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2008年8月 8日 (金)

ハチの領分・ヒトの領分

 このブログの読者の方からお便りをいただいた。「ハチの巣ができてしまったが、どうしてできたのか?どのように退治したら良いのか?」という内容だ。
 一般的な問い合わせ先でなく、ハチの専門家でも何でもない自然観察者であるぼく宛に質問をいただいたわけだから、ぼく流の考え方を知りたいということなのだと思う。だから、ぼくの考えを書くことにする。
 どうしてハチの巣ができたのか、という質問だが、ここは一般的なアシナガバチ類を念頭において話を進めたい。
 春から初夏にかけて、越冬から目覚めたアシナガバチの女王蜂は、最初は1頭で巣作りを始める。巣を作る場所は、おそらくその女王蜂が適切だと判断した場所だろう。その判断が正しいかったかどうかはその時点ではわからないが、やがてその結果が明らかになってくる。適切な場所に巣を作った場合、餌や巣材が十分に確保されていることにより、その巣はだんだん大きくなってくる。今の時期なら、既に何十頭のハチがいるだろう。ことによれば百頭を超えているかも知れない。それは成功した巣の場合だ。餌や巣材が確保できなければ、巣を大きくすることができず、やがて巣は崩壊してしまうだろう。この時期までに、崩壊してしまったハチの巣は、成功したハチの巣の数よりはるかに多いと思う。
 つまり、どうしてその場所に巣ができたか、と問われれば、それは「たまたま女王蜂がその場所を選んだに過ぎない」というのが答えになると思う。なぜ巣が大きくなったか、と問われれば、「その付近に十分な餌や巣材を得るための場所がある」というのが回答になると思う。何故ぼくが今ここに住んでいるのか、と問われれば、それは「転勤が決まったときにこちらの不動産屋に物件の紹介を依頼し、たくさん送られてきた物件の中から、場所と間取りと家賃の兼ね合いを考えて、たまたまこの家を選んだのだ」ということになるし、何故そこに住み続けているのか、と問われれば、「立ち退きを迫られているわけではないし、引越しの手間を考えた上で、これ以上に条件の良い物件が見つからないからだ」ということになる。
 どのように退治したら良いか?という問いに対しては、ぼくは答えを持っていない。何故なら、ぼくはハチの巣を退治しようと考えたことがないからだ。だから、あえて答えるならば、「下手に手出しするより、そのままにしておくのが良い」ということになる。
 おそらくハチの巣を退治したいというのは、ハチに刺されるのがいやだから、というのがその理由だと思われるが、ハチの巣がある場所がわかってさえいれば、滅多にハチに刺されたりすることは無いのだ。普通はハチにとって、ヒトは興味の対象にならない。ハチにとって重要なのは、餌や巣材が得られることや、外敵に襲われないことだ。
 ところが、時としてヒトはハチの外敵だと判断されてしまう場合がある。ハチの巣を壊そうとしたり、知らずにハチの巣を蹴飛ばしたりしてしまった場合などだ。一般的に、ハチに刺されるのは、その場所にハチの巣があるのを知らずにハチの巣に近づきすぎてしまった場合がほとんどだと思う。要するに、ハチの領分にヒトが入り込んでしまった場合だ。ぼくもこれまでに、ニホンミツバチ、セイヨウミツバチ、キアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、ホソアシナガバチなどに刺されたことがあるが、ほとんどの場合、余計なことをしたり、自分が不注意だったりした場合が原因になっている。要するに、ヒトの領分をはみ出してしまった結果だ。
 我が家にも毎年アシナガバチ類が巣をつくる。今年も既に、径が10センチ以上に大きくなっている。だからと言って、問題は全く生じていない。むしろ、アシナガバチの餌がたくさんあるような、良好な環境に住んでいることを喜びとして感じているぐらいだ。ヒトは自然を改変して住居にしているわけだが、自分の思い通りの環境にしようと考えるのは、ヒトの思い上がりだと思う。やはり、ヒトも生態系の一員として、自然の中に住まわせてもらっているという謙虚な気持ちを持つ必要があると思う。ヒトの領分を守って、ハチの領分を冒さないでさえいれば、それほどハチを恐れる必要は無いと思うのだ。
 以上は、アシナガバチ類を念頭においたものだが、人家に巣をかけるハチの中では、キイロスズメバチは攻撃性が高いので、そのままほっておくのは危ないと思う。素人が中途半端に手を出すのではなく、専門の業者に相談した方が良いと思う。
 おそらく、質問された方はここに書いたことに満足されないだろうと思うが、ぼくの良心をもって質問に答えるなら、ここに書いたとおりだ。

