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2008年12月16日 (火)

蛹からはいつも蝶が出て来るわけではない

 石森愛彦さんからお手紙をいただいた。カメムシの写真が一枚入っており、名前を教えて欲しいとのこと。そのカメムシは日本の図鑑には載っていない種で、まだ学界にも正式に報告されていないものだと思う。たまたまカメムシBBSに写真が載っていたので、南西諸島に棲息するアシビロヘリカメムシに近縁なLeptoglossus occidentalisというヘリカメムシの一種だということがわかったが、どういう理由で東京の街中で採れたのか謎だ。アメリカ原産の種で、近年ヨーロッパに侵入し、針葉樹の種子を加害するので問題になっているらしい。
 カメムシの写真と一緒に、石森さんの出版物のコピーがいくつか添えられており、『ようちゅうボウヤのとりこしぐろう』のその後の経過のお知らせもあった。なかなかうまくいかないとのこと。
 同封されていたコピーのひとつ、『「虫の本」より「本物の虫」』というエッセイ(北海道子どもの本連絡会『ひろば』No. 106, 2008年9月)には大いに同感した。
 今の人は、本物の虫を見るより、本やテレビなどを通してみる方が好きな人が多いのではないかと思うが、それは本当の「虫を見る楽しみ」を放棄しているのではないか、という趣旨だ。テレビで見ると、蛹からは必ず蝶が羽化し、きれいに翅を伸ばす。ところが、実際にはそうならないことの方が多い。野外から蝶の幼虫を採集して飼育したら、蛹から蝶ではなく、ハチやハエが出てきた、という経験を持っている人は少なくないと思う。でも、テレビではそういう場面を映すことは滅多に無い。テレビが寄生蜂や寄生蝿を映さないのは、それが「あって欲しくないもの」であることを示しているのではないかと思う。
 冷静になって考えれば、産まれた卵が途中で死なずに全部蛹になって、それから全部蝶が羽化してくると、世界中が蝶で埋め尽くされてしまうと想像される。しかし、現実にはそんなことにはならず、平均的には、1頭の雌が産んだ卵から、1頭の産卵できる雌が生き残っていることになっているはずだ。それまでに、風雨にやられて死んでしまうものもいれば、寄生蜂や寄生蝿にやられて死んでしまうものもいて、やっと「1頭の雌が産んだ卵から、1頭の産卵できる雌」という状況が実現される。
 立場を変えて、寄生蜂や寄生蝿の側から現象を見るのも面白いと思う。いかにしてうまく寄生に成功しようかと、寄生蜂や寄生蝿は様々な策略を巡らしているはずだ。近年、施設野菜などでは「天敵農薬」として、寄生蜂が利用されるようになってきた。化学農薬の代わりに、寄生蜂を利用して害虫を殺そうというものだ。農業害虫研究者は、いかにして寄生蜂が効率よく働いてくれるようにするか、ということを追求している。
 いずれにしても、本に書かれたものや、テレビで見たものより、実物の虫を見ることほどワクワクすることはない。ぼくがフィールドに出る原動力はそこにある。何か見ることができるのではないか、と。そういう愉しみを多くの人が知ってくれればなぁ、と思う。

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