池田清彦著『オスは生きているムダなのか』
池田清彦著『オスは生きているムダなのか』
角川選書 469
ISBN978-4-04-703469-3
1,400円(税別)
2010年9月25日発行
193 pp.
目次
第一章 なぜオスとメスがあるのか
第二章 性の起源と死の起源
第三章 性の進化
第四章 人間の性決定と性にまるわる話
あとがき
表題だけ見ると福岡伸一著『できそこないの男たち』(2008年10月、光文社新書371)の二番煎じであるかのように思われた。この福岡氏の著書を読んだときには、性の基本はメスであり、SRY遺伝子が働くかどうかでオスになるかどうかが決まる、というように一般的な解釈をしていたが、本書を読めば、それは生物に一般的に共通する性質ではなく、人間の場合だけであることが理解された。福岡氏の著書を読んだときには、半倍数性生物ではSRY遺伝子がないのに半数体はオスになり、倍数体はメスになるのはどういうわけか、と疑問を持ったわけだが(ぼくが読み違いをしていた可能性が高いが)、その疑問は本書を読んで氷解した。
本書の著者である池田氏は実験生物学者ではないので、本書に書かれていることは基本的には池田氏が他の研究者が書いた論文や著書を読んで勉強したことをまとめたものに過ぎないはずであるが、一般の人が読にやすいようにうまく整理されまとめられていると思う。一流の学者なら(池田氏が一流であるか、ということに対して批判する人も多いと思うが)、さすがに色々と勉強しているものであると感じさせられる。
池田氏は構造主義生物学を掲げているが、本書を読む限り、池田氏がいつも批判しているネオダーウィニズムを完全に否定しているわけではなさそうに思われた。
第四章に書かれている人間の性決定に関する話は単純ではなく、いろいろな例外もあり、なかなか難しい話であることがわかった。性同一性障害という現象が存在することが話題になったのは比較的近年のことであると思うが、胎児期において形態的な性が決定する時期と脳の性が決定するする時期が異なり(後者の方が遅い)、そのため、その間で遺伝子の発現に異常があると性同一性障害という現象が現れると解釈できるというのには、なるほど、と思わされた。ぼく自身も、おそらく正常なY染色体とX染色体をもち、正常にSRY遺伝子が発現して、正常に育ってきたと思われるので、幸運だったと思わされる。今の高校の生物の教科書は見たことがないが、さすがにここまで細かく人間の性の決定について書かれているわけではないと思う。
池田氏は専門外の著書も多く、そのためにいいかげんなことを書いている、としばしば批判されるが、生物とはどのようなものであるかを一般の人(ぼくのような生態学が専門の生物学徒を含め)に対して上手に説明しており、福岡伸一氏と同じように、最先端の生物学のインタープリターとして貴重な人だと思われる。
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