宮竹貴久著『恋するオスが進化する』
宮竹貴久著『恋するオスが進化する』
メディアファクトリー新書037
ISBN978-4-8401-4276-2
740円+税
2011年10月31日発行
190 pp.
目次
序章 愛は戦いである
トゲの生えたペニス/愛は危険である/今セックシに起きていること/ヒトに生まれた喜びを
第1章 性分化—オスは寄生者として生まれた
性の始まり/なぜ男と女が必要なのか/赤の女王仮説/性があれば歯車も戻せる/ぶらさがって生きていきたい/腹上死するオスグモ/頭が取れても挑むオス/姦通で「巣内引き回し」を受けるアリ/生涯一度のHのため爆死/誘惑される害虫のオスたち/恋するオスが地を覆う/惹き寄せられて殺されて/空からハエが降ってくる/●第1章のポイント
第2章 異性間選択—選ぶのはメス、泣くのはオス
なぜ性差があるのか?/ダーウィンとクジャク/二つの性選択説/メスはいつもハンサムに弱い/フィッシャーのランナウェイ/即物的な、あまりに即物的な/プレゼント増量作戦/あずま屋作りにいそしむ鳥/「当方持ち家あり、子育て上手」/性選択はどこで止まるのか?/二物を与えられるけれど/死を招く誘惑のメロディ/●第2章のポイント
第3章 同性内選択—戦うオス、企むオス
戦いとセックスの日々/蚊柱は男の戦場/体長ほど両目の離れたハンサム/小さい男のラブ&ピース/日本のカブトムシは時間差攻撃/にせオカマに寝取られる/セックスにサイズは関係ない/武器と睾丸、どっちに投資すべき?/4日間の雌伏/魅力的な太腿が弱点になる/●第3章のポイント
第4章 精子競争—子宮の中の競争
同性内選択はセックスの後も続く/精子だって無限じゃない/オスの臭いで精子が増えるネズミ/競争に「混ぜ込まれる」オス/協力し合う精子と殺し合う精子/永遠に受精の機会がこないとき/女性はあなたの精子を選ぶのか?/精子の数だけでなく質も重要?/睾丸でメスの貞淑さはわかる/●第4章のポイント
第5章 性的対立—モテないオスの大暴走
一致しないメスとオスの利害/精液の毒物質がメスを殺す/間男に殺される貞淑なハエ/なぜペニスにトゲが必要なのか/女は壁で防御する/ライスのチェイスアウェイ/せく薄はメスに損?/遺伝子レベルのすれ違いオスを立てるとメスに角が立つ/性的対立が新種を作る!/「あなたとじゃイヤ」/自然界でも性的対立が/危険すぎる異郷のオスとの恋/●第5章のポイント
第6章 繁殖コスト—浮気を巡る冒険
女性からの告白が流行るわけ/おいしい精包/彼女がさせてくれるわけ/受精もタイミングが肝心/間男に掻き出される精子/貞操帯を作ってしまうオス/わが身を呈して浮気を防ぐ束縛男/フライルームの切り裂きジャック?/メスをたらし込む安っぽいセックスの道具/●第6章のポイント
第7章 性転換—セックスはそもそもあやふやである
成り行き次第で性を変える魚/オスが不要になる場合/大感染!オスを殺す細菌/●第7章のポイント
終章 進化が「いいこと」なんて誰が言った?
余ってる、ゆえに戦う/「あなた」が進化しない理由/小さなカメムシの大きな謎/想像しよう、セックスのない世界
本書は長谷川英祐著『働かないアリに意義がある』に続く、メディアファクトリー新書「身につまされる生物学」のシリーズ第2弾である。
ボクの「生態学的発見」(第3章「魅力的な太腿が弱点になる」)をトピックとして取り上げていただいていたという縁で、著者の宮竹さんから本書をお贈りいただいた。ちょっと前に読み終えていたが、読後感を書くのが遅くなってしまった。宮竹さんにお詫び申し上げる。
宮竹さんとは学年で2つしか違わないが、学生時代にはお互い見ず知らずで、知り合ったのはボクが盛岡市にある東北農業試験場に勤務していた1991年のことで、その夏ボクは、ハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)の研究について色々勉強させていただくために、沖縄県農業試験場のサトウキビ害虫研究室に3か月ほどお世話になっていたときのことである。そのとき、平日の終業後のことだったか、休日のことだったかよく覚えていないが、宮竹さんほか、沖縄県農業試験場のAさんや、琉球大学のI先生などと洋書の輪読をしていた。どんな本だったか題名は覚えていないが、温度の変化によって発現するタンパク質(Heat Shock Protein)のことが書かれていたことを記憶している。その後、1997年にボクが石垣島に転勤になってから、再びおつきあいいただき、宮竹さんが石垣島においでになったときには、一緒のアシブトヘリカメムシの観察に行ったりした(本書第3章「魅力的な太腿が弱点になる」参照)。
さて、そろそろ本題に入る。
1970年代の終わり頃から、日本にも社会生物学とか行動生態学とか呼ばれる学問が進出して、日本においても生物進化に関する研究が流行し始め、当時学生だったボクも、その渦の中に巻き込まれないわけにはいかなかった。性淘汰の考え方はダーウィンが提示したものだが、その後まずそれの説明として推計統計学の確立者であるR. A. Fisherによってランナウェイ説が唱えられたのを皮切りに、A. Zahaviによるハンディキャップ理論、Leigh M. Van Valenによる赤の女王仮説など、様々な説が提示された。
本書は、それらによる性淘汰の結果と考えられている事例を、生物学を専門としてない人に対してもわかりやすく噛み砕いて(しばしばかなり俗っぽい表現も用いて)解説し、生物進化において、オスのメリットとメスのメリットの間にしばしば「対立」が存在し、ときには「騙し合い」があることなどを説明している。扱われている内容は「目次」を見ていただければだいたい理解できると思う。しかし、実にたくさんの事例が紹介されている!
扱われている事柄の対象は、竹内久美子氏の著書と通じるところもあるが、竹内久美子氏の著書が理論をはみ出して拡大解釈されていることが多いのに対して、本書は理論をはみ出していないところが大きく異なるところである。
本書は数多くの論文に基づいて書かれているのであるが、残念ながら参考文献の一覧は付けられていない。本書から原著にあたることはできないことが非常に残念であるが、本書は専門家向きではなく一般向きの著書であるため、仕方がないことかも知れない。できることなら、ネット上に参考文献の一覧を公開して欲しいものである。
(2012年2月14日追記)
ボクのリクエストに応え、著者の宮竹さんに引用文献のリストを公開していただきました。
引用文献リストはこちら(PDF)です。
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