イボンヌ・バスキン著/藤倉良訳「生物多様性の意味 自然は生命をどう支えているのか」
イボンヌ・バスキン著/藤倉良訳「生物多様性の意味 自然は生命をどう支えているのか」
2001年4月12日発行
ISBN4-478-87089-6
2,200円+税
ダイヤモンド社
原著
Yvonne Baskin (1997)
The Work of Nature
How the Diversity of Life Sustains Us
ISLAND PRESS, Washington D.C. in U.S.A.
訳者はしがき
本書に寄せて
序文
第1章 生命のはたらき
第2章 だれが重要なのか
第3章 生物群集の結びつき
第4章 水は生命の源
第5章 土壌の生命力
第6章 植物とその生産力
第7章 土地を形づくる力
第8章 気候と大気
第9章 それでも自然は必要か
著者であるイボンヌ・バスキンは科学ジャーナリストである。
「生物多様性」という概念を理解したいために本書を手に取ったが、この本に書かれていることは、「生物多様性」の概念については全く説明されていなかった。原書の表題を直訳すれば「自然の働き 生命の多様性はいかにして我々を支えているのか」であるが、本書に書かれていることは原書の表題に示されていることだった。その意味では、訳書の表題は極めて不適切だと思われた。だからと言って、この本に書かれている内容が生物多様性という概念と全く無関係というわけではないが。
この本には、これまでに科学者たちが明らかにしてきた自然のしくみについて、様々な具体例が上げながら説明されている。そして、これまでに明らかにされてきたことは、自然のしくみの極一部であり、まだまだわからないことばかりであり、将来を言明することは不可能であると結論されている。だからと言って、自然について科学者たちが明らかにしてきたことは無視すべきことではなく、我々人間が生きて行くために、自然を保全する必要がないということにはならない、としている。また、本書の全体を通して、自然がもたらしてくれるサービスについて強調されているが、それを経済的な価値に換算することの難しさについても記述されている。
「生物多様性」という概念を知るために本書はあまり役に立たなかったが、我々人間が生きて行くために考えなければならないことを知るためには、現在までの知見を概観できるため、非常に良い生態学の教科書のようになっていると思われた。日本人の研究者が書いた保全生態学の教科書も存在するが、それには個別事例が中心になっており、全地球的な観点が乏しいため、本当の意味での保全生態学とは何かを考える上でも、本書の方が優れているように思えた。
訳者はしがきに記されているように、この本にはたくさんの事例が引用されているが、引用文献のリストはついていない。原著では25ページにも及ぶ引用文献のリストがついているそうだが、この訳本には一切掲載されておらず、出典をあたることができない。良い内容の本であるだけに、出典を知る事ができないのは残念だ。それを知るためには原書を入手するしかない。
訳書の表題以外にも、細かい点だが、誤訳と思われる箇所が散見されたのは残念だ。88ページには「イナゴ焼け」という言葉が出ているが、おそらく"hopper burn"のことだろうと想像した。 "glasshopper"ならバッタの仲間なので「イナゴ焼け」だが、そのような状況を作り出すのは"brown planthopper"、すなわちトビイロウンカである。だからここは「ウンカ焼け」と訳されるべきだと思う。そのほかにも、ところどころで誤訳と思われるところがあった。
本書を読んで、外来種の問題について前に考えたときのように考えさせられたが、侵略的な外来種の場合は大きな問題が起こるので望ましくはないが、生態系の機能の保持のために外来種を導入することは、必ずしも悪くないように思われた。本書の中に、湖の機能を復活させるためにブラックバスが棲息していない湖にブラックバスを導入したことが紹介されていたのには驚いた。このことは、場所が変わればそれぞれの場所に適した操作が必要だということであり、生態系の将来を予測することがいかに難しいかを示しているものだと思われた。日本のブラックバスの問題も、感情論に走らずに、科学的に議論する必要があると思われた。自分個人的には、ブラックバスは食糧として利用したら良いと思う。
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コメント
人間のかって、という気がしますね。
生態系の保持のため・・・とはいっても、多くは農業害虫の天敵を導入するとか、人工的な受粉の省力化とか、そういうことが多いんじゃないでしょうか。その天敵だって、外来農作物の種苗に添付されてきたものですし。
子どものときに読んだ、十和田湖でニジマスの養殖を研究した和井内なんとかいうヒトの偉人伝はなぜか心に焼き付いています。
意外に天皇陛下もσ(^-^)と同じように、和井内さんの偉人伝に感銘を受けたのかなあ・・と思ってます。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/okotoba-h19-01.html#27umizukuri
たしか Ohrwurmさんはどこかの博物館のレストランでブルーギル丼を食べて、そこそこいける・・・と書いてましたよね。ブラックバスの養殖が軌道に乗った頃は人々の口がおごっていたのかな・・・などと思ってます。
投稿: こけた | 2009年3月 3日 (火) 20時33分
こけたさん、こんにちは。
最近ぼくが読んだ本に書かれていたことから考えると、人間というのは、自分自身や自分の身の回りの環境が変わることを嫌うという性質を持っているのと同時に、池田清彦さんが繰り返し書いていうように、自分の身の回りのことをコントロールしたがる性質も併せ持っている、という矛盾した存在であると思わされます。人間がそういう性質を持っているとすると、環境問題にどう立ち向かうか、ということについて結論は出せないようにも思えます。それにしても、なぜ人間がそういう矛盾した性質を持つようになったかを考えるのも面白いテーマだと思います。
ところで、ぼくが食べたのはブルーギルではなく、ブラックバスの天丼です。場所は滋賀県の琵琶湖博物館の中のレストランです。
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_70d1.html
滅茶苦茶うまい、というほどではありませんでしたが、まあそこそそうまい、と思いました。淡白な魚ですので、天ぷらあたりが良い調理法かもしれません。機会があれば、一度お試しください。
投稿: Ohrwurm | 2009年3月 3日 (火) 21時26分