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2009年12月17日 (木)

河野和男著『“自殺する種子” 遺伝資源は誰のもの?』

河野和男著『“自殺する種子” 遺伝資源は誰のもの?』
新思索社
ISBN4-7835-0225-0
2,700円+税
2001年12月20日発行
296 pp.

目次
I “自殺する種子”の語るもの
II 植物資源利用の歴史
III 生物多様性と農業生産
IV 育種で何ができるのか?
V キャッサバ育種の現場から
VI 不平等性の重構造
VII 開発の再検討
VIII バイオテクノロジー再見
IX 部分と全体、ミクロとマクロ
X 知的所有権、遺伝資源は誰のもの?
文献
あとがき

 養老孟司氏との対談『虫のフリ見て我がフリ直せ』を読んで、河野(かわの)和男氏の著書も読んでみたくなった。2001年の発行なのでもうかなり古くなってしまった本だが、津市津図書館にリクエストしたら買ってもらえた。
 「自殺する種子」とはかなり刺激的な言葉だが、要するに、購入した種子から作物を作ることはできても、できた種を蒔いても芽が出ないように仕組まれた種子のことだ。つまり、「自殺する種子」とは、遺伝資源の権利が北側の大手資本の手に握られているという実態を象徴的に表した言葉だ。
 著者の河野氏は国際機関で熱帯の栄養繁殖性作物であるキャッサバの育種(品種改良)に永年関わって、有力な品種をいくつも作り、それらを普及させたという実績を持っている人だ(ということを本書を読んで知った)。実績を持っているだけに、自信に溢れた言葉が端々に見られる。農業関係の研究者であるぼくにとって、読んでいて耳に痛く、胸に突き刺さる言葉も端々に見られる。
 ぼくはこれまで育種ということにあまり魅力を感じたことはなかったが、本書を読むことによって、育種の面白さと難しさを初めて知ることができた。多くの重要作物の育種は、ある程度行くところまでは行ってしまっているので、これからの人が河野氏と同じような刺激的で面白い経験をできる可能性は皆無に近いだろうから、本書に書かれていることは河野氏の自慢話のように聞こえないこともないが、何のために育種をするか、と考える重要性を説いているところは重要だと思う。
 もう一つ(と言うか最も)重要な点は、現在の重要な作物の起源は“南”にあるのに、それを“北”がその権利を握ってしまっている問題点を指摘していることだと思う。バイオテクノロジーなどで遺伝資源を権利化している“北”に対しては批判的で、「遺伝資源は世界の共有財産であるべきだ」という立場には強く同意できる。本書の題名になっている「自殺する種子」そのものはそれほど大きな問題なのではなく、副題になっている「遺伝資源は誰のものであるか?」ということを、永年育種の現場に居て実績を上げた研究者としての立場から、自信のある言葉で語られていることは重いと思う。

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