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コメント

 ハチの巣の除去ですが、専門業者に頼むとかなり高くつく場合もありますので、まずは役場に照会してみてはいかがでしょうか? また、自分で除去する場合、刺されてアナフェラキシーショックを起こすと、すぐに病院へ行かないとまずいことになります。私自身はアナフェラキシーショックは起こさないので、人に頼まれれば以下のようにして除去しています(それでもスズメバチだけでも100回以上は刺されています)。ただしこれはあくまで私の経験を書いているだけですので、実行するかどうかはご自分の責任で判断してください。
①アシナガバチの巣(開放的な巣)でしたら、キンチョール(昔ながらのキンチョールです。これ以外は私は使いません)を数秒ほど至近距離から巣に直接吹きかけます。この際に重要なのは、あらかじめ巣を刺激していないことです。一度巣全体が興奮してしまったら、一日ほど置いた方がいいです。あと、最も重要なことは、一度駆除を始めたら絶対にひるまないことです。中途半端で逃げたりしたらよけいにハチが興奮して始末に負えなくなります。生きたハチが視界からいなくなるまで噴射を続けます。
②スズメバチの巣の場合、オオスズメバチ以外でしたら比較的簡単です。まずはしっかりした厚手の雨具の上下を着て、頭には厚手の透明なビニル袋をかぶります。この袋は目のあたりを長方形に切り取り、視界や呼吸を確保するための金網などのメッシュをガムテープでしっかり取り付けておきます。手にはゴム手袋をはめます。あらかじめ巣の出入り口(1カ所)をよ~く確かめておくことも重要です。そしてキンチョールを両方の手で1本ずつ持ち、一方のキンチョールを巣の出入り口から巣の中に向けて噴射し、もう一方は帰ってくるハチに向けて噴射します。ピレスロイドの噴射を浴びたハチはたいてい即座に地表に落下するか、飛び去る途中で落下して死にます。この場合も、途中で決してひるまないことです。その後、私はいつも巣は除去しています(中をチェックするので)。オオスズメバチは地中に巣を作り、攻撃力が強いだけに安易な除去は決しておすすめしません。かなり覚悟を決めてかからないと人間の方が殺される可能性が高いです。
③蛇足ですが、殺したスズメバチを見ると、ネジレバネ(メス)がよくついています。クロスズメバチの巣の中にはオオハナノミの成虫などもよく見られます(秋口)。それと、ハチの成虫はピレスロイドには非常に弱いのですが、スズメバチの幼虫などはピレスロイドを浴びても平気で生きています。どこまで生きるのかは確かめたことはありませんが、手で餌(動物質)を与えさえすれば、少なくとも数日は生き続けます(そこで放棄しました)。もしかすると成虫までなるのでしょうか?

投稿: 南十字星 | 2008年8月 8日 (金) 22時32分

南十字星さん、フォローありがとうございます。蜂退治は職人芸の領域ですね。ちょっと前のことですが、とある虫に某ピレスロイド剤を撒いたら、すぐに痙攣して麻痺状態になり、何頭かはそのまま死んでしまいましたが、半数以上は麻痺状態から復活し、その後は何事も無かったかのように動き出しました。スズメバチは復活したりしないのでしょうか?

投稿: Ohrwurm | 2008年8月 9日 (土) 05時45分

南十字星さん、ご丁寧な返事をありがとうございました。蜂はたぶんアシナガバチ?のようですが、ちょっとだけ様子をみます。
生き物なので殺してしまうのもかわいそうなので・・・

投稿: YU | 2008年8月 9日 (土) 13時44分

Ohrwurmさん、YUさん
ピレスロイドを浴びたハチの成虫が復活した例は見たことがありません。少なくともハチ成虫に対しては即効的で非常に効果が高いです(それなのになぜ幼虫は死なないのでしょうか?)。オオスズメバチの巣の除去は、巣の中の幼虫(食べます)と美しく大きい新女王がほしいので、いつも殺虫剤はほとんど使わず、真剣勝負です。オオスズメバチには十分用心していますが、1回だけ顔を刺されたことがあります。ハチ刺されには強い体質ですが、それでも顔半分が垂れ下がるように腫れ上がり、口も開かなくなってしまいました。おまけに翌日は友人の結婚式でした。とほほのほ・・・

投稿: 南十字星 | 2008年8月10日 (日) 14時54分

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