田川研著『蝶も蛾もうつくしい』
田川研著『蝶も蛾もうつくしい 虫屋なる日々』
青土社
ISBN978-4-7917-6558-4
1,900円+税
2010年8月15日発行
230 pp.
もくじ
あらずもがなの序章
1 つまぐろひょうもん
2 普通種と珍種
3 カトカラと梅干し
4 つまきちょう
5 オオシモフリスズメは日本一
6 榎の蝶二種 ひおどし蝶、てんぐ蝶
7 普通に書いたらどうだ?
8 専門用語
9 虫屋百態(その1)
よろこびを小出しにする虫屋/一方、よろこびをバクハツさせる虫屋もいて/人間性の不気味な虫屋
10 トモエ蛾とホソオビアシブトクチバ
11 あけびこのは、ひめあけびこのは
12 スーパーマーケットの春
13 講演会
14 かすかな音が・・・・・・
15 これが偶然の一致であるはずがない
16 雨
17 虫屋百態(その2)
泣き上戸の虫屋/うぬが言ったことを片端から忘れる虫屋/はげしく後悔する虫屋/無口な虫屋は相手をするのもたいへんで・・・・・・
18 うすばしろちょう
19 いなかったところに、いるようになった
20 本のなかの虫
21 昆虫科
22 虫屋百態(その3)
広大無辺の知識を所有する虫屋/何をいっているのかわからない虫屋/闘う虫屋/ひがみの激しい虫屋
23 エミール・ガレ
24 なまえ
25 春の雨とマイ・フェア・レディーとエゾヨツメ
26 マーボー豆腐症候群
27 Bridge Over Troubled Water
あとがき—With A Little Help From My Friends
ケンさんの『虫屋の虫めがね』、『虫屋のみる夢』に続く3冊目のエッセイ集である。『虫屋の虫めがね』の感想を書いた時、北杜夫の『どくとるマンボウ昆虫記』以来の面白さだ、と書いたが、この本の帯には奥本大三郎さんによって「田川研さんのユーモアは、『どくとるマンボウ昆虫記』の、北杜夫さんの後を継ぐもの、と言ってもいいだろう」と書かれている。どくとるマンボウの文体がそうであるように、ケンさん独特のユーモアに溢れた文体(いわゆる「田川節」とでも言うか「ケンさん節」とでも言うか)は読者であるぼくを惹き付ける。
この本(前の2冊を含め)を読むと、ケンさんが本当に虫や自然が好きなのだなぁ、ということがわかる。ぼくが虫や自然が好きなのは同じだが、専門の道に入ってしまったため、虫や自然を客観的なものとして捉えようとするようになってしまい、そのことによって本当の虫や自然の楽しさを遠ざけてしまっているのではないか、とケンさんの本を読むと実感される。虫を飼育することにしてもそうである。中学生や高校生だった頃、この本の中でケンさんが楽しんでいるように、蝶の幼虫を飼育することは楽しいことだった。今は、仕事で虫を飼育「しなければならない」という状況になっていることが多く、家に帰ってから飼育している虫の世話をしようなどとは思わなくなってしまった。よくない事である。
副表題となっている『虫屋なる日々』は、この本の内容をよく表している。どっぷりと虫屋の世界に浸っていると、ケンさんがこの本に書いたことと似たようなことを考えることが多い。ほかの「虫屋」との交流も楽しそうである。「虫屋百態」で描かれている虫屋が具体的に誰なのかはよくわからないが、そのような虫屋は確かにいそうだ、と思わされる。ぼくはケンさんとの面識はないが、ケンさんがぼくのことを知っていたら、題材にされてしまいそうに思える。ケンさんは虫を楽しんでいるだけでなく、虫屋との交流も思いっきり楽しんでいるのだなぁ、と実感される。
虫に縁の無い一般の人がこの本を読んだらどのような感想を持つか想像がつかないが、現役の虫屋であったり、過去に虫屋であった人がこの本を読めば、間違いなく面白いと思えるはずである。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
先日はサロンお疲れ様でした。
おもしろそうな本ですね。
虫屋百態・・・・
地味な私には気になります(^^;)
投稿: シロヘリ | 2010年9月13日 (月) 19時02分
シロヘリさん、先日はどうも。
津市津図書館にありますので、ぜひお読みください。
投稿: Ohrwurm | 2010年9月13日 (月) 19時31分
教えてください。
”蝶も蛾も美しい”p147、2行目ーひろげた羽の翅派ごしに・・・とありますが、図書館で図鑑等を調べましても”翅派”という言葉を見つけられません。”翅脈”(しみゃく)はあるのですが。翅派=しは、と読んでいいのでしょうか。
私、視覚障害者朗読ボランティアをしており(本を一冊、CDやカセットテープに録音して視覚障害者に聞いていただく)正確な読みが必要とされます。全く場違いなコメントで申し訳ありません。
投稿: 松本奈里子 | 2010年10月26日 (火) 15時56分
松本奈里子さん、はじめまして。
大変手間がかかるお仕事をこなされているようで、頭が下がる思いです。
ご質問の件ですが、「翅派」は「翅脈(しみゃく)」の誤植に疑いありません。ぼくの場合、文脈から無意識に「翅脈」と読んでいました。誤植があっても、無意識に頭の中で訂正して読んでいることは、これまでにもしばしばありました。
投稿: Ohrwurm | 2010年10月26日 (火) 17時09分