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2010年6月13日 (日)

畝山智香子著『ほんとうの「食の安全」を考える』

畝山智香子著『ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想』

化学同人 DOJIN選書028
ISBN978-4-7598-1328-9
1,600円+税
2009年11月30日発行
224 pp.

目次
第1章 「基準値」はいかに決まるか 
一 残留農薬はすべて“危険”なのか?
(毒性影響を確認する実験/一日許容摂取量/最大残留基準値/基準値違反は安全性に問題があるのか/回収・廃棄は正しい対応なのか/農薬の暴露量評価/日本の対応に改善を望む)  
二 天然は常に“安心”なのか?
(食品添加物の基準値違反/天然添加物/天然だから安心なのか/安全側にどれだけ余裕をもたせるか)
 コラム1 安全性試験における優良試験所基準とガイドライン 
三 安全基準は厳しければよいのか?
(タマネギがもし食品添加物だったら/ジャガイモに含まれる配糖体がもし残留農薬だったら/遺伝子組換え食品の安全性)
 コラム2 レギュラトリーサイエンスとはなにか   
四 参考にする値はなにを用いたらよいのか?
(中国製冷凍餃子事件/メタミドホスの影響が出る量/残留農薬の基準は中毒症状の値に当てはまらない/日本での毒物混入事件)
第2章 発がん物質のリスクの大きさをどう考えるか
一 発がん性とはなにか
(「発がん性がある」という言葉の意味/注意すべきは遺伝毒性発がん物質/発がん物質のリスクを比較する/カビ毒と臭素酸カリウムのどちらが危険?)
 コラム3 動物実験での「発がん性」の定義  
二 発がん性のリスク評価
(遺伝毒性発がん物質の評価方法/MOEの計算方法/遺伝毒性のリスクをどう評価するか/微量でも発がん物質は危険か/マラカイトグリーンの危険な摂取量/マラカイトグリーンに発がんリスクはあるのか)
 コラム4 化学発がんの歴史  
三 健康的な食生活にもっとも大切なことはなにか?
(障害調整余命年数の損失原因/日本での推定/一般の人は発がんリスクをどう受け止めているか/がん予防のためにできること)
 コラム5 Alar
第3章 食品のリスク分析はどのようになされているか 
一 魚中メチル水銀のリスク分析
 コラム6 リスクコミュニケーションの一方法としてのパブリックコメント募集
 コラム7 安全性が高いと小さいリスクが問題視される  
二 トランス脂肪酸のリスク分析  
三 緊急時のリスク分析
(中国のメラミン汚染ミルク事件/米国ペットフードのメラミン汚染事件/メラミン汚染事件のその後)  
四 リスクとどう付き合うか
(リスク分析の課題/多様な選択肢でリスクを分散させる/リスク分析は日常生活にも役立つ)
第4章 食品の有効性をどう評価するか
一 抗肥満薬はやせ薬なのか?
(競争の激しい抗肥満薬開発/食欲抑制作用/動物実験だけではわからない副作用/脂肪吸収抑制薬)  
二 ビタミン剤でがんの予防ができるのだろうか?
(ビタミンの健康影響/ビタミン剤にがんの予防効果は期待できない)  
三 健康強調表示の“科学的根拠”とはなにか
(健康強調表示はどのようになされているか/魅力的な健康強調表示は期待できない—FDAによる評価/厳密な根拠を要求するEFSA/特殊な認可基準 —日本の特定保健用食品の評価  必要となる評価基準の統一)
 コラム8 高濃度にジアシルグリセロールを含む食品の安全性について  
四 健康的な食生活とは
 コラム9 食品は効果も毒性も不明な多数の化学物質の塊 終章 健康的な食生活を送るために—科学リテラシーを育む 
一 食の安全の本質はなにか?(オーガニックは優れているか?/情報の本質を見抜く)  
二 ジャガイモから考える食の安全
あとがき

 厚生労働省国立医薬品食品衛生研究所という公的な機関に研究職として在籍しながら個人的なブログで食の安全について情報を発信されている畝山智香子氏の著書である。
 食品添加物は危険だとか、天然ものが安心できるとか、オーガニック食品の方が体に良いとか、様々な食に関する情報が氾濫しているが、そのほとんどには科学的な根拠が無く、様々な事例をあげながら、残留農薬の基準値の設定の仕方やその値の意味、発がん物質のリスクの大きさの考え方、またそれらに関するはリスク分析やリスク評価の方法などを紹介しながら、結局のところ、余計なサプリメントなどは摂らず、様々な食品をバランス良く摂取することが、体にとって一番安全である、ということが語られている。
 ぼくの場合、残留農薬がもっとも関わりが深い部分である。農薬登録には、残留毒性、防除効果など、様々な試験に合格したものが農薬として登録されて流通している。農薬の使用には様々な基準があり、それを守って使用されていれば、生産物を食べる人間にとってのリスクは無視できると考えるのが科学的な態度であると思う。しかし、巷にまかり通っているのは、農薬を使用したものは危険であり、有機栽培で作られたものが安全である、という「神話」である。ぼくたちは確かに「農薬の使用を減らそう」という目的をもって研究している。しかし、その理由は食に対する安全性だけが目的というよりもむしろ、過剰な農薬の使用によるコストの上昇を防いだり、農薬使用の対象となっている害虫なり病害なりの巻き添えを食らう標的外生物への影響を減らしたり、それを通して環境への負荷や生物多様性に対する悪影響を減らしたりしよう、という視点の方が中心になっている(と、ぼくは考えている)。
 それはともかく、天然物の中には食品添加物として認められている人工物より毒性や発がん性の高いものもたくさんあり、天然物そのものの成分組成そのものが明らかになっていないし成分組成のばらつきも大きいためにリスクを評価できないのに対して、医薬品や農薬などの人工物には人畜に対する影響を調べた試験事例の蓄積がたくさんあるので、定量的なリスクが明らかになっている程度という点では、人工物の方がリスク管理がし易いということは確かであり、本書でもそれについて繰り返し述べられている。メディアは人工物に関するリスクを必要以上に強調して不安を煽っていると本書でも指摘されているが、ぼくもまさにそのとおりだと思う。
 本書は、食について不安を持っている人には、ぜひ読んでもらいたいと思う本である。健康で長生きすることを望むなら、余計な情報に惑わされることなく、適量のバランスの良い食事を摂ることだということが理解されると思う。

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