池田清彦著『底抜けブラックバス大騒動』
池田清彦著『底抜けブラックバス大騒動』
つり人社
ISBN4-88536-531-7
1,200円+税
2005年5月1日発行
目次
まえがき
第1章 外来種駆除と生物多様性保全は何のため?
第2章 日本の川とか湖は畑みたいなもの
第3章 多様性保全なのかナチズムなのか
第4章 利権のためのしか思えない外来種駆除
第5章 これは科学の問題ではなく政治の問題
あとがき
コラム
外来種か移入種か
和歌山のタイワンザル問題
特定外来生物被害防止法の概要
本文注釈
同じ問題を扱っている植村誠著『ぼくがバス釣りをやめた理由』と比較する意味もあり、それに続けて読んでみたが、『ぼくがバス釣りをやめた理由』よりも遥かに論理的に書かれていると思った。
全体がQ&A形式で書かれており、ある疑問に対して池田氏がそれに答える形になっている。ブラックバスが表題になっているが、話題はブラックバスに限らず、広く外来生物について扱われている。池田氏自身は釣りはやらないので(昆虫採集は大好きだが)、ブラックバスについての考え方は釣り人の側に偏ることなく、中立的な考えが述べられていると思った。
池田氏の考え方は、環境保全原理主義に対しては批判的であり、説得力は高いと思った(と、こう書くと、環境保全原理主義的な考え方をしている人から批判されそうだが)。ただ闇雲にブラックバスを捕獲しても、ブラックバスは勝手に殖えるわけだから、根絶できる見込みのない場所でのブラックバスの駆除活動は、駆除活動に関わる人の気持ちはわからないわけではないが、エネルギー的に見てもコスト的に見ても無駄なことだと思う。ぼく自身、ブラックバスの駆除活動に関わっている人を個人的に少し知っているが、手弁当でそういう活動をすることには頭が下がる。でも、やっぱりあまり論理的ではないなぁ、と思う。
ブラックバスが日本の生態系に与える影響は大きいと思うが、それはブラックバスが外来種であるという理由ではなく(ニホンジカのように、在来種でも問題になっているものは問題になっている)、日本の生態系にはブラックバスが定着しやすいようなニッチェがあったのだと解釈するのは妥当だと思う。「ブラックバスを駆除すべし」という主張が科学的なものではなく、政治的なものだという池田氏の主張は正当だと思われる(と、こういうことを書くと、保全生態学に関わっている多くの科学者からは批判を浴びそうだが)。
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コメント
琵琶湖などおおきな湖沼や河川でブラックバスを根絶することは不可能.
しかし,小規模な溜め池でそれをすることと,再びの放流を阻止することは不可能ではないはず.
僅かに残された希少な淡水魚や水生昆虫の生息地ではせざるを得ないと思いますし,それに対する法的な裏づけというか,予算措置は欲しいものです.
それまでブラックバスやアメリカザリガニなどがおらず,希少なゲンゴロウや魚が居たところに,かれらが入ってしまったときの状況を目の当たりにすると,いくら友人であっても(この頃の)池田さんの主張は,納得できない部分があります.出版から5年が経過しました.その後池田さんのバスに対する考え方も少しは変化されているんじゃないか,とは思っているんですが・・・・・・.
