第149回日本昆虫学会・第86回日本応用動物昆虫学会合同東海支部講演会
今日は名古屋の金城学院大学で開催された第149回日本昆虫学会・第86回日本応用動物昆虫学会合同東海支部講演会に出かけた。始めは講演を聴くだけのつもりだったが、申込締切ギリギリになってから、せっかく行くのだから、と思って石垣島在住時代のネタで講演することにした。
講演は一般講演のみで9題。なんとそのうち7題がハチに関する講演だった。社会性の狩蜂の生態や行動に関するもの2題、マルハナバチに関するもの2題、施設栽培イチゴの授粉にかかわるミツバチに関するもの1題、ウンカの幼虫に寄生するカマバチの生態に関するもの2題。ハチ以外では、日本におけるウスバシロチョウの地理的な遺伝的な違いに基づく日本列島への侵入の過程を推測したもの。それと、ぼくによる石垣島に棲息するマダラナガカメムシ亜科に属するカメムシの寄主植物と生態に関するもの。
石垣島に住んでいたのは、もう4年も前のことだが、まだ公の場で話していなかったり書いていなかったりすることがたくさんある。今回のネタは、論文にするにはちょっと足りないが、何も残さないことにするにはちょっと惜しいネタだった。石垣島のネタを東海支部で話すのは、ちょっと場違いな感じもしたが、まあそれは許していただくことにしよう、と勝手に考えた。
マダラナガカメムシ亜科というのは、ナカガメムシ科という大きな分類群の一部で、赤と黒を基調とした警告的な色彩の派手な種が多い。また、寄主植物として、キョウチクトウ科やガガイモ科などの有毒な成分をもつ植物に依存しているものが多い。しかしながら、これまでに、南西諸島のこの分類群の寄主植物に関する知見は断片的なものしかなかった。これをまとめて、それぞれの種が、近縁な寄主植物を利用しながらも、それぞれ異なった寄主植物に依存していて、一部の移入種である植物に複数の種が依存しているものの、在来の植物には1種ずつが特異的に依存していることが明らかにした。もっとも、アカナガカメムシだけは、在来の寄主植物が見つからず、移入種であるキバナキョウチクトウに依存している。
これらのカメムシ類はすべて東南アジアに分布の中心があるため、ほとんどの種は休眠性を持たないように思われたが、ヒメマダラナガカメムシだけは冬に寄主植物以外の場所で集団をつくっているのを見たので、休眠性を獲得しているのかも知れない。この部分は話しそびれてしまったが、石垣島に分布しているこの仲間で一番北方まで分布しているのはヒメマダラカメムシであり、分布を北方に拡げられたのは、休眠性を獲得したからかも知れない。
この講演会には学生さんから、もう20年も前に大学を退官された先生まで参加されていたが、去年の12月に開催された日本鱗翅学会東海支部会の講演会と比べると、参加人数がやや少なく、より広い分類群を扱っている学会としては、ちょっと寂しく感じられた。会場が広かったせいでそのように感じたのかも知れないが。
講演会のあと、簡単な懇親会が開かれたが、そこでは80歳を超えられたS先生から、戦中戦後の米が無かった時代の食料事情と農薬の話を聞かせていただき、時代の変化を感じさせられずにはいられなかった。
この写真は、ヒメアカナガカメムシ。冬に寄主植物のホウライカガミの葉に大きな集団を作っているもの。幼虫も混じっているので、おそらく越冬のために作られた集団ではなく、そこで多量に繁殖した個体が集まってしまったものだと思う。
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コメント
こ、これは凄いですね…沖縄のカメムシはたまに物凄い数が集まっているのを見かけますが、感動的というか怖じ気付くというか。
投稿: まーしゃる | 2008年3月 2日 (日) 06時59分
まーしゃるさん、こんにちは。
昨日まではそこそこ元気だったんですけど、風邪がぶり返してきたのか、また不調です。
そう言われてみれば、カメムシが植物の上で大集団を作るのは、日本では南西諸島特有の現象かも知れないですね。
アカギカメムシ、ナナホシキンカメムシなんかはよく知られていますけど、思い当たるのがいくつもあります。
ヒメアカナガカメムシの大集団を見たのは、これ一回きりです。小集団を見たことは何度もありますが。
投稿: Ohrwurm | 2008年3月 2日 (日) 22時20分
地道な研究をされるものですね。
アカナガカメムシは移入種なのでしょうか。
キョウチクトウのアルカロイドを食べた鳥が死ぬようなことはありませんか?
投稿: 熊80 | 2008年3月 4日 (火) 09時35分