森山徹著『ダンゴムシに心はあるのか』
森山徹著『ダンゴムシに心はあるのか 新しい心の科学』
PHPサイエンス・ワールド新書039
ISBN978-4-569-79555-0
800円(税別)
2011年4月1日発行
223 pp.
目次
はじめに
第一章 心とは何か−「心の定義」を提案する
第二章 ダンゴムシの実験
第三章 ダンゴムシ実験の動物行動学的意味
第四章 「心の科学」の新展開
あとがき
参考文献
「じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記」や星谷仁さんのブログで紹介されていたので、図書館にリクエストして買ってもらって借りてきて読んだ。
著者はダンゴムシの行動に関する実験を通して「心」を見つけ出そうとしている。
残念ながら、ここで語られている「心」は客観的なものではなく、著者の頭の中だけにある主観的な「心」でしかないように思われた。
著者はダンゴムシの行動について様々な実験をしているが、ダンゴムシが常に「適応的」な行動をすることを前提としていて、「適応的でない行動」が現れたときに、それを「心」と結びつけているように感じられた。
自然選択の考え方のもとで、動物の行動も適応的であるものが進化してきたと考えられている。しかし、動物の行動がすべて適応的ですべて意味のあるものであることがすなわち自然選択の結果ということではないと思う。
著者は「適応的でない」行動を観察したとき、それを「予想外の行動」という言葉で表現している。本書を読む限り、著者はこの「予想外の行動」が、主体であるダンゴムシ(あるいは実験に供された生物)にとって「予想外」であるとしているようであるが、読者であるぼくから見れば、単にダンゴムシ(あるいは実験に供された生物)を観察している著者にとって「予想外」であったに過ぎないとしか思えない。
動物の行動は基本的には適応的に進化してきたものだとぼくは考えるが、と同時に完璧に適応的であるわけではなく、常にノイズを含んでいるものと考えている。生物が棲む環境は単純で均一ではなく、複雑で不均一であるのが普通であるから、環境(それが実験的に均一的な環境であったとしても)の中で生物が示す行動には、必ずノイズとなる行動、すなわち適応的ではない行動が部分的には含まれているはずである。
著者は、このノイズに相当する部分のデータのみを切り出して、そのノイズに意味を持たせようとして、それを「心」と表現しているようにぼくには感じられる。
全体として、一見著者は科学的な実験を行っているようにも見えるのだが、単にデータのノイズの部分にさも意味があるかのように解釈しているだけにしか思えなかった。
ということで、ぼくがこの本を評するならば、限りなく「トンデモ」に近いと言わざるをえない。
少なくとも、著者は自然物である生物を「ありのままに見る」ということをしておらず、恣意的に曲解していると思う。
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コメント
ファーブルに近いものがあるのかもしれませんね。ま、そこが日本人には受け入れられた要素なんでしょうけど。
投稿: おきしま | 2011年4月29日 (金) 15時41分
Ohrwurmさんの感想を楽しみにしていました。
僕が一般民間人のせいか、どうも納得できないなぁと感じていたあたりを明確に指摘されていたので、なるほどと改めて納得。
スッキリしました。
>著者の頭の中だけにある主観的な「心」でしかないように思われた。
というのは僕も感じていました。
他者の「心」は主観的にしかとらえることができないのか……そのあたりのことをこの本を読んだ後にあらためて考えたりしています。
ちなみにmixi日記に書いたのと同じ内容をブログの方にもアップしています。
●ダンゴムシの心?
http://blogs.yahoo.co.jp/ho4ta214/24581299.html
投稿: 星谷 仁 | 2011年4月29日 (金) 16時24分
おきしまさん、星谷さん、コメントありがとうございました。
星谷さん、リンクをmixiの日記ではなく、ブログに変更しておきました。
おきしまさん、ここで書かれていることはファーブルとは感覚が違うと思いました。不可思議なるものを説明しようとしているところに惹かれる人がいるとは思います。
星谷さん、見えないものを説明しようとしているだけに、客観的な説明が困難なのだろうとは想像がつきますが、この本ではおそらく著者が考えていることが十分に説明しきれていないと思いました。
投稿: Ohrwurm | 2011年4月30日 (土) 09時10分
大人の人の考えは、むずかしいです。
ダンゴムシを観察していると、いろんな子がいて、心があると思います。
森山先生の研究室へ遊びに行った時もそう思いました。
大人になったら、ダンゴムシの心の研究もしてみたいです。
大好きなダンゴムシに心があったら、うれしいです。
投稿: じゅじゅた | 2011年5月 5日 (木) 18時47分
じゅじゅたさん、コメントありがとう。
虫は本当に何を考えているのかわかりませんね。森山さんもそう思いながらダンゴムシで色々な実験をしたのだろうと思います。でも、ぼくがこの本に書かれている森山さんの実験の結果を見ても、ダンゴムシに心があるとは思えませんでした。一番の理由は、「心とは何か」というところが納得できないからだろうと思います。
じゅじゅたさんも、ぜひ「心とは何か」ということを研究してみてください。
投稿: Ohrwurm | 2011年5月 5日 (木) 20時38分
ネット上の書評は高評価が多かったので、Ohrwurmさんの書評を見て安心しました。
心の定義も疑問だし、権威をバックに正当化してくるのもイラっとするけど、何よりも実験とその解釈に納得いかない点が多かったです。迷路は「乗り上げてしまう」からテフロンシートを貼って防止したのに、壁包囲アリーナには紙やすりを貼るのは何故なのか。それで「登った!予想外!」って…。それに、野生のダンゴムシが雨上がりに湿度を嫌って塀を登るなら、水境界で障害物に乗り上がるのは当然な気がします。「球形化解除のきっかけが未知、ゆえにダンゴムシは自律性を有していると言える」なんて本気でしょうか。
生物の観察・実験はファクターが多くて予想外のことだらけです(私も農学系の大学院で研究してました)。それでも研究者は膨大なデータを集め、理論を抽出しようと努力しています。「予想外のことが起きました。はい、これが心です。」なんて、生物学への冒涜と言ったら言い過ぎでしょうか。
投稿: 小鳥遊 | 2011年6月24日 (金) 03時38分
小鳥遊さん、コメントありがとうございます。
本書の書評は星谷仁さんのもの以外は読んでいませんが、そんなに高く評価されているのでしょうか?観察したことを重要視する自然観察者としてはかなり「トンデモ」のように思えましたが、頭の中だけでモノを考えている人にとっては、案外と受けているのかも知れないですね。
森山氏の師匠の郡司ペギオ幸夫氏の本を読もうと果敢に挑戦したことがありましたが、理解不能でした。思考回路が根本的に違うのだろうと思います。
投稿: Ohrwurm | 2011年6月25日 (土) 13時48分