石垣島紀行第2日目(7月31日)その2
(石垣島紀行第2日目(7月31日)その1から続く)
家族を昔住んでいた団地へ送り届けてから一人で於茂登岳登山口へ。登山口に着いたのは午後3時20分頃。まだ暑い盛りだ。セミの鳴き声はヤエヤマニイニイ Platypleura yayeyamana Matsumura, 1917 の鳴き声だけしか聞こえない。ふと張り出した木の葉を見るとコノハチョウ Kallima inachus eucerca Fruhstorfer, 1898 がいた。やはり懐かしく感じられる。
山道を歩いていると虫は少ないものの、何がしかの虫が目につく。ときどき道の脇から、ピューンと勢い良く飛び出すものがあった。何かなぁ、と思ってみて見るとイシガキモリバッタ Taulia ornata ishigakiensis Yamasaki, 1966 だった。モリバッタは跳ねることはできるが飛ぶことはできない。しかし、この跳ねる勢いを見ると、それなりの飛べなくても飛ぶのと対して違わない跳躍力があるように思われた。石垣島に住んでいた頃、モリバッタなどにはあまり注意したことが無かったのだが、意外なことに気付かされた。
さらに山道を歩いているうち、何か様子が違うのに気が付いた。何が違うかと言えば、森の中がスカスカに感じられるのだ。要するに、森の下生えの灌木の密度が低くなっていて、高木の幹が白く目立つのだ。おそらくこれも、去年の台風13号の残した爪痕なのだろう。
地面も乾燥している。いつもは歩くとき、道に生える苔などに注意しながら歩かなければ行けないのだた、今回は道もカラカラに乾燥していて、足を滑らす心配など全く無かった。そんななかにも、いつも湿った所にいるヒメヤツボシハンミョウ Cicindela psilica luchuensis Brouerius van Nidek, 1957 を辛うじて見つけることができた。後にも先にもこれ1頭だけだったのだが。
森の密度が低くなっているので、多少は風通しが良かったのだろうと思うが、さすがに気温が高く、飲み物を飲んでも次から次へと汗になって吹き出してくる。その汗が臭いこと臭いこと。途中水場は少ないのだが、最後の給水ポイントのところで一息ついて、顔もあらって多少はさっぱりした。
最後の給水ポイントを過ぎると急な坂が続く。これを登りきると尾根に出て風が期待できるので、もう少しの辛抱だと思って登る。まだまだ上り坂が辛いはずだが、もう少しだと思うと元気が出る。
ほぼ急な坂を上りきったあたり、道の脇の木を見るとイシガキヒグラシ Tanna japonensis ishigakiana Kato, 1960 を見つけた。すると、上から降りてきた家族連れにすれ違った。「何がいるのですか?」と訊かれたので、「イシガキヒグラシというセミで、この鳴き声を聞くために登ってきたんですよ」と言うと、感心されてしまった。地元の人で山に登るひとは大変少ないので、珍しいと思いながらちょっと話を訊いてみると、小学校の自由研究で山の生き物を見にきたとのことだった。小学生の息子さんは、うちの長男が卒業した小学校に通っているとのこと。せっかくなので、イシガキヒグラシの写真を撮ってもらおうと思ったのだが、そのお父さんが持ったデジタルカメラは電池切れで役に立たなかった。
尾根に出てからも坂はきついのだが、風がよく通るので、登っていてもそれほど苦にならない。しかし、鳴き声が聞こえるのはヤエヤマニイニイばかりだ。とにかく山頂へ急ぐ。ところが、ふと気が付くと、何とツマグロゼミの鳴き声が聞こえた。ツマグロゼミ Nipponosemia terminalis (Matsumura, 1913) は春のセミなので鳴き声を聞けるとは全く予想していなかった。運が良いとしか言いようがない。さらに先を急ぐ。
午後5時25分頃に山頂に着いた。山頂の無線鉄塔は昔どおりだ。ところが、三角点のところまで行ってみると、噂に聞いていたとおり、リュウキュウチクが刈り払われて見晴らしが良くなっていた。何と、ウマヌファ岳や桴海於茂登岳が目の前に見えるのだ。於茂登岳の山頂はなだらかで、さらに背丈の高いリュウキュウチクに覆われているので、見晴らしが悪いのは仕方がないと思っていた。おそらくリュウキュウチクを刈り払った人も、善かれと思ってやったことなのだろうが、自然とはどういうものか、ということに対して配慮を欠いていたことに間違いはない。
夕方6時を過ぎた頃になってやっとタイワンヒグラシ Pomponia linearis (Walker, 1850) の鳴き声が谷の底の方から聞こえ始めた。だんだん鳴き声が賑やかになり、山頂付近でも鳴き出した。持参したポータブルMDレコーダーで録音する。やがてイワサキヒメハルゼミ Euterpnosia iwasakii (Matsumura, 1913) と待望のイシガキヒグラシの鳴き声も聞こえ始めた。イシガキヒグラシの鳴き声が聞こえ始めた時刻は午後6時20分頃だった。これらの鳴き声も録音する。
山頂付近でのセミの合唱を堪能し、そろそろ下山しようかと思って歩き始めると、目の前の木の低い所にタイワンヒグラシが止まって鳴き出した。これも録音して撮影する。山麓でタイワンヒグラシの間近で見ることは難しいので、これだけでも山を登ってきた価値があったと感じる。
下山するには、途中何もしなくても、1時間近くかかってしまう。この時刻に下山すれば、登山口に着く頃にはかなり暗くなっていると予想される。懐中電灯は持ってきているが、とにかく早足で下山する。
最後の給水ポイントのあたりでも、イシガキヒグラシとタイワンヒグラシとヤエヤマニイニイとイワサキヒメハルゼミの鳴き声が聞こえる。とにかく汗が臭いので、最後の給水ポイントの水場で顔を洗う。
さらに下った所に「頂上まで25分」という標識板がある。そのあたりでもかなりの数のイシガキヒグラシが鳴いていた。ここで時間を使えば麓に着く頃にはさらに暗くなってしまうのは明白だが、ここでもイシガキヒグラシを撮影して鳴き声を録音する。
さらに下り、滝への分岐あたりに来ると、セミの鳴き声はヤエヤマニイニイだけになり、さらに下って暗くなると、セミはすべて鳴き止んでしまった。登山口に着いたのは、辛うじて薄明かりが残っていた午後7時40分頃。
思い出してみれば、昼に嵩田植物園でトンカツ定食を食べて以来、飲み物はたくさん飲んだが食べ物は何も食べていない。体がほてって食欲もあまり無いので、とにかくそのまま街に戻ることにした。宿に戻ってもあまり何も食べる気がしないので、山に持参した嵩田植物園製の「黒糖甘餅の天麩羅」を食べた。家族はA&Wで食事をし、ルートビアを飲んだとのことだった。そんなことだったら、A&Wに行けば良かったと、若干後悔した。
とにかく疲れたが、充実した一日だった。
(石垣島紀行第3日目(8月1日)その1へ続く)
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