第52回日本応用動物昆虫学会3日目
普段あまり飲まない酒を飲んで昨日はけっこう遅くなってしまい、疲れも溜まってくる頃でもあるので、どうなるかと思ったのだが、今日も目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。
今日いちばん楽しみにしていたのは、安藤喜一先生の講演だ。オオカマキリは雪予想なんぞしない、という話。今回の演題は「ありえない話 オオカマキリの雪予想」というもので、徐々に過激さを増してきている。去年の秋の昆虫学会やそれ以前の講演では、雪に埋もれるような場所にもオオカマキリがたくさん産卵することを確認したり、雪に埋もれたり、雪解け水に浸かったオオカマキリの卵がちゃんと孵化することを示したりするという、安藤先生ご自身の調査や実験の結果が報告されていたが、今回は酒井與喜夫氏が著書「カマキリは大雪を知っていた」の中で示したデータが恣意的なものであることを指摘したものだった。端的に言えば、野外で得られたデータに施された様々な補正の多くは恣意的なものであった、ということだ。恣意的な補正を施せば、相関があるとは言えないデータを相関があるかのように見せることは容易なことだ。前にも書いたが、これは生物学的な発想ではなく、工学的な発想だ。いずれにしても、酒井氏が雪に埋もれたオオカマキリの卵は死んでしまうという間違った思い込みを持ってしまったことが根本的な原因だが、これだけはっきりと問題点を指摘されても、ジャーナリズムが未だに酒井氏の説を鵜呑みにしている実態は、情けないとしか言いようが無い。
昼食に学生食堂に行こうとしたら、懐かしい顔が見えた。同じ大学で開催されていた日本農業経済学会に出席していたS君だ。同期に同じ職場に就職し、計8年間同じ職場にいた。ぼくが転勤して以来だから15年ぶりになる。色々と昔話や噂話に花を咲かせることができた。
小集会は「水田普通種の激減と長期残効殺虫剤」に出た。昨日の「応動昆で生物多様性を考える」の続編のような小集会だ。育苗箱で使用されるとある殺虫剤が水田に棲息するアカトンボやゲンゴウロウに大きな影響を与えているという実態が報告された。あちこち転居している関係で、アキアカネやナツアカネなどのアカトンボが激減しているという実感を自分で持つことはできていないのだが、昆虫同好会誌の編集をやっている関係上、そういう実態があることは知っていた。昨日の農生態系における生物多様性における問題点の本質も十分に理解できていないし、普通種がいなくなっているという実態についても、その問題点の本質は、やはり十分にできていない。生物多様性やアカトンボやゲンゴロウが何故必要なのだ、と問われた時に、ぼくはまだそれに対して答えることができないのだ。多様性が必要なのは、感覚的には理解できるのだが、論理的には何も理解できていない。そして、多くの人にとって、アカトンボがいなくなっても、その人の暮らしは何も変わりはしないだろう。
今年の応動昆の大会は、ぼくにとって、ここ数年で一番面白かったように思えた。発表内容が変わったのか、それともぼく自身の感じ方が変わったのかはわからないが。来年の応動昆に向けて、ぼく自身ももっと面白いネタを仕込んでおきたいものだ。その前に、昆虫学会もあるが。
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