三重昆虫談話会2008年総会
今日は午後から三重昆虫談話会2008年総会に出かけた。途中、偕楽公園の中を通ったのだが、花見の準備が着々と進み、茶店の設営がかなり進んでいた。津に引っ越して来たときは桜の花盛りで、初めて偕楽公園に行ったのも花見の季節だった。だから、公園の中に茶店があるのは当たり前のことかと思ったのだが、これはツツジの花が終わる頃までのことで、そのあと茶店は撤収され、梅雨時には空き地になってしまって、ああそういうものか、と思ったものだ。
話は変わるが、今朝、近鉄の津新町駅のちょっと南で、名古屋から大阪難波に向かう特急アーバンライナーに、踏切を突き破って車が衝突するという事故があり、近鉄名古屋線の名古屋発着の特急と、津新町と伊勢中川の間の全列車が止まっていたため、広い三重県のあちこちから集まってくるメンバーの何人かはこの事故のあおりを食って、会場に到着するのが遅れてしまった人もいたようだ。この車を運転していたのはボリビア人だということだが、何を血迷っていたのだろうか?
総会では、会務報告等のあと3題の講演があった。
- 官能健次:三重県のヒゲボソゾウムシについて
- 河野勝行:アシブトヘリカメムシとそれに便乗する卵寄生蜂の生態
- 間野隆裕:愛知県と三重県のレッドリスト選定ガ類について
ヒゲボソゾウムシの仲間は、あの養老孟司先生が熱心に調べているということは知っていたが、どんな虫なのかはよく知らなかった。ゾウムシに関して素人のぼくにとっては、お互いに似ていて、どこで種の識別をしているのかわからない状態だったが、三重県南部あたりでは、何種ものヒゲボソゾウムシが異所的に分布しているということだった。このあたりで、ひとつの種の分化が起こったことは疑いないところだろうが、まだまだわからないことがいっぱいあることのようだ。
アシブトヘリカメムシの卵寄生蜂の話は、既に論文に発表したものだが、口頭で発表したことは一度も無いので、この話が受けているのだかどうだか、まったく自分では把握できていなかったものだ。総会での講演を依頼されて、是非とも喋らせて欲しいとお願いした内容だ。
アシブトヘリカメムシは日本では先島諸島に分布している種で、非常に大型のカメムシだ。飛んでいる成虫を捕獲したところ、それに体長2mmほどの蜂が付着しているのに気が付いたのが話の発端だ。その蜂がカメムシの卵寄生蜂に違いないと直感して調べたところ、それは確かにカメムシの卵寄生蜂だった。アシブトヘリカメムシの季節的な生活史のこともよくわかっていなかったのだが、4月から7月にかけてはキク科のキールンフジバカマ(その後、「ヒマワリヒヨドリ」であることがわかりました。2009年12月11日追記)で繁殖し、7月から10月にかけてはリュウキュウコマツナギなどマメ科植物で繁殖することがわかった。季節的にカメムシが寄主植物を転換することは、一般的には寄生性天敵から逃避するのに有利に働くはずだが、カメムシにこの卵寄生蜂が便乗している割合は、寄主植物を転換しても季節とともに上昇した。つまり、この卵寄生蜂はカメムシの逃避戦略をすり抜けてカメムシの卵に寄生する手段を得ていることになる。
このあたりまではわかったのだが、どのようにして卵寄生蜂がカメムシを見つけるのかとか、カメムシも卵寄生蜂も見つからない冬の間、これらの虫たちがどのようにしているのかなどということは、まだわかっておらず、面白い研究テーマがいっぱい残されている。石垣島にまた住む機会があれば、調べてやりたいと思っているのだが、その機会が訪れる可能性は低いように思われる。
レッドリストに載せるか載せないかは、なかなか難しい問題だ。レッドリストの話は、随分前から話には聞いているのだが、今ひとつピンと来ない。間野さんのお話は、その苦労が伝わってくるような話だった。
総会のあとは懇親会に出たのだが、懇親会に出た人の中では、自分が最も若い世代であることにあらためて気付いて愕然とした。厳密に数えれば、自分よりほんの少し若い人が一人いたのが、学年は同じなので、自分がもっとも若いのには違いない。1学年上の人が2人いたし、それより少し上の人も数人いたので、それほど居心地の悪さを感じたわけではないのだが、それにしても30年以上も「若手」をやっているのは、かなり異常な感じがする。20代、30代のメンバーが欠けているのは、悩みのタネだと思う。虫のことを面白いと感じないのか、それともこういう会に入って交流するのを好まないのかわからないが、こうやって30年以上も楽しめる虫という趣味を通して同士と交流するのは、決して損をすることは無いと思うのだが。