投稿: ぱきた | 2010年2月19日 (金) 23時33分
ぱきたさん、こんにちは。
池田さんは、ブラックバスが棲息していない場所へ新たに放流することは論外だ、と主張していますが、それには誰でも同意できるのではないかと思います。
予算措置について池田さんは反対の立場ですが、ぼくはそれに同意できます。本来密放流した人が負うべきコストを税金で賄うのは、納税者の誰もが納得できる正当な理由が必要だと思います。この点についての池田さんの考え方は(最近の著書を読んで判断する限り)、今でも変わっていないのではないかと思います。
外来種によって、これまで居た在来の動植物がいなくなってしまうのは、ぼくも寂しいと思いますが、それは高橋敬一さんの言うところの「郷愁」のようなものだと思いますし、居なくなったものを復元しようとすることは個々人の趣味に過ぎない、という考え方は納得できるものがあります。
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-7963.html
誤解しないで欲しいのは、ぼくも外来種は居ない方が良いと思っていることです。でも、入ってしまって、既に定着してしまったものに対しては、無駄に手を入れてもコストばかりかかって実益がないですから、ほっておかざるをえないのではないかと思います。
投稿: Ohrwurm | 2010年2月20日 (土) 08時53分
「底抜けブラックバス大騒動」は読んでいませんが、σ(^^ も池田清彦の科学観、社会観を支持します(^_^;)
国内各所のブラックバスはDNAをたどると天皇陛下が皇太子時代にカナダから食用として持ち帰ったものにたどり着くとか。その((皇太子の)後の'60~'70年代の食生活の変化(洋風化、簡便化、外食指向、飽食などと指摘された)にはなじまず、スポーツフィッシングと駆除の対象となったということでしょう。
食生活、余暇生活、環境生活、人間の生活優先です。あとは社会的政策的なお金の使い道のコストパフォーマンス。主張する人の時間スケールによって立ち位置が違ってくる。
プリウスの生産から廃棄までを考えたときにハイブリッドがエコかどうか。買っている人が必ずしも地球規模での将来を考えられるワケではない。
σ(^^ は小学生のころに、魚1匹住まない十和田湖で外来ヒメマスの養殖を研究した和井内貞行のことを国語の教科書か何かで読んだことを思い出します。農業とか養殖とかモータリゼーション・ロジスティックスなどは環境破壊、生物多様性の破壊そのものですね。
そのうち、おいしく品種改良されたブラックバスが、あちこちの養魚場に飛び跳ねる光景が見られるかも。その技術を発展途上国に供与する(^^ゞ
一方、在来種ブラックバスは遺伝子組み替えされて不妊化、絶滅する\(^。^)/!
投稿: koketa | 2010年2月20日 (土) 23時38分
koketaさん(ローマ字になりましたね!)、こんにちは。
人間の食生活というは基本的に保守的だと思いますから、新しい食べ物が受け入れられないということは、ありがちなことなのでしょう。ブラックバス(一度食べましたが、それなりに美味しいと思いました)ですら受け入れられないわけですから、ジャンボタニシなどは言うに及ばずというところですね。とおころで、ブラックバスは悪者にされていますけど、不思議とジャンボタニシのことはあまり話題になりませんね。
「エコ」という視点も、本当のところを知ろうと思うと、なかなか難しいと思います。基本的には、モノを余計に消費しない、というのが一番の「エコ」なんでしょうけど。でも、そうすると景気が悪くなって、困る人がたくさん出てくるんでしょうけど。
それはともかく、池田清彦氏が書いていることを読むと、なるほど、と思わされることが多いです。ぼくも基本的には池田清彦氏の考え方を支持します。構造主義生物学的な考え方も、最初は全く理解できませんでしたが、最近やっと少しわかるようになりました。これも、全面的にではありませんが、大筋で支持します。
投稿: Ohrwurm | 2010年2月21日 (日) 20時27分
あまりにもひどい間違いがあるのでコメントさせていただきますね。
>koketaさん
天皇陛下が持ってこられた(正確には贈られたかな?)のはブルーギルです。三重大学のグループが国内のブル-ギルがそれの子孫であることをミトコンドリアDNAから分析しました。ついでに言うと贈ったのはシカゴからです。カナダとは的外れもいいところです。いったいどこでそんな情報を耳にしたのですか?
投稿: 梨 | 2010年2月25日 (木) 14時45分
梨さん、修正のコメントありがとうございます。
勘違いは誰にでもありますので、そのあたりはお手柔らかにお願いします。
投稿: Ohrwurm | 2010年2月25日 (木) 20時54分
私の書いた文章からこちらにリンクを張ったのでお知らせします。
http://goo.gl/S2tNF
投稿: 混沌 | 2012年7月13日 (金) 19時04分
混沌さん、書評のご案内ありがとうございました。
「人を動かすのは理論ではなく感情である」というのは、たしかにそうだと思いますが、そこから脱却できないと自然を保護したり、外来種を管理するのは難しいでしょうね。
投稿: Ohrwurm | 2012年7月14日 (土) 05時29分
混沌さん、amazonのカスタマーレビューを読んでみましたが、評価がまっ二つに割れているのが面白いですね。池田氏が書いていることに腹をすえかねている人が多いだろうと思う反面、目から鱗が落ちたと思う人も多いということだろうと思います。もちろん、前者が感情論でしか物事を語れない人だろうと想像します。
投稿: Ohrwurm | 2012年7月14日 (土) 05時43分