小長谷有紀・山極寿一編『日高敏隆の口説き文句』
小長谷有紀・山極寿一編『日高敏隆の口説き文句』
岩波書店
ISBN978-4-00-024504-3
2,000円+税
2010年7月28日発行
194 pp.
目次
まえがき対談 小長谷有紀×山極寿一
I
フランスにおける日高行動学 岸田 秀
マウンティング 内田春菊
どうせ動物行動学で全部説明されている 山下洋輔
氏の語学力はつとに有名である 羽田節子
「拝啓リュリ様」 安野光雅
日高敏隆の櫛と鏡 赤瀬川原平
II
映画『もんしろちょう』の日高敏隆 羽田澄子
師に学ぶ 保賀昭雄
人間という生き物を知る 桃木暁子
昆虫写真家の誕生 栗林 慧
雑誌「アニマ」の時代 澤近十九一
「未来可能性」という口説き 嘉田由紀子
III
日高先生のお洒落 今江祥智
「文化生命科学者」との出会いから 堀場雅夫
チョウはどこまでカミか 中西 進
きみは今,椿なの.僕は今,人間だよ. 梶田真章
人類はどこへ行くのか 松井孝典
「生のかたち」への視点 原 ひろ子
IV
すがすがしい口説き方—『動物と人間の世界認識—イリュージョンなしに世界は見えない』読み直し 坂田 明
動物行動学者の喜び—『チョウはなぜ飛ぶか』読み直し 今森光彦
美しい批判—『エソロジーはどういう学問か』読み直し 亀崎直樹
ネコの世界でももてたかな—『ネコたちをめぐる世界』読み直し 山岡亮平
日高さんに学ぶ—『ぼくにとっての学校—教育という幻想』読み直し 尾池和夫
感覚で学べ—『大学は何をするところか』読み直し 養老孟司
地球環境学という口説き—『子どもたちに語るこれからの地球』読み直し 湯本貴和
日高さんの自由さと人間論—『人間は遺伝か環境か? 遺伝的プログラム論』読み直し 黒田末寿
日高先生のかたり—『プログラムとしての老い』読み直し 松林公蔵
あとがき対談 山極寿一×小長谷有紀
去年の11月に亡くなった日高敏隆先生ご本人や日高敏隆先生の著書について、様々な人が語っている。
ぼくは中学生だった頃、『昆虫という世界』(朝日新聞社)を読んで日高先生に魅せられたひとりだが、本書に文章を寄せている皆さんも、様々な形で日高先生に魅せられた人たちだと思う。ひとそれぞれに日高先生との接し方が違い、ぼくと同じように感じた人がいる一方で、ぼくとは全く違った繋がり方をしている人があったりと、ぼくの知らない日高先生を知ることができて面白い。
ぼくが日高先生のお顔を初めて拝見したのは、確か学部の学生だった頃だったが、ちょうどその頃、日高先生が中心になって設立された日本動物行動学会の最初の大会が開催され、ぼく自身も大学院への進学が決まった頃で、その後学部は違ったものの、日高先生のお顔を拝見する機会が多くなった。日高先生はお洒落で格好良く、先生の回りには必ず何人かの女性がいたことは強く印象づけられた。この点については、本書でも複数の方から語られている。
日高先生の学者としての顔ではなく、生い立ちについて知ったのは『ぼくにとっての学校—教育という幻想』を読んだときである。この本については、ぼくが学位を取って学位記を手渡していただいたときの京都大学総長の尾池和夫先生が語っている。尾池和夫先生が理学部の教授になられたときの学部長が日高先生であり、学部長として、またその後の滋賀県立大学学長、総合地球環境学研究所所長としても優秀な手腕を発揮されたことが語られている。
ぼくが直接日高先生とじっくりお話することができたのは、ぼくが石垣島に住んでいたときのことで、ちょうどその頃に日高先生は『動物と人間の世界認識—イリュージョンなしに世界は見えない』を出版されており、「イリュージョン」をキーワードにいろいろお話をうかがうことができた。この本については坂田明さんが語っているのだが、生物学とはあまり縁がなさそうな坂田さんが一応生物学を学んだぼく以上に深く「イリュージョン」を理解されていると思われるのは、専門外の人を惹き付ける魅力のある日高先生の文章の力であるように思われる。
それにしても本書を読むと、日高敏隆という人間が類い稀なる才能を持った人物であったことが理解される。これほど自由な発想ができる人間が、少なくとも今の日本にはいないように思われるし、今後もなかなか出てこないのではないかと思う。第二の日高敏隆が現れることを心から希望する。
本書は日高ファンなら文句無しに読むべき本であると思うし(なんていう事を書かなくても、読んでいるだろうが)、そうでない人が読んでも面白いだろうと思う。
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コメント
こんばんは。
坂田明さんは、広島大学の水畜産学部(現在の生物生産学部)を卒業していますので、生物学を学んでいらっしゃるのですよ。
投稿: Zikade | 2010年9月27日 (月) 19時31分
Zikadeさん、こんばんは。
坂田明さんの経歴については迂闊ながら知りませんでした。生物学とジャズミュージシャンがどうやって繋がっていたのかと不思議に思っていました。
投稿: Ohrwurm | 2010年9月27日 (月) 19時37分
サカタさんはサックスを咥えて、ハチャメチャなフリージャズでデビューしたというのが「通説」ですが、ミュージシャンとしてはたしか、広大の交響楽団の打楽器パートのほうが早いです。本番中に打ち鳴らしたシンバルの革紐が切れて、落下したお椀が床の上で無残な音を上げながら回転し、会場がフリーズする中でやがて鳴り止んだ・・・というアクシデントがあって、楽団を「引退?」したそうです。
わたしはサカタがピアノを弾きながらヤケクソ風に歌う「チョウチョ」が一番気に入っています。
wikiをみたら、最近、プランクトン学会で表彰されたようですね(^^ゞ
投稿: こけた | 2010年9月29日 (水) 21時09分
こけたさん、どうもです。
坂田さんについては、本当に何も知りませんでした。いろいろなエピソードがあるようですね。
それにしても、プランクトン学会で表彰されたとはすごい。どんなことで表彰されたんでしょうね?
投稿: Ohrwurm | 2010年9月29日 (水) 21時14分