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2010年4月 8日 (木)

吹春俊光著『きのこの下には死体が眠る!?』

吹春俊光著『きのこの下には死体が眠る!? 菌糸が織りなす不思議な世界』
技術評論社
知りたい!サイエンスシリーズ
ISBN978-4-7741-3873-2
1,659円(本体1,580円)
2009年5月27日発行
232 pp.

目 次
はじめに
第1章 きのこの下に眠るもの
 ニュ−ジーランドの森に死体を置く;死体跡に生えるきのこ?アンモニア菌発見史1;死体跡に生えるきのこ?アンモニア菌発見史2;トイレを掃除するきのこ
 コラム ナガエノスギタケ発掘記
第2章  きのことは何か?
 きのこは何の仲間?;きのこの体のつくり;きのこの分類ときのこの形;きのこの暮らしと生える場所 腐性と菌根共生;きのこの寿命;きのこの登場
 コラム きのこではない変形菌類
第3章 きのこの毒
 きのこの毒の不思議;毒きのこ、いろいろ;スギヒラタケによる中毒;麻薬成分を含む怪しいきのこ;毒きのこの迷信はどこまで本当か?
 コラム きのこ嫌いときのこ好き民族
第4章 きのこの繁殖戦略
 胞子を飛ばす工夫;胞子を広げる工夫;きのこの生活環
 コラム フェアリーリング
第5章 きのこがすくる森
 菌根という暮らし方;里山の成立とマツタケの発生;ヒラマヤとつながる日本の森;居候植物のひみつ
 コラム 八百屋さんに並ぶマツタケの分布
第6章 きのこと環境
 きのこの分布問題1;きのこの分布問題2;きのこの受難−外来種問題;地球温暖化ときのこ
 コラム イモタケの分布
第7章 きのこを研究する
 顕微鏡で胞子を見る;新種記載への道1;新種記載への道2;腹菌類はどこへ行った?;きのこの生態を研究する;アマチュアの活躍
おわりに
本書に登場するおもなきのこ(真菌門)
参考文献

 著者の吹春(ふきはる)俊光氏は、千葉県立中央博物館のきのこ担当の学芸員である。と同時に、ぼくの大学時代の同級生でもある。
 書名の『きのこの下には死体が眠る!? 』とは、何やら物騒な名前である。ところが、本書の全体を通して読んでみると、この表題が本書の主題ではなく、本書がきのこ全般に関する最新の解説書のようなものであることがわかる。『きのこの下には死体が眠る!? 』という表題は、第1章に書かれていることを代表しているが、本が売れるように編集者か誰かが付けたものであろう。それはともかく、第1章にはナガエノスギタケなどが登場するが、それらは尿素やアンモニアが豊富な動物の遺体や生活跡から生えてくるキノコであり、吹春氏のきのこ研究の原点となっている。やはり、本を書くにあたり、吹春氏は、まずそのことを書いておきたかったのだろうと想像する。
 吹春氏の師匠は、京都大学の教養部で教鞭を執っておられた相良直彦名誉教授である。吹春氏はぼくと一緒に農学部の大学院(農学研究科農林生物学専攻)に在籍していたが、教養部に在籍していた相良先生の指導を受けていた。きのこの研究者は農学部にはいなかったのである。相良先生は、本書の中にも記述されているとおり、ナガエノスギタケとモグラの関係を初めて明らかにし、アンモニア菌というきのこの種群を提唱した人である。ぼくもそれを面白いと思い、学生時代に京都大学の芦生演習林でのナガエノスギタケの発掘調査に同行させていただいたことがある。そのとき同行したのは吹春氏ではなく、もう一人の弟子の鈴木雄一氏だったと記憶している。たしか、発掘調査のあとで、鈴木氏と一緒に相良先生のお宅にお邪魔したように記憶している。鈴木氏は、若くして病気で亡くなってしまったが、菌類を使って家畜が利用できない木材を家畜が餌として利用できるようにしようという研究をしていた。ぼくは鈴木氏とも親しくしていたので、これからというときに亡くなられてしまって、大変残念だった。話が本の内容からちょっと反れてしまったので、もとに戻す。
 本書を読んでまず驚いたことは、ぼくが知らないうちにきのこの分類体系が大きく変わってしまっていたことである。ショウロなどのように、柄と傘がなく嚢状の構造物の内部に胞子を形成する菌類は、かつては腹菌類として一つにまとめられていた。ところが現在では、分子系統の解析によって、腹菌類が単系統群ではなく、いくつもの系統の分類群にそれぞれ独立して嚢状の構造物の内部に胞子を形成する形態が進化したものであることが明らかになったそうである。このような話を聞かされると、やはり分子系統に関する知識や技術があった方が良いように思える。
 きのこと言えば、多くの人は「毒か食べられるか」という点に興味があるのではないかと思う。ぼくも例外ではない。きのこでは、近縁な種の間でも食べられる種と猛毒のある種があり(たとえば、タマゴタケとシロタマゴテングタケなどのように)、その進化の過程は興味深いものがあると思う。学生時代にタマシロオニタケという真っ白なきのこを見つけたことがあったが、その当時は食毒不明であった。現時点では、タマシロオニタケは猛毒を持つことが明らかになっているそうである。どうやって猛毒を持つことが明らかにできたのか、という点は何も説明されていないが、誰かの犠牲の上で明らかになったのかも知れない。また、学生時代にはコガネタケという派手な色のきのこを採って、それを食べるかどうか悩んだことがあったが、その当時の本にも「食べられる」と書かれていたので、結局それを食べた。残念ながら、どんな味だったかは憶えていない。
 もう一つ印象に残った点は、アマチュアによる研究のことである。以前このブログで、きのこ研究の世界ではアマチュアとプロの協力がうまくいっている、という新聞記事があったことを書いたことがあるが、やはり現在でもそのとおりのようである。
 全体を通して読んだところでは、きのこにはまだ明らかになっていないことがたくさんあることがわかる。分類ひとつについても、まだ未記載種が山ほどあるようである。昆虫などと較べると、標本をつくるのも面倒そうだし、形態もそれほど複雑ではないので、やはり難しそうに思える。だが、だからこそ、アマチュアの研究家がきのこ学に貢献できる余地は大きいのではないかと思う。
 本書は現時点のきのこについての知見を概観でき、様々なトピックも盛り込んで読み易い本だと思う。きのこのことを知るには、本書はお勧めだと思う。

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コメント

はじめまして、三重のキノコ好き、鳥居と申します。

ブログ、拝見しました。吹春さんと同級でいらっしゃるんですね。実は私も京大農学部農林生物系(私の入学時に旧学科は改組された)の卒業生なので、ちょっとおどろきました。

私は鈴鹿在住なので、お会いすることもあるかもしれませんね。その時はよろしくお願いします。

投稿: 鳥居 | 2010年4月26日 (月) 21時26分

鳥居さん、はじめまして。
突然のトラックバックで申し訳ありませんでした。
鳥居さんは農林生物系のどちらでしょうか?きのこ好きということは二井先生のところでしょうか?長いことオーバードクターをやっておられた二井先生が助手になられた頃、「植物採集会」というグループを作って、吹春君たちと一緒によく山に行きました。
ぼくはきのこに興味はあるのですが、近所に先生がいないので、なかなか名前を覚えられません。お近くのようですので、いろいろお教えいただけると嬉しいです。

投稿: Ohrwurm | 2010年4月26日 (月) 21時57分

いや、在籍していたのは栽培植物起源学というてんで畑違いのところです。当時はキノコにも今ほど関心がなかったものですから。でも相良さんの授業は受講していたので今でもよく覚えています。

私自身もキノコに関してさほど詳しいわけではなく、教えるほどの知識を持ち合わせていないのですが……私の知る範囲でよければ大丈夫ですよ。

かわりに虫や植物についていろいろ教えてくださると嬉しいです。

投稿: 鳥居 | 2010年4月26日 (月) 22時55分

鳥居さん、どうもです。
物集女の方でしたか!ま、それはどちらでも良いですので、よろしくお願いいたします。

投稿: Ohrwurm | 2010年4月27日 (火) 06時20分

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