« じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記 | トップページ | 池田清彦著『昆虫のパンセ』(新装版) »

2010年5月13日 (木)

岩槻邦男著『生物多様性のいまを語る』

岩槻邦男著『生物多様性のいまを語る』

のぎへんのほん
研成社
ISBN978-4-87639-415-9
1,500円+税
2009年9月25日発行
234 pp.

目次
はじめに
1章 生物多様性とは何か
 1・1 生物多様性を考える
 1・2 生物多様性の三つの側面
  種多様性
  遺伝的多様性
  生態的多様性
 閑話休題:知っていること、知らないこと
2章 生物多様性と人間生活
 2・1 遺伝子資源としての生物多様性
 2・2 人間環境を支える生物多様性
 2・3 生物多様性の利用
 閑話休題:恐竜化石が語ること、コケシノブが語ること
3章 生物多様性と生命科学
 3・1 生物の進化と多様性─生命の特性としての生物の多様化
 3・2 生きているとはどういうことかを究める
  系統はどこまで解明できるか
  不可知論か、解明することへの期待か
 3・3 生物多様性の科学のこれから
4章 生物多様性の危機─絶滅危惧種が教えてくれるもの
 4・1 絶滅危惧種の現状を診断する
 4・2 絶滅危惧種が頻発する
 4・3 絶滅危惧種を保全する
  絶滅危惧種を知る(調査)
  絶滅危惧種を護る(保全)
   自生地保全
   施設内保全
  絶滅危惧種の貴重さを認識する(普及活動)
 閑話休題:生命の畏敬を生物多様性から考える
5章 日本列島開発の歴史
 5・1 日本列島の自然
 5・2 文明が育てた植物たち
 5・3 日本列島の自然と人間
6章 里山で生物多様性を見る─日本人の自然観
 6・1 里山は日本人のこころ
  日本列島の開発の特性
  人里・里山・奥山
  鎮守の森
 6・2 里山が荒廃する
  奥山に生きる野生動物
  里山の明日のために
7章 生物多様性条約と日本─生物多様性国家戦略から生物多様性基本法へ
 7・1 生物多様性国家戦略が整う
 7・2 第三次生物多様性国家戦略
 7・3 2010年の生物多様性
  生物多様性との調和ある共存のために
8章 生物多様性の生─生命系を生きる
 8・1 生き物の年齢を数える
  個体の年齢
  生命の年齢
  からだの年齢
  生命体を構成得得る物質の年齢
  生き物の年齢
 8・2 生物圏を生きる
  生成の生命と生物多様性
  個体の生存と生態系
   人と直接の関係をもつ生き物たち
   間接的な関係性
  生命の歴史と生態系の歴史
  細胞の生、多細胞の個体の生、そして生命系の生
 8・3 生命系の生─個体より上のレベルの生を生きる
  系統─すべての生物種は親戚関係にある
  個体発生と系統発生
  生命系
  ガイアとビオヒストリー(生命誌)
9章 生物多様性の持続的利用─人と自然の共生
 9・1 人は環境に営為を及ぼす
  自然と人為・人工
  新石器時代の日本列島
 9・2 人と自然の共生
  自然破壊
  自然保護
  環境保全
 9・3 持続性の科学
  生物多様性の持続的利用
  地球の持続的発展
  科学の発展と科学的知見の普及
 閑話休題:共生の科学と技術
10章 生物多様性を博物館で考える
 10・1 学習と教育
  生涯学習と生涯教育
   言葉の定義
   教育と学習
   学ぶと習う
  学校教育と生涯学習
   知育以外の学校教育
 10・2 どのように学ぶか
  科学するのは誰か
   科学を学ぶ
   学んだことを起点に思考する
   科学する歓び
  生涯学び続ける
 10・3 生涯学習
  日本の博物館
   学校と博物館
   博物館法
  生涯学習と生物多様性
 閑話休題:ひとはくの試み、成果
参考文献  

 著者の岩槻邦男氏は、ぼくでも名前を知っているほど有名な植物分類学者である。
 例によって、「生物多様性とは何か」を知りたくて本書を手にした。しかしながら、ぼくが望んでいた回答は、本書には記されていないようだった。「生物多様性」の意味するところは非常に幅広く、とても簡単には定義できないということなのだろう。
 本書を読んで、いま生きている生物を保全することが大切である、という主張がなされていることは理解できたが、現在までの30数億年の生物の歴史の中には、これまでに莫大な種数の生物の絶滅があるにもかかわらず、そのことについては全く触れられていなかったように思え、掘り下げ方が足りないように思えた。本書を読む限り、著者はせいぜい数千年、多くのことに関しては数百年の時間のことしか考えていないようにも思われた。
 それはそれとして、本書の表題とはあまり関係無いようにも思われたが、第10章の学習と教育に関しては、明治以降の日本の教育や学習について著者による様々な分析がなされているとともに、今後についての独自の提言もあり、有益だと思われた。
 表題に釣られて読んだが、生物多様性に関してはほとんど目新しいことは書かれておらず、ちょっと拍子抜けだった。しかし、第10章は読む価値が高いと思われた。

|

« じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記 | トップページ | 池田清彦著『昆虫のパンセ』(新装版) »

コメント

なるほど、岩槻先生にはさる研究発表のコメンテーターとして話を伺ったことがあるが、いまいちインパクトがなかった経験があります。専門家にしては、議論の展開に詰めが弱く、また結論も玉虫色でいまいちなんです。このブックレビューは簡潔ですが、その時の私の心証と合致して、妙に納得できました!ありがとうございました!

投稿: 垂水源之介 | 2011年3月29日 (火) 19時21分

垂水源之介さん、はじめまして。
岩槻先生は植物分類学の専門ではあっても、生物多様性の専門家とは言えないように思えました。生物多様性は、今だけを見ていてはダメで、これまでの生物の歴史を無視してはいけないと思います。ごく簡単な読後感ではありますが、お役に立てたようで、嬉しく思います。

投稿: Ohrwurm | 2011年3月29日 (火) 19時48分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 岩槻邦男著『生物多様性のいまを語る』:

« じゅじゅちゃんのダンゴムシ日記 | トップページ | 池田清彦著『昆虫のパンセ』(新装版) »