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2009年8月 9日 (日)

瀬戸口明久著『害虫の誕生−虫からみた日本史』

瀬戸口明久著『害虫の誕生−虫からみた日本史』
ちくま新書793
ISBN978-4-480-06494-3
720円+税
2009年7月10日発行

目次
プロローグ
第一章 近代日本における「虫」
1 日本における農業の成立
2 江戸時代人と「蝗」
3 虫たちをめぐる自然観
第二章 明治日本と<害虫>
1 害虫とたたかう学問
2 明治政府と応用昆虫学
3 農民vs明治政府
4 名和靖と「昆虫思想」
第三章 病気−植民地統治と近代都市の形成
1 病気をもたらす虫
2 植民地統治とマラリア
3 都市衛生とハエ
第四章 戦争−「敵」を科学で撃ち倒す
1 第一次世界大戦と害虫防除
2 毒ガスと殺虫剤
3 マラリアとの戦い
エピローグ
主要参考文献
図版出典一覧
あとがき

 著者の瀬戸口明久氏は1975年生まれで、生命科学と社会の界面に生じる諸問題について、科学技術史と環境史の両面からアプローチしている、と紹介されている。
 この本は、日本の歴史の中で「害虫」という概念がどのようにして成立し、その後どのような変遷を遂げて来たかについて書かれている。著者の言うところによれば、「害虫」という概念が成立したのは明治以降で、それ以前の日本には「害虫」という概念はなく、虫による被害は天災として扱われていたということである。言われてみればなるほどと思うのだが、これまでこういうことをぼくは意識したことが無かった。害虫の研究でメシを食っているのに。
 「害虫」という概念に対する瀬戸口氏のようなアプローチはこれまでになされておらず、書かれていることすべてが新鮮に感じられた。「害虫」という言葉に少しでも興味を持つ人であれば、なるほど、と思わされることが多いのではないかと思う。
 ぼく自身の個人的な経験と関連するところでは、名和昆虫研究所について、これまで何も知らなかった、ということをこの本を読んで実感した。ぼくが子供だった頃、確か祖母に連れられて、岐阜公園の中にある名和昆虫博物館を訪れた。その後、夏休みに採集した昆虫の同定会で名和昆虫博物館の4代目館長の名和秀雄氏(故人)にお世話になったこともある。ぼくが高校生だった頃(だと記憶しているが)、名和秀雄氏は、東海ラジオのミッドナイト東海という深夜放送のパーソナリティを務めるなど、博物館の外での活動も多かった。だから、ぼくが知っている名和昆虫博物館の活動は、博物館での展示や、自然観察会や同定会の開催など、自然に親しむための啓蒙活動がほとんどだ。石垣島に住んでいた頃、石垣島に調査においでになった5代目館長の名和哲夫氏にもお会いしたことがある。しかし、名和昆虫博物館がどのような基盤の上に成り立っていたかということについて、深く考えたこともなかった。この本によれば、名和昆虫研究所は大正時代までは農業害虫の研究では、日本の中心的存在だったということだ。これはぼくにとって予想もしなかったことで、今の名和昆虫博物館の姿からは想像もできないことだ。農業害虫研究の中心的存在からの凋落の原因としては、初代所長の名和靖氏の死去と、帝国大学に興ったアカデミズムに基づいた昆虫学研究室の成立などがあげられるとのことだ。こういう歴史も知らないより知っていた方が良い。
 まあ、それはともかく、この本は応用昆虫学の歴史をうまくまとめてあるので、少なくとも応用昆虫学を学んでいる人にとって、読む価値のある本だと思う。

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