まあ、とにかく、何らかの形で、虫を調べる、という文化を伝えたいと思うので、できる限りのことはやりたいと思う。
今日の会には、三重大学で長く教鞭を執られており、三重昆虫談話会にも深く関わっておられ、1995年に亡くなられた山下善平先生のご子息(と言っても、私より一回り以上年上)がご挨拶においでになった。このことは山下善平先生と三重昆虫談話会が非常に良い関係にあったことを証明している。最近の大学の先生は、昔より忙しくなったことは確かだと思うが、アマチュア同好者と関係を持たれる先生は少なく、大変寂しいことだと思う。アマチュアとプロの分断は不幸なことだと思う。以前、キノコの研究ではアマとプロがうまく共同歩調をとっているという新聞記事を見て羨ましく思ったものだ。
アシブトヘリカメムシの話は受けるかどうか、心配していたのだが懇親会の席で次のような話を聞いて、ちょっと嬉しくなった。三重の虫屋のベテランのNさんが、かつてルーミスシジミの母蝶を採ってきてケージの中で産卵させたところ、産まれたルーミスシジミの卵から寄生蜂が出てきたとのこと。このルーミスシジミの母蝶に卵寄生蜂が便乗していた可能性はけっこう高いのではないかと思う。アマチュアの蝶屋さんは、卵や幼虫や蛹から寄生蜂が出て来ると頭にきて捨ててしまうことが多いのではないかと思うのだが、生態学的には大変貴重なデータである可能性もあるので、簡単に寄生蜂を捨てないで欲しいと思う。
アシブトヘリカメムシの卵寄生蜂の原著論文は下記のとおり。興味を持たれた方は読んでいただきたいと思う。
・Kohno, K, (2002) Phoresy by an egg parasitoid, Protelenomus sp. (Hymenoptera: Scelionidae), on the coreid bug, Anoplocnemis phasiana (Heteroptera: Coreidae). Entomological Science 5 (3): 281-285. [on CiNii]
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
今日はお疲れ様でした。興味深いご講演ありあがとうございました。寄生性のハエなら葉に産卵するやつは多いとおもいますが、ハチの場合、それはあんまり考えられませんから、ルーミスもそのパタンであるような気がします。
投稿: ぱきた | 2008年3月 9日 (日) 23時24分
お疲れ様でした。2回連続で講演をお引き受け戴き大変、感謝しております。卵寄生蜂の話しも面白かったです。
卵寄生蜂が集中する個体があることに興味をそそりました。1回で産む卵塊数より蜂の方が多い時は蜂どうしでも熾烈な競争があるんでしょうか?
懇親会まで出席して戴き、こちらも感謝しております。総会同様こちらも盛況で幹事としても嬉しい次第です。名誉会長もとても喜んでおられました。
では お礼まで
投稿: しろへり | 2008年3月10日 (月) 08時03分
8時前に桑名では雷が数発轟きました。
9時頃からは日が射してきて、雲雀がさえずっています。
昨日は所用で滋賀に出かけました。琵琶湖は春霞。比良山脈は雪をかぶって、大変綺麗でした。
というわけで、楽しみにしていた小牧の吉坊一人会は行けなかった次第。
投稿: chunzi | 2008年3月10日 (月) 09時21分
ぱきたさん、しろへりさん、コメントありがとうございました。やはり、虫屋どうしの「濃い」話ができることは楽しいです。ありがとうございました。
chunziさん、吉坊一人会は残念でしたね。まだ若い人やし、これからなんぼでも機会があるんやないでしょうか。ぼくも一度行ってみたいですね。最近ちょっと気になっているのは吉の丞さんです。米平さんも。
投稿: Ohrwurm | 2008年3月10日 (月) 20時30分
http://gifu.cool.ne.jp/anapol/nichijo-seikatu.htm#交通事情
ボリビアの交通事情です。さもありなん。
投稿: 熊80 | 2008年3月11日 (火) 11時49分
熊80さん、ご紹介ありがとうございます。
ふと思い出してみれば、普段は「東南アジアはええなぁ」などと思っていましたが、交通事情に関してはかなわんなぁ、と思います。
投稿: Ohrwurm | 2008年3月11日 (火) 22時24分