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2011年6月26日 (日)

鷲谷いづみ著『生態系を蘇らせる』

鷲谷いづみ著『生態系を蘇らせる』

日本放送出版協会 NHKブックス916
ISBN4-14-001916-6
920円+税
2001年5月30日発行
227 pp.

目次
序章 今なぜ、生態系か
第一章 「ヒトと生態系の関係史」から学ぶ
1 イースター島になぜ森がないのか
2 白亜のギリシャはどうして生まれたのか
3 誰が北米大陸の生態系を変えたのか
4 足尾銅山で起きたこと
第二章 生態系観の変遷
1 『もののけ姫』の自然観
2 生態系を生体に喩えることはできるのか
3 生態系概念の誕生
4 単純な生態学理論がもたらした荒廃
第三章 進化する生態系
第四章 撹乱と再生の場としての生態系
第五章 健全な生態系とは
第六章 巨大ダムと生態系管理
第七章 生態系をどう復元するか
第八章 生態系を蘇らせる「恊働」
終章 生態系が切り開く未来
参考文献
あとがき

 鷲谷先生の著書を読んだのは『天と地と人の間で』に続く2冊目であるが、発行された時間の順番は逆で、本書の方が先である。『天と地と人の間で』がエッセイという形式で書かれていたのに対して、本書は専門家ではない一般の人に対する保全生態学に関する解説書のような形式で書かれている。
 「生態系を蘇らせる」ことに関しても「生物多様性」は深く関係している。本書を読もうとした一つの理由は、ぼく自身の「生物多様性」に関する理解を深めようとするところにある。『天と地と人の間で』には「生物多様性とは何か」ということについて詳しくは書かれていなかったと思う。
 本書を読み始めると序章の中で、なるほどと思わされた一文に出会った。『「生物多様性」とは、野生生物全般がおかれた、ヒトの強い干渉のもとでの危機的な状況を憂える進化学・生態学の研究者が、その問題を社会に広く訴えるために考案した一種のキャッチフレーズである。』(31ページ)。いま「生物多様性とは何か?」と問われれば、遺伝子の多様性、種の多様性、生態系の多様性、景観の多様性、などなどというものが答えになろうかと思うが、あまりにも「生物多様性」という言葉の意味するところが広すぎ、「生物多様性」とは怪しげな言葉としか感じられなかった。そこで『「生物多様性」とは・・・一種のキャッチフレーズである。』と言われれば、「生物多様性」という言葉が科学的に定義されたものではないわけで、合点がいくわけである。現実の問題に直面したとき、あまり「生物多様性」という言葉に囚われない方が良い、ということだろうと思う。
 さて、『天と地と人の間で』の中でも霞ヶ浦の「アサザ・プロジェクト」が紹介されていたので、その概略については知っていた。しかし、「なぜアサザなのか」という点に関しては『天と地と人の間で』の中では十分に説明されているとは言えず(まあ、エッセイなのだから仕方が無いとは思うが)、アサザの復元のプロジェクトの目指す目的については理解しきれないでいた。所詮、復元するとは言っても、心の原風景以上に遡ることはできないであろうと。本書には、アサザを復元することは一つの生態学的な実験である、ということが書かれており、その点でも一つ納得した。
 以上、ぼくが個人的に感じたことを書いたが、本書を読むことにより、生態系の機能を保全することがヒトにとって重要であることが、比較的容易に理解されると思われるので、多くの人に読んでもらいたいものだと思う。ただ、「生態系を蘇らせる」という表題は、適切だとは言えないようにも思える。本書に書かれていることを簡潔にまとめれば、「生態系を保全することはなぜ大切か」ということになろうかと思う。確かに第七章以降は生態系の復元について書かれていることは確かだと思うが。
 ところで、本書からは、意識的に外来種の問題が外されているので、鷲谷先生の外来種に関する考え方を知ることはできない。別の本(出版されているのかどうか知らないが)を読む必要がある。

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コメント

「生物多様性」というと、理解が漠然としているわりに「大切」というニュアンスがついてまわる気がしていましたが、「キャッチフレーズ」と言われてみれば、なるほど納得。
「生物多様性」をキャッチフレーズとふまえた上で色々考えると正しい理解がしやすいのかもしれませんね。

投稿: 星谷 仁 | 2011年6月26日 (日) 23時27分

星谷さん、いつもコメントありがとうございます。
 「生物多様性とは・・・キャッチフレーズである」と言われても、実際には「生物多様性」という言葉に囚われたり振り回されたりする人(=ぼく)もいるから困ったものです。

投稿: Ohrwurm | 2011年6月27日 (月) 07時02分

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