養老孟司・徳川恒孝著『江戸の知恵』
養老孟司・徳川恒孝著『江戸の知恵 「三方良し」で日本は復活する』
PHP研究所
ISBN978-4-569-79013-8
1,300円+税
2010年9月10日発行
194 pp.
目次
まえがき(養老孟司)
第一章 開国か、鎖国か
日本は「人の文明」である/新しければよいというのは迷信/武器が美術品に変わってしまう/「脳化」によって衰える現代人の感覚/「言葉の開国」をすべきか/母国語で科学を教えられる国はアジアでは日本だけ/今の若い衆は「肥料のやり過ぎ」/中国人の命が削られ、日本人の雇用と技術が失われる/水族館のなかの世界認識/文法から英語を習うのは逆効果だ/外国語が話せるとかえって喧嘩になる/談合は複雑で面白い/日本にもう一度「文化運動」を/世界の「少数派」でいいじゃないか/自分がやった仕事なのか、お金がやった仕事なのか/江戸時代の政治に学べ/英雄時を得ず
第二章 大人のいない国・日本
自然と共生する「森の民」/日本はじるは「過酷な生存環境」/中国を取り囲むアジアの仏教国/フレキシブルな多神教、妥協を許さない一神教/「ミスター・トクガワは何を信じているのか」/新興国の経済発展を望むのか、望まないのか/金のかからない江戸文化/「武士に二言なし」という常識/失われた日本の商社マンの神話/「裏」が深いほど尊敬される/「潮力発電」に期待する/暴落する国産材木/まず森を何とかしなければならない/違法伐採は日本の罪?/日本の第一次産業を立て直す/人を訓練するしかない/人間を元気にする「コミュニティ」/本当の「大人」がいなくなった/社会共通の価値観−「修身」が教えてくれたもの/「アメリカ式」で日本はよくなるのか/良い意味で「やる気がない」幕府/大枠をつくったあとは「よきにはからえ」/権力者にこそモラルを強制した江戸社会/「町おこし」と細川藩の知恵/徳川吉宗による世界初の「国富調査」/貧乏でも暮らせる社会、貧乏で暮らせない社会/何ももたず、モノにこだわらない江戸の人々/「自分良し」「客良し」で終わっていないか/「古いアメリカ」としての日本
第三章 「家」と「世間」を取り戻す
夫婦別姓と「家」/原理主義的な法改正が「世間」を潰す/「私は女で得をした」/「自分は子供より賢い」という誤解/お婆ちゃんという逃げ場/十歳までの教育が子供の一生を左右する/理想の保育園はありえない/日本は「女性が気に入らなければ」何も動かない/女性のネットワークが歴史を変えた/男女平等は生物学的現実にそぐわない/「男女生存機会均等法」をつくろう/身を守る保険としての人間関係/伝統芸能も大工も政治も「世襲」/日本社会は三百年前から「サステナブル」だ/祖先崇拝の儒教、輪廻転生の仏教/「宗教からの自由」をいちはやく実現させた国/日本人は日本から足が洗えない
あとがき(徳川恒孝)
養老孟司氏と徳川恒孝氏の対談である。養老孟司氏は「バカの壁」で有名になった解剖学者。著作多数でそのかなりを読んだ。ぼくと考えることがそれなりに似ているらしく、養老氏の書くことはすんなりと頭に入ってくる。徳川恒孝氏は全然知らない人だったが、徳川宗家第十八代当主。
徳川氏の経歴は1940年生まれ、学習院大学政経学部政治学科卒業、日本郵船副社長を経て現在、顧問。財団法人徳川記念財団理事長、WWF(世界自然保護基金)ジャパン会長、社団法人東京慈恵会会長、財団法人斯文会(しぶんかい)名誉会長。
養老氏の言うことは、これまでの著書に書かれていることと基本的には違わないので、特に書き留めておくこともないので、徳川氏の発言で気に入ったものをいくつかあげてみたい。
『技術でも思想でも、とにかく新しければよい、というのは迷信です。』
『「利」の部分で競うのはほどほどにして、われわれは「義」や「文化」の面で世界に貢献したらよい。きっと多くの国々がついてきます。』
『かつての「経済大国」や近年の「科学技術立国」というスローガンもさることながら、「文化立国」はそれ以上の意味をもちます。』
由緒ある家柄の人とは言え、普通の会社に勤めておられたわけだが、経済効率至上主義に毒されていないことがわかるので、好感が持てる。
ちなみに、副題の『「三方良し」で日本は復活する」であるが、「売り手良し」、「買い手良し」、「世間良し」ということである。江戸時代は資源エネルギー経済的にもすぐれた社会だったと思うが、社会システムも学ぶべきことが多い。この「世間良し」というのも江戸時代の知恵だが、今の日本は「世間良し」というところがちょっと足りないように思うので、学べるところは江戸の社会を学んだら良いと思う。
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