池田清彦著「生きる力、死ぬ能力」
池田清彦著「生きる力、死ぬ能力」
2005年1月15日発行
ISBN-4-335-00060-X
1,600円+税
弘文堂
目次
第1部 死の中の生
第1章 人はなぜ死をおそれるのか
第2章 もし生物が死ななかったら
第3章 人の寿命は38億年?
第4章 死はセックスと同時に出現した能力である
第5章 寿命を延ばすことはできるのだろうか
第6章 あなたが死ぬまで殺す生命の数は?
第7章 かけがえのないあなたに宿るかけがえのある命
第2部 構造(システム)としての生命
第1章 ゲノムは構造化されたシステムとして動く
第2章 ハエと哺乳類の遺伝子は同じである
第3章 生物多様性を神を抜きにして説明
第4章 遺伝病も遺伝子を変えずに環境で治すことができる
第5章 世の中も生物も構造を見ないと実相は見えない
あとがき
池田清彦氏は、正統派とは異なる主張をしているということで、しばしば批判の的にされる生物学者だと思う。池田氏はネオ・ダーウィニズムを批判し、「構造主義生物学」という看板を掲げているが、これも気になる点だ。ぼく自身、1980年前後に「社会生物学」の渦に巻き込まれ、ネオ・ダーウィニズムの洗礼を受けることになったが、どうしてもネオ・ダーウィニズムでは説明できない生物現象があることも徐々にわかってきた。その後、池田氏の「構造主義生物学とは何か?」を読んだが、何が書かれているのか、全く理解できないままになっていた。しかし、最近になって池田氏の様々な著書を読むことにより、池田氏の主張するところの「構造主義生物学」がおぼろげながら理解できるようになり、「構造主義生物学」がネオ・ダーウィニズムと完全に対立する概念ではなく、ネオ・ダーウィニズムでは説明できない部分を説明しようとするものだということがわかってきた。
まあ、それはともかく、この本は「生命とは何か」ということを色々考えさせられる本だった。最近の生物学(「生命科学」と呼ぶことも多いようだが)は還元的な見方が主流で、マクロにモノを見ることは学問ではないような風潮すら感じられる。しかし、我々が生きているとはどういうことか、ということは還元的なモノの見方だけでは解決できないばかりでなく、例えば長寿を求めることが必ずしも善ではないことなども、還元的なモノの見方では見えてこない。そのような点で、この本の第1部は、「生きるとはどういうことか」とか「死ぬとはどういうことか」ということを再認識させてくれるという点で、多くの示唆があると思った。
第2部は、池田氏による「構造主義生物学」のインタビュー形式による解説のようなものに感じられた。構造主義生物学そのものは、まだきちんと体系化されたものだとは思えないが、考え方自体は無視できないものだと感じられる。
第2部は一般の人にとってはあまり意味のないことだと感じられたが、生物学を学ぶ人は読んでおいても悪くないと思う。第1部は、「生きるとはどういうことか」とか「死ぬとはどういうことか」とかいうことを少しでも考えた事のある人ならば、読んでおいた方が良いと思った。
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コメント
池田氏がネオダーウィニズムで説明できないとしているところは池田氏が理解できずにわら人形論法を行っているだけです。
投稿: はじめまして | 2009年5月 5日 (火) 23時00分
はじめましてさん、はじめまして。
「わら人形論法」という言葉が辞書に載っていないので、何のことやらわかりませんが・・・・・
それはともかく、ぼくにとって、小進化をネオ・ダーウィニズムで説明することには何の疑問もありませんが、最初の生命が出現したことや、原核生物から真核生物が進化したことや、カンブリア紀に多くの種が出現したことを、ネオ・ダーウィニズムだけでは説明しきれていないように思えます。
勉強不足でしょうか?
投稿: Ohrwurm | 2009年5月 5日 (火) 23時18分