や社長として引っ張ってくるようなことが出来たらいいのですが。
投稿: Harpalini | 2011年12月30日 (金) 10時09分
みなさん、コメントありがとうございました。
3月11日の震災とそれに伴う原発事故のあと、日本人の考え方も少しは変わるのではないかと思いましたが、考えが甘かったように思います。「自然」を理解し、それといかに折り合いをつけて付き合うかを考えられる人がもっと出てきて欲しいものです。
投稿: Ohrwurm | 2011年12月31日 (土) 21時49分