養老孟司・河野和男著『虫のフリ見て我がフリ直せ』
養老孟司・河野和男著『虫のフリ見て我がフリ直せ』
明石書店
ISBN978-4-7503-3045-7
1,800円+税
2009年9月25日発行
228 pp.
目次
第I部 虫の目で世界を眺めて
人はなせ虫を集めるのか
「種」や「属」は存在するのか
進化論者たち
発生遺伝子と遺伝率
種の分布と分化の関係性
コラム
個体発生と系統発生
−クワガタムシの大顎のパターンによる属の記述(河野)
高位分類群とホックス遺伝子(河野)
内部選択説(養老)
バベルの図書館(河野)
進化は末広がりではなく先細り(河野)
ネオダーウィニズム(河野)
工業暗化(河野)
第II部 生き物たちのつどう社会
人為的な生態系
文化と地形
「お国のため」と「愛国心」
日本人と森
世界と日本−大気、海洋資源、森林
進化と進歩
生物は遺伝子の「乗り物」なのか?
生物学は情報学だ
コラム
愛国心か「お国のため」か(養老)
ダーウィンの図(河野)
似ているということの異端児−並行進化(河野)
対談のあとで(河野)
解剖学者の養老孟司氏と熱帯作物であるキャッサバの育種家の河野(かわの)和男氏との対談である。両者とも、昆虫の収集家でありアマチュアの昆虫研究者としてよく知られている。
「対談のあとで」で河野氏が「この対談は好みと思考パターンが初めから一致している仲良し子供会的な話し合いではなかったのは当然として、またもう一方の極端である思い込みと見解の表示様式に初めから全く共通点のないすれ違いの意見交換でももちろんなく、知的緊張感がバランスよく保たれた議論の時間だったと思う。」と書いているように、これまでの養老氏を交えた虫屋どうしの対談(例えば、「虫屋」である池田清彦氏や奥本大三郎氏などとの)とはひと味もふた味も違うものだったように思えた。これまでの養老氏による虫屋との対談は、学問的なものというよりも、放談に近いものだったが、本書では、生物進化という現象に対する考え方についてかなり真面目に議論していると感じられた。
ぼくは学生時代に出現したネオダーウィニズムの洗礼を受けないわけにいかなかったが、その後ずっと生物を見てきていると、ネオダーウィニズムだけでは大進化を説明できないということが徐々にわかっていた。育種家として仕事をしてきた河野氏は、生物進化は先細りである、という考え方を肌で感じてきているようだが、この対談を読んでいると、確かにそのように思えてくる。
原理主義的なネオダーウィニストが読めば、滅茶苦茶けなす対象になるかも知れないが、目の敵にせずに読んでみると良いと思う。
面白い本だったが、ちょっと残念なのは、写真の印刷が悪いこと。本文と同じ紙にモノクロで印刷されているので仕方がないのかも知れないが、もうちょっと鮮明な写真を載せて欲しかった、というのが本音だ。できればクワガタムシの写真だけでも、アート紙にカラーで印刷して欲しかった。
それともう一つ。『虫のフリ見て我がフリ直せ』という表題は編集者が付けたものだろうと思うが、本書での対談の内容から全くひねりだせないような表題だと思う。だからと言って、どんな表題が良いかと言われても困るが、もう少し内容に即した表題の方が親切だと思う。『虫のフリ見て我がフリ直せ』の方が本がよく売れるかも知れないが。
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