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2011年9月 3日 (土)

池田清彦著『構造主義進化論入門』

池田清彦著『構造主義進化論入門』

講談社学術文庫
ISBN978-4-06-292037-7
920円+税
2011年2月9日発行
266 pp.

目次
学術文庫版まえがき
プロローグ ダーウィニズムの限界
 進化論の基本図式/ネオダーウィニズムに対する三つの反証
第一章 「進化論」の歴史−ダーウィニズム以前
 プラトンとアリストテレス/「進化論」前夜−中・近世ヨーロッパの生物観/ラマルクの『動物哲学』
第二章 ダーウィニズムとは何か
 『種の起原』を読む/「生物」と「進化」のトートロジー/メンデルの再発見
第三章 ネオダーウィニズムの発展
 総合学説の提唱者たち/分子生物学の発展/遺伝子とは何か
第四章 構造主義的アプローチ
 名と時間/共時性と拘束性/形式と認識
第五章 構造主義進化論
 進化法則/構造の性質/情報と解釈系
エピローグ 科学の挑戦
あとがき
ブックガイド

 本書は1997年に発行された『さよならダーウィニズム−構造主義進化論講義』に加筆修正を加えて文庫化されたものだが、明らかな事実誤認以外の加筆修正は最小限にとどめられているとのことである。
 昔、池田氏の『構造主義生物学とは何か』(1988、海鳴社)や『構造主義と進化論』(1989、海鳴社)を読んだときには、何が書いてあるのか全く理解できなかった「構造主義生物学」であったが、その後の池田氏の書く物を読むことにより、おぼろげながら池田氏の言うところの「構造主義生物学」がどんなものかが理解できるようになった。本書は「入門」となっているように、最初の二冊と比べれば遥かに読み易く書かれており、池田氏の言うところの「構造主義生物学」を理解するためにはお勧めの本だと思えた。
 生物進化についての学説において、今でもネオダーウィニズムが一番幅をきかせていると思うが、ネオダーウィニズムが拠り所とする突然変異と自然選択と遺伝的浮動だけでは種内とか属内の小さな進化を説明することはできても、単細胞生物から多細胞生物への進化とか、無脊椎動物から脊椎動物への進化とかいうような門レベルの大きな進化を説明するのはほとんど不可能である。
 生物進化の要因を遺伝子に還元するのではなく、生物をシステムとして捉え、要素の関係の転換によって生物進化を解釈しようというのが構造主義生物学の考え方である。池田氏が書いているように、まだこの考え方は思弁だけに留まっており、データを伴っていないが、ぼくにとっては説得力があるように感じられるようになってきている。
 本書では構造主義生物学だけが解説されているだけではなく、これまでの生物進化に関する様々な考え方の歴史も説明されており、構造主義生物学の置かれている立場も理解できると思う。
 「構造主義生物学」を信じるか信じないかは人それぞれで良いと思うが、無視する前に一度本書を読んでみたら良いと思う。

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コメント

明快な書評をありがとうございます。読んでみようと思いました。僕も以前,たしか『構造主義生物学とは何か』だったと思うんですが,大学生の時に読んで,「構造主義生物学」の内容がまったく理解できなかったと記憶しています。僕はその時すでに言語学の道に進もうと決めていたこともあり,ソシュールの「構造主義」という概念については基本は理解しているつもりでした。でしたから,両者はいったいどういう関係にあるんだろうか,という疑問をまず抱いたのを覚えています。

投稿: 野島本泰 | 2011年9月 3日 (土) 20時48分

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