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2010年3月14日 (日)

神門善久著『日本の食と農』

神門善久著『日本の食と農 危機の本質』
NTT出版 日本の<現代>8
ISBN4-7571-4099-1
2,400円+税
2006年6月28日発行
309 pp.

目次
序章 日本の食と農
1 種と農を語る意味
2 行政バッシングの時代
3 蟻の目からのアプローチ
4 日本なのか日本人なのか?
第二章 食の議論の忘れもの
1 基礎学力問題と食の問題の類似性
2 食の安全・安心は古くからの話題
3 食生活を乱したのは消費者自身
4 食費者のエゴ
5 地産地消、グリーン・ツーリズムの誤謬
6 食育の誤謬
7 安全と安心の違い
8 行政の組織防衛としての「食の安全・安心」
9 食品安全基本法の功罪
10 ほんどうの食の改善とは?
11 社会保険料の食生活連動の提言
第三章 迷宮のJA
1 農協とJA
2 JAの怪しさ
3 JAの組織と活動
4 JAの独擅
5 零細農家のJA依存性の高まり
6 コメ政策とJA
7 法令違反はJAの日常活動の一部
8 高度経済成長支援システムとしてのJA
9 1990年代以降のJAの変容
10独立系農協の提言
付論 戦後日本の都市−農村間の所得再配分の教訓
第四章 農地と政治I(農地問題の構造)
1 梅畑の秘密
2 農地は宝くじ
3 農地転用規則の概要
4 農業委員会の欺瞞
5 農地税制の複雑性・不透明性
6 農地は鎹(農家−政治家−農水省−土建会社)
7 農地転用の実態
8 農地転用の本質が語られない理由
9 農地法と農業経営基盤強化促進法
第五章 農地と政治II(農地政策の行く先)
1 農地流動の現状
2 マスコミによる情報操作
3 農民の嘘
4 悪魔のシナリオ
5 理想のシナリオ
6 転用権入札・課税自己評価の提言
7 農地政策における日本の先導的役割
8 農地問題は日本社会の試金石
付論 都市計画と農地利用計画
第六章 企業の農業参入?
1 流行の議論
2 企業と農業
3 企業による農業の歴史
4 企業参入賛成派の議論
5 企業参入反対派の議論
6 企業の農業参入の是非論が残したもの
結章 明日の食と農を見据えて
1 日本の農を世界に解放しよう
2 食を通じた国際貢献
3 農産物貿易の活性化
4 結語

謝辞
人名索引
事項索引

 著者の神門善久(ごうど・よしひさ)氏は明治学院大学経済学部教授。本書で2006年で第28回サントリー学芸賞(政治・経済部門)受賞。
 全編を通して著者の気迫が感じとられた。日本の食と農に関して、マスメディアに報道されない様々な問題点をえぐり出し、様々な提言を提供している。
 ぼくは農業分野で仕事をしているが、言ってみれば病害虫防除に関する技術的な(要するに政治・経済的な問題とはあまり縁がない)問題という狭い範囲でしかモノを見ていなかったので、本書に書かれていることは新鮮だった。
 本書に書かれていることで特に印象に残ったのは、農地の転用を期待したエゴが日本の農業の構造をいかに歪めているか、ということだ。このエゴ(利権と言い換えても良い)には農家(とくに真面目に農業をしようとは考えていない零細農家)のものばかりでなく、JA、政治家、農水省、土建業者、そして消費者である都市生活者のエゴも含まれる。自分自身をエゴを認めることは大変な勇気が必要なことであるが、自らのエゴを認めないことにより、問題が先送りされ、将来の世代が損失を被ることを憂慮している。
 全編を通して、思い切ったことが書かれており、このようなことを書くのには相当な勇気が必要だったと思う(著者自身、このような研究に関わっていたことによりコワい目にあったと書いている)。また、この本を出版した出版社や編集者の勇気にも拍手を送りたい。
 このように、新鮮な切り口で面白い本であったと思うが、自然観察者から見た場合、大きな視点の欠落があるとも考えられた。それは、物質やエネルギーの流れという生態学的な視点だ。本書の著者のような文系の人間はついつい見落としがちだと思うのだが、農業に限らず、人間の経済活動にはエネルギー(特に化石エネルギー)が必要だ。本書は、基本的にはエネルギーが安定供給されるという前提のもとで書かれていると感じられた。化石エネルギーは有限であると考えた方が良いと思われる。そのような視点を加えれば、著者の主張は少しぐらいは変わるかもしれない。まあ、それはともかく、そういう視点の欠落があるとは言え、現時点での農業に関する問題を深くえぐり出した点において、本書は高く評価されるべき本だと思う。都市住民も読むべし。

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