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2010年7月11日 (日)

日高敏隆著『世界を、こんなふうに見てごらん』

日高敏隆著『世界を、こんなふうに見てごらん』

2010年1月31日発行
集英社
ISBN978-4-08-781436-1
1,300円+税

163 pp.

まえがき
目次
◎エッセイ
 「なぜ」をあたため続けよう
 人間、この変わったいきもの
 宙に浮くすすめ
 それは遺伝か学習か
 コスタリカを旅して
 いろんな生き方があっていい
 行ってごらん、会ってごらん
 イリュージョンなしに世界は見えない
 じかに、ずっと、見続ける
 いつでもダンスするように
◎講演録
 イマジネーション、イリュージョン、そして幽霊
あとがき(今福道夫)

 去年(2009年)の11月14日に亡くなった日高敏隆先生のエッセイと講演録である。
 ぼくは、中学生だった頃に日高先生の『昆虫という世界』(朝日新聞社)を読んで以来、日高先生のファンである。日高先生には憧れていたが、大学に進学するとき、日高先生のいる理学部に入るだけの学力がないと判断して昆虫学の講座がある農学部に進んだが、ファンであり続けたことは間違いない。日高先生は京都大学を定年で退官されたあとも、滋賀県立大学学長や総合地球環境学研究所所長を歴任され、その間にも若々しい発言を続けられた。
 本書に収録されているエッセイは『青春と読書』2009年2月号から12月号までに掲載されたものであるから、まさに日高先生の最後の言葉とも言えるものである。2009年10月の昆虫学会大会には出席の連絡をいただいていたにもかかわらず出席もままならなかったわけで、「これが最後の言葉だ」とご自分でわかっておられたのではないかと思う。本来あとがきは著者によって書かれるものであるが、本書が出されたのは日高先生が亡くなったあとであり、お弟子さんである今福道夫先生によって書かれている。
 本書の中のもっとも重要な言葉は「イリュージョン」であると思う。2003年ごろだったと思うが、ぼくが当時住んでいた石垣島に、何かの調査で日高先生がおいでになり、日高先生とぼくを含んだ4人で食事をする機会に恵まれたことがあった。そのときの日高先生のお話の中でも何度も「イリュージョン」ということばが出てきたことが強く印象に残っている。人間は真実を実感することはできず、実感されるものは、人間の感覚を通して理解されるイリュージョンに過ぎない、ということである。ちょうどその頃、『動物と人間の世界認識−イリュージョンなしに世界は見えない』 という本が出るか出ないかぐらいの時期だたと思う。その食事のときにはよくわからなかったが、その後『動物と人間の世界認識 - イリュージョンなしに世界は見えない』 を読み、なるほど、と思った。
 本書でしきりに強調されているが、日高先生の研究の進め方は、普通の型にはまった自然科学のやり方、すなわち「仮説を立ててそれを検証するというやり方」ではない。一般に自然科学では「どのように(How)」を明らかにしなければいけないという暗黙の了解があるが、日高先生は「なぜ(Why)」をもっと大切にしなければいけないと説いている。ちょうどぼくが大学院生だった頃、日高先生が中心になって動物行動学会が設立され、動物行動学が科学として認知されるようになり、「どのように(How)」を明らかにすることだけが科学ではなく、「なぜ(Why)」を説明できることにすることも大切だとされるようになった。「なぜ(Why)」を明らかにしたところで、新しい「コト」が生まれるわけではないが、これまでわからなかったことが理解されることで、霧が晴れたような気持ちになり、面白く感じられるものだ。ぼくは日高先生の弟子ではなく、ひとりのファンに過ぎないが、ぼく自身の研究スタイルは、日高先生から大きく影響を受けていると思っている。
 日高先生のような研究スタイルは、自然科学のなかで主流派にはなりえないと思うが、研究の面白さを知ることができるという点で、日本の科学にとって大変貴重な人だったと思う。このエッセイ集には、そのエッセンスが詰まっていると思う。

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