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2010年9月11日 (土)

桐谷圭治著『「ただの虫」を無視しない農業』

桐谷圭治著『「ただの虫」を無視しない農業 生物多様性管理』

築地書館
ISBN4-8067-1283-3
2,400円+税
2004年3月31日発行
192 pp.

目次
第I章 農業の将来
世界の人口、農業、環境/アジアの農業環境と稲作/アジアにおける稲の病害虫防除/アジアにおける農薬汚染/一石三鳥の要防除密度/緑の革命−稲の新品種/総合的有害生物管理(Integrated Pest Management: IPM)/日本農業への期待−水田の多面的機能/総合的生物多様性管理(Integrated Biodiversity Management: IBM)
第II章 化学的防除の功罪
化学農薬依存への反省/BHCの環境汚染/BHCの使用禁止−IPMへの第一歩/農薬の負の遺産(1)/農薬の負の遺産(2)/農薬の選択的毒性/もし農薬がなかったら/減農薬の試み/減農薬の理論/減農薬の実践/ニカメイガの減少−無意識のIPM
第III章 有機農業の明暗
自然の加害者から保全者へ/有機農業とは/有機農業への期待−日本/有機農業の隘路/有機農業の未来
第IV章 施設栽培の生態学
農業生態系と害虫相/世界3位の施設園芸国/施設の害虫相/生物的防除を基幹にしたIPMへの移行/IPMの決算/地球温暖化を先取りする施設栽培
第V章 総合的生物多様性管理(IBM)
生き物を育てる機能/IBMの理論/水田のIBM/IBMを実行するための基本的考え
あとがき
参考文献
害虫防除の年譜
節足動物、センチュウの和名と学名の一覧
索引

 ちょうどぼくが石垣島から現任地へ異動してドタバタしていた頃に発行された本ということもあり、これまで読む機会を逸していた。この本は読んでいなくても、学会やシンポジウムや研究会などの機会に、著者である桐谷さん(桐谷さんは日本を代表する農業昆虫学者で、偉大なる大先輩でもあるわけだが、若手に対しても対等の関係で接していただける方なので、ここでは「桐谷さん」という呼称を使いたい)の発言は多く耳にしていたので、この本を読まなくても、大体の内容は想像できると思っていた。が、それはかなり間違っていたことがわかった。
 桐谷さんはIBM(コンピュータ会社の名前ではなく、Integrated Biodiversity Managementの略である)という概念の提唱者である。これまでのIPM(総合的有害生物管理: Integrated Pest Management)からさらに範囲を広げて、これからの時代は、農作物の病害虫に直接関係のない生物も含めて、なるべく環境に負荷をかけないで農業を行えるようにしよう、という考えである。おそらく、多くの研究者はこのような考えに至ったことと思うが、それを新しい概念として提唱したところが一流の研究者である桐谷さんが凡人ではないところだと思う。
 この本から、害虫が概念として登場して以来の害虫防除についての歴史も知ることができる。桐谷さんは、BHCの使用禁止に至る時期から現場で仕事をしていただけに、この本に書かれていることは説得力がある。大学や国の農業試験場などで仕事をしていた人には書けなかったであろうことがたくさん書かれている。ぼくがこの道に入った1980年代後半は、皆殺し的な殺虫剤に対する批判が既に高まっており、BT剤やIGR剤などのような選択的毒性をもつ殺虫剤が増えてきた時代だった。それからさらに「生物多様性」という概念が登場し、農業生産現場においても無視すべきことではないと捉えられるようになってきた。
 いま、ぼくが仕事として行っている研究は、農業生産現場における生物多様性に関わるものである。この仕事に関わるようになって以来、それまで農業とは自然を破壊した上で成り立っているものであると考えていたため、「農業」と「生物多様性」の関係について、いまひとつしっくりこないものがあったが、この本を読んで概要はそれなりに理解できたような気がする。もっと早く読んでおくべき本であったと思う。
 この本の引用文献のリストに、ぼくが書いた論文が1つあった。ヒメハナカメムシの休眠に関するものである。あの頃はいろいろと苦しい思いをしながら仕事をしていた、ということが思い出されるが、このような本に引用されると、やはり嬉しい。

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