福岡伸一著『プリオン説はほんとうか?』
福岡伸一著『プリオン説はほんとうか? タンパク質病原体説をめぐるミステリー』
講談社 ブルーバックス B-1504
ISBN978-4-16-372430-0
900円+税
2005年11月20日発行
246 pp.
目次
はじめに
第1章 プルシナーのノーベル賞受賞と狂牛病
第2章 プリオン病とは何か
第3章 プリオン説の誕生
第4章 プリオン説を強力に支持する証拠
第5章 プリオン説はほんとうか−その弱点
第6章 データの再検討でわかった意外な事実
第7章 ウィルスの存在を示唆するデータ
第8章 アンチ・プリオン説−レセプター仮説
第9章 特異的ウイルス核酸を追って
おわりに
さくいん
コラム
アタキシアの謎
正常型プリオンタンパク質の機能
酵母プリオン
ウイリノ説
本書は 『もう牛を食べても安全か』に続く福岡氏の著書であるが、2005年発行のものであるので、もう5年も前のものである。この分野の研究は競争が激しいと思われるので、その後の進展もあるものと思われるが、版が重ねられているので(実際に手にしたのは2009年8月28日発行の第11刷である)、それほど大きな進展はないのであろうと想像される。
本書は、これからこの分野の研究に入ろうとする若い人をターゲットに書かれたように思われた。もちろん、この分野の研究者になろうとする人でなくても、「プリオン説とはどんなものか」とか、本書の表題そのものの「プリオン説はほんとうか」ということに興味がある人が読めば十分に面白いと感じられると思う。ぼく自身、この分野には門外漢であるが、面白く読むことができた。
プルシナーによるプリオン説はよくできた仮説である。狂牛病の話題が賑やかだった頃、一般の新聞でも、「異常型プリオンタンパク質によって正常型プリオンタンパク質が異常型に変えられることによって狂牛病が発症する」という説明がなされていたのを記憶している。その当時、一般市民と違わないぼくは、それは仮説ではなく事実だ、というような印象を持った。ところが、専門家から見れば、プリオン説では十分に説明できないことがたくさんある、ということだ。本書では、プリオン説が詳しく説明され、さらにプリオン説の弱点が詳しく説明され、プリオン説が完全ではないことを説得力をもって説明されている。
著者である福岡氏は本書の表題から想像されるとおり、もちろんプリオン説は間違いであるという立場に立っている。すなわち、狂牛病(やそれに類する病気)の病原体はタンパク質ではなく、核酸を持った微小なウイルスか何かであるという立場である。それを説明する仮説も本書の中で解説されている。
「おわりに」の中で福岡氏自身の言葉によって、このようなこれから証明されるべき仮説を本書のような一般書の中で語るのは科学者の立場としては邪道かも知れないが、自分自身の能力(主に実際の実験を行うための労力)を越えているので、あえて自分の考えを提示することによって、この分野に参入する人にも読んでもらいたい、という趣旨のことが書かれている。プルシナーがノーベル賞を受賞したように、本当に狂牛病のメカニズムを完全に解明できればノーベル賞の受賞に値するものであろうと、素人ながら感じられる。もちろん、福岡氏の仮説にも問題点がないわけではないだろうが(ぼくは素人なのでそこまではわからない)、このような未解明の問題に関する自分の仮説を惜しげも無く提示する福岡氏の態度には賞賛できるものがあると思う。自分の手の内を明かすことは、なかなかできることではないと思う。
この本が書かれてから5年経っているが、いま疑問は何処まで解明されているのだろうか?